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コラム

サステナビリティ・ガバナンスについて④

HRガバナンス・リーダーズ プリンシパル
神山 直樹(こうやま なおき)

サステナビリティ委員会の運営

 前回のコラムでは、サステナビリティ委員会を設置し、どのように対外的に開示していけば良いかという、実際の運用に入るまでについて書きました。サステナビリティ委員会の設置については、①既存のCSR委員会やESG委員会の再定義からの設置と、②IR(Investor Relations、機関投資家エンゲージメント)やSR(Shareholder Relations、株主エンゲージメント)やその他ステークホルダーとのエンゲージメントで頂いた社外の声を社内にフィードバックする形からの設置、という大きく2つの経緯があることもお示ししました。
 ではサステナビリティ委員会を設置した後で、その運営をどうしていけば良いかという問題が挙がってきます。
 その中でも特に問題となるのは、アジェンダの設定についてではないでしょうか。委員会の回数や時間にも制約がある中で、年間を通して、アジェンダとして何を掲げ、何を議論していくのかが、重要になってきます。ここでヒントの一つとして、2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、取締役会で扱うべきボード・アジェンダについて体系化されてきたことが挙げられます(下図参照)。

 パーパス、SDGs、環境的価値、社会的価値、マテリアリティ、長期ビジョン、サステナビリティ基本方針、サステナビリティ戦略など、サステナビリティ委員会で取り上げるべき多くの内容が、ボード・アジェンダに組み込まれるべき内容とされていることが見て取れます。この中でもマテリアリティの特定については、サステナビリティ委員会の関与度が大きいアジェンダの一つということができるでしょう。事業特性に応じて、その企業を取り巻く環境は大きく異なります。その環境の中で自社のマテリアリティを特定し、社会課題を解決し、最終的に経済的利益を持続的に生み出し、また再投資していくという好循環を回していく必要があります。
 そのためには、自社やその属するセクターで重要視されているものをマテリアリティの候補に入れることが特に重要です。得意分野で社会課題を解決していくことが、企業と地球社会の共存共栄には欠かせないからです。しかし、近視眼的に自社やその属するセクターのみを見ている訳にもいきません。より上位の社会課題がどのようなものであるか、常にアンテナを広く張り巡らせておく必要もあります。
 そこで参考になるのが、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)における「Global Risks Report(グローバルリスク報告書)」です(緑:環境、赤:社会、紫:テクノロジー、橙:地政学、青:経済 )。2024年版においては、今後2年間でのリスク要因として、今年実施されるアメリカ大統領選挙などを念頭にした「誤報と偽情報(1位)」や「社会の二極化(3位)」に対するリスク感度が高まっていることが注目されます。その他にも、「国家間武力紛争(5位)」やこれに伴う「非自発的移住(8位)」なども、ウクライナやパレスチナなどが想定されていると思料されます。環境分野では「異常気象(2位)」、「汚染(大気、土壌、水)(10位)」がランク入りしていました。

 今後2年間のリスクとしては環境分野ではこの2項目のみであったものの、今後10年間の10大リスクにおいては「異常気象(1位)」、「地球システムの危機的変化(気候の転換点)(2位)」、「生物多様性の喪失と生態系の崩壊(3位)」、「天然資源不足(4位)」、「汚染(大気、土壌、水)(10位)」と実に半数の5項目が環境分野でのリスクとなっていました。今後10年間のリスクにおける環境分野での特性を理解した上で、自社のマテリアリティ特定に活用していくことは、中長期の社会課題解決のために重要であると思われます。
 このように、より上位の社会課題がどうなっているのかを把握し、サステナビリティ委員会において自社のマテリアリティ特定などに活用していくことで、持続性のある成長戦略につながり企業価値の向上という好循環を生み出せるものと考えます。

 次回は、ダボス会議のグローバルリスク報告書について、過去のものも含め、もう少し詳細に踏み込みたいと思います。

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