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コラム

サステナビリティ・ガバナンスについて⑤

HRガバナンス・リーダーズ プリンシパル
神山 直樹(こうやま なおき)

ダボス会議「グローバルリスク報告書」のリスク要因について

 前回のコラムでは、企業のマテリアリティ特定に際して、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)「Global Risks Report(グローバルリスク報告書)」で挙げられたリスクを考慮してみるのも重要ということについて触れました。企業が属するセクターにおける固有のリスクもさることながら、セクターを問わず広くグローバルで念頭に置かれているリスクに対しても配慮することが、サステナビリティ経営には重要という観点からでした。
 前回も触れたように、「Global Risks Report(グローバルリスク報告書)」2024年版においては、「今後2年間でのリスク要因」として、2024年に実施されるアメリカ大統領選挙などを念頭にした「誤報と偽情報(1位)」や「社会の二極化(3位)」に対するリスク感度が急速に高まっていることがわかりました。また、「今後10年間の10大リスク」においては「異常気象(1位)」、「地球システムの危機的変化(気候の転換点)(2位)」、「生物多様性の喪失と生態系の崩壊(3位)」、「天然資源不足(4位)」、「汚染(大気、土壌、水)(10位)」など、近年では当たり前として捉えられるようになって来た環境リスク項目が、その半数を占めていました。
 下の図は、グローバルリスク報告書で2020年から2024年に挙げられた「今後2年間でのリスク要因」です(緑:環境、赤:社会、紫:テクノロジー、橙:地政学、青:経済、2020年と2021年は5つのリスク)。

 2020年からの本格的なコロナウイルス感染症の広がりを受け、2021年や2022年では感染症とそれに伴う社会リスク要因が多く挙げられていることがわかります。その後2023年以降にコロナウイルス感染症がコントロール可能な感染症となるにつれ、感染症関連のリスクは姿を消し、インフレや社会の二極化や対立に伴うリスク要因が増えてきています。2024年においては、この傾向がさらに進み二極化や対立や分断、さらにテクノロジーに関係するリスクに変遷して来ていることがわかります。
 しかし感染症は有史以来、人間にとって脅威であり続けています。抗菌剤として有名なペニシリンが発見されたのが1928年ですので、感染症に対する武器を人間が手に入れてからまだ100年も経っていません。その後も新しい細菌やウイルスによる感染症と人間のいたちごっこに終わりはありません。2019年のコロナウイルス感染症の前にも、2003年にはSARS(重症急性呼吸器症候群、これもコロナウイルス感染症の一種)、2008年にはMERS(中東呼吸器症候群、同様にコロナウイルス感染症の一種)の世界的な流行があったことから、また数年後にはこの歴史と傾向を繰り返す可能性も否定できません。感染症リスクは、現在のグローバルリスク報告書からは姿を消しているものの、避けては通れない課題だといえます。

 こうしたことからも、現在のグローバルリスク報告書には表れていない感染症以外の項目に対しても、短期と中長期とでリスク要因として捉えておく重要性がここにあります。

 ここで特に、「今後2年間のリスク要因」にみられるように期間が短い場合、そのリスク要因が選出される際、その時々の時代背景(感染症、インフレ、紛争、選挙など)に大きく影響を受けていることがわかります。企業がリスク要因を洗い出す際に近視眼的にならないようにするためには、3年から5年の中期経営計画の策定期間においては、目先2年間のリスク要因に配慮することはもちろん重要である一方で、次の中期経営計画や長期計画の策定なども見据えた際には、ダボス会議における今後10年のリスク要因を視野に入れておく必要があります。
 下の図は、グローバルリスク報告書で2020年から2024年に挙げられた「今後10年間でのリスク要因」です(緑:環境、赤:社会、紫:テクノロジー、橙:地政学、青:経済、2020年と2021年は5つのリスク)。

 今後10年間でのリスク要因の変遷を眺めてみて明らかなことは、環境関連のリスク要因が多いということです。これはすなわち、経済活動をも含めた人間活動が持続的であるためには、地球環境が持続的でなければならないということを示しています。企業の持続性と地球・社会の持続性の両立を考えることが、サステナビリティ・ガバナンスにおいては重要であると考えます。
 当然ながら、環境分野以外にも考慮すべきリスク要因や解決すべき社会課題は山積しています。企業がイノベーション創出を通じてこうしたリスクを低減し、社会課題を解決していく努力やそこへの投資も重要で、ここにこそ企業の成長力の源泉があるものと思われます。

 次回は、2023年度の本コラムの振り返りを行いたいと思います。

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