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コラム

サステナビリティ・ガバナンスについて③

HRガバナンス・リーダーズ プリンシパル
神山 直樹(こうやま なおき)

サステナビリティ課題に対するガバナンスの重要性

 前回のコラムでは、サステナビリティ課題をガバナンスに統合するためにサステナビリティ委員会(執行側、監督側)の設置が重要ということを書きました。UNEP FI(国連環境計画 金融イニシアティブ:United Nations Environment Programme Finance Initiative)の提唱した「統合ガバナンス」のコンセプトにおいても、サステナビリティ課題を扱う専門の委員会の設置が必要だということになっていました。
 ではどのようにして委員会を設置し、サステナビリティ・ガバナンスを推進して行けばよいのか、という所で前回のコラムは終わっていました。その話に入る前に少々、サステナビリティ・ガバナンスにおける最近の動きをおさらいしておきましょう。

 ここで重要だと思われるのが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Climate-related Financial Disclosures)です。
 TCFDが掲げる4つの開示基礎項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)においても、「ガバナンス」は特に重要とされています(参考:環境省21年6月「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要資料」5ページ)。そこでは、「(気候関連の)リスク及び機会についての取締役会の監視体制を説明する」こと「(気候関連の)リスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する」ことが求められています。
 TCFDは気候関連の財務情報開示の推進を目的としていますが、気候関連以外のサステナビリティ課題についても、取締役会の監督体制(サステナビリティ委員会の設置を含む)や経営者の役割の明確化が重要であることは明らかです。TCFDのフレームワークを用いた、気候変動以外のサステナビリティ課題の開示が今後進むことが決まっています(下図参照)。

 企業担当者さまの立場として、2021年6月のCGコード改訂からこれまで2年ほどの間、TCFDに対応するため様々なご尽力があったものと推察されます。また、TCFD開示を進める中で、多くの気づきもあったことと思います。実はこのTCFD開示対応の中にこそ、サステナビリティ・ガバナンス体制構築に向けての多くのヒントがあると考えます。
 では、実際にどのようにしてサステナビリティ委員会を設置してサステナビリティ・ガバナンスを推進して行くのか、その過程を見てみましょう。

サステナビリティ委員会の設置

 委員会の設置については、大きく2つのパターンを挙げることができます。
 第一に、制度や開示に対する時代の変化に対応する形での設置が挙げられます。2021年6月11日改訂の金融庁「投資家と企業の対話ガイドライン」では、第1章「1.経営環境の変化に対応した経営判断」の3番目の項目において、サステナビリティに関する委員会を設置することが期待され、また同日改訂のCGコードにおいても、プライム市場上場企業にはTCFD開示対応が半ば義務化されたことなどがこれに該当します。この中では、TCFDが推奨する開示項目において、「ガバナンス」について記載することとなっていました。気候変動に関する課題にどのようなガバナンス体制で対応していくのかについての開示です。その際、多くの企業では気候変動に係る社内の取組みや情報を統括するためにサステナビリティ委員会の設置を検討してきたという流れがありました。また、この時に既存のCSR委員会やESG委員会などがあった場合、これら既存の委員会の再定義を検討する形でサステナビリティ委員会を設置した事例もあります。

 第二に、社外の声を反映させる形での設置です。最近は、サステナビリティに造詣の深い社外取締役の人数も増えて来ています。これらの方々が過去に他社でサステナビリティ委員会を設置・運営してきた経験や知見を自社に活用させて頂きながら、委員会の設置に向かうという流れです。また、IR(Investor Relations、機関投資家エンゲージメント)やSR(Shareholder Relations、株主エンゲージメント)やその他ステークホルダーとのエンゲージメントで頂いた社外の声を社内にフィードバックする形で、サステナビリティ委員会の設置に繋げた事例もあります。

 ここ数年において、(まずは執行側に)サステナビリティ委員会を設置した企業が急増している背景は、まさに上に示したような動きがあったためと考えることが出来ます。
 ちなみに、各社がサステナビリティ委員会についてどのような開示をおこなっているかについては、金融庁のEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券等の開示書類に関する電子開示システム)や日本取引所グループのTDnet(適時開示情報閲覧サービス)などから、「サステナビリティ委員会」と検索することで、閲覧可能です。これらの情報から、各企業がサステナビリティ委員会設置に至った背景などを読み解くことも出来ますので、サステナビリティ委員会設置の参考にされてみては如何でしょうか。

サステナビリティ・ガバナンス改革の意義

 ここまで見てきたように、TCFDなどを発端として企業におけるサステナビリティ委員会の設置の流れが加速して来ています。まずは多くの企業に関連する気候変動という観点を皮切りに、サステナビリティについて自社でどのように捉えていくかが問われたと言えるでしょう。また既に述べたように、TCFDのフレームワークに沿った、気候変動以外のサステナビリティ情報の開示についても今後ますますその流れが加速して来ることは明らかです。
 自社の存在意義、パーパスは何なのか。パーパスを具現化するために必要なマテリアリティの特定と長期戦略策定の実施など、サステナビリティ・ガバナンスにおける取組みは始まったばかりです。CGコードにおけるガバナンス強化と、サステナビリティ・ガバナンスの取組みをアラインさせていくことが求められます(下図参照)。

 次回は、サステナビリティ委員会の実務的な内容に踏み込んで行きたいと思います。

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