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コラム

「知財・無形資産ガバナンス」の実践と普及に向けた取組み
第3回

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

本コラムでは、知財・無形資産経営者フォーラム、知財ガバナンス研究会、戦略法務・ガバナンス研究会創設の狙いについて、8回にわたってご紹介しています。
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2.知財・無形資産の投資・活用戦略(7つのアクションと企図する因果パス)の実践方法
 このような投資環境の変化を受け、企業が持続的に成長していくために、経営者やそれを支える戦略部門がなにを実践すべきかについて、ガイドラインの「7つのアクション」に基づき解説する。
 ガイドラインでは、以下の図2に示すように、現在事業の強みである知財・無形資産を的確に把握し、それらと将来の事業で目指すべき姿で必要となる知財・無形資産と照合して、そのギャップを解消するために、どのように知財・無形資産を獲得・強化するかの投資判断を行い、そのために経営資源を配分し、価値創造プロセスを実行すべきと提示している。
 この7つのアクションとは、図2の右図に示す各項目であり、その1から4では、投資・活用戦略の進め方を説明し、5では、戦略実行体制の構築、6で、その戦略に対する情報開示を記載し、7で、投資家との対話り戦略を錬磨することの重要性が示されている。。
 以下のこれら各項目での実践方法などについて、取組み事例等を交えて解説する。

図2 事業ビジョン達成に向けた成長ストーリーと知財・無形資産戦略の関係

2.1 現状の姿(As Is)の把握
 この投資活用戦略を実践するためにまず行うべきことは、1.現在の経営・事業の強みを正確に把握することである。経営者が、将来ビジョンとして、既存事業の拡大や新事業の創造、M&A等による経営体制の強化を検討するために、現在保有している事業のコア価値を把握し、事業で活用していくことが、事業経営の原点となる。
 たとえば、富士フイルムが、写真フイルムの開発、生産を通して得た抗酸化技術、薄膜形成・加工技術などの様々な技術を棚卸した上で、化粧品やバイオ医薬・再生医療の分野に新規参入し、成功を収めたことは著名である(*1)。また、荏原製作所が「荏原グループ技術元素表」(*2)として自社の技術や人財を、元素記号を用いるようにわかりやすくホームページで公表してオープンイノベーションを促し、成長戦略に活用している例も注目度が高い。
 このとき、知財部門も、経営者を支える戦略部門と認識して、IPランドスケープを駆使し、現在の強みである知財・無形資産の事業性や知財力の優位性を評価し、「知財・無形資産ミックス」により網羅的に参入障壁となる「経済的な堀」が構築できているかを分析することが必要になる。

2.2 重要課題の特定と戦略の位置付けの明確化
 次に、2.では、企業は、技術革新や環境・社会をめぐるメガトレンドを踏まえ、自社の存在意義をパーパスとして設定し、その実現に向けた重要課題(マテリアリティ)を特定した上で、注力すべき知財・無形資産の投資・活用戦略の位置付けを明確化することを規定している。 たとえば、コニカミノルタでは、「マテリアリティの評価・特定プロセス」(*3)において、機会側面と利益貢献の両面から事業戦略のあるべき姿とその重要課題を明確にしている。
 この重要課題に対しては、今後の経営戦略として事業ポートフォリオをいかに変革するかを踏まえ、既存事業の市場開拓や新事業創造のチャンスと、事業の競争力低下や陳腐化等の経営リスクの両面から分析した上で、経営ビジョンを策定する。このとき知財部門は、この経営ビジョンの実現に必要な知財・無形資産に対する獲得強化策(R&Dや提携・M&A等)と、リスク対策(知財網構築と知財活用、技術漏洩や侵害の防止等)などの知財活動項目を検討することが必要になる。

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(*1) 富士フイルムホールディングス株式会社 統合報告書(2023年):https://ir.fujifilm.com/ja/investors/ir-materials/integrated-report/main/00/teaserItems1/01/linkList/0/link/fh_2023_allj_a4.pdf
(*2) 株式会社 荏原製作所 ホームページ「荏原グループ技術元素表」:https://www.ebara.co.jp/technical-personnel/index.html
(*3) コニカミノルタ株式会社 ホームページ「マテリアリティの評価・特定プロセス」:https://www.konicaminolta.jp/about/csr/process.html

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