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コラム

「知財・無形資産ガバナンス」の実践と普及に向けた取組み
第4回

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

本コラムでは、知財・無形資産経営者フォーラム、知財ガバナンス研究会、戦略法務・ガバナンス研究会創設の狙いについて、8回にわたってご紹介しています。
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2.3 価値創造ストーリーの構築
 さらに、3.の価値創造ストーリーの構築では、先に説明した図2の左図のように、経営ビジョンのあるべき姿(To Be)からバックキャストして、現在の姿(As Is)からの成長ストーリーを策定するものである。そのストーリーの策定においては、ビジネスモデルに知財・無形資産の投資・活用戦略を位置付けて、「企図する因果パス」を描き、競争力や成長力やリスク対策をビルドインすることが重要になる。
 この「企図する因果パス」は、ガイドラインのP29-32で説明しているが、筆者は「価値創造プロセスにおいて、事業ビジョンを実現するビジネスモデルを構築するために、必要となる知財・無形資産をいかに獲得し、事業でどのように活用するかの因果関係を明確化して、事業の競争力を確保し、事業収益を獲得して持続的な成長を実現するもの」と解釈している。すなわち、この企図する因果パスは、「人財・組織や知財・無形資産等の非財務情報をいかに活用して、将来の財務情報(売上利益、 PERなど)が得られることを確信させる羅針盤」であると考えられる。
 この「企図する因果パス」を策定することにより、ビジネスモデルにどのような競争優位(障壁)を構築していくかを確認できる。たとえば、コア技術の特許網構築やノウハウの秘密管理、顧客へのブランド浸透、データ収集・分析の独占などを考え、それらを実現するために、いかなる研究開発や事業の協創、提携、企業のM&Aなどを実行するかや、それらに対する知財リスク対策などを可視化し、経営戦略を分析することができる。
 この因果パスを知財ガバナンス研究会で分析し、ガイドラインで事例として取り上げたキーエンスの活動は、以下の図3に示すように、顧客の潜在的なニーズをウォッチし、これらに共通する解決手段を開発し、その特許取得とノウハウを取得し、業界初や世界初となるような新製品を生み出している(*1)。これらに対し他社を差別化する競争優位を獲得し、早期に事業展開を行い、顧客満足を獲得することで相見積を回避して、高いシェアと収益性を確保しているものと分析した。

図3 (株)キーエンス 新商品創造における企図する因果パス
(知財ガバナンス研究会による想定事例)

キーエンスに限らず、高い利益率を確保しつつ成長を続ける多くの企業では、コアコンピタンス(他社にはマネできない核となる能力)となる技術やノウハウ、ソフトウェアを生かして製品やサービスを提供している。そして事業を通じて創り出したブランド、顧客ネットワーク、データなどを組み合わせ、顧客満足を獲得し、他社の障壁となる知財・無形資産による因果パスを構築している。このため、知財部門には、経営ビジョンのあるべき姿(To Be)に対して、その対象市場、想定顧客、競合等の参入企業を予測し、IPランドスケープを活用して、知財の出願状況、顧客のニーズ・競合会社の動向や、先行事業者の存否等を分析し、知財・無形資産の投資・活用戦略を策定していくことが求められる。

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(*1) 「付加価値のつくりかた」田尻 望 (著)かんき出版(2022年)

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