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コラム

「知財・無形資産ガバナンス」の実践と普及に向けた取組み
第2回

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

本コラムでは、知財・無形資産経営者フォーラム、知財ガバナンス研究会、戦略法務・ガバナンス研究会創設の狙いについて、8回にわたってご紹介しています。
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1.知的財産を「稼ぐ力」とした企業経営の実現に向けて
 日本経済新聞社HP掲載の「私たちがコードに『知財』を盛った訳」(*1)において、同社 渋谷高弘編集委員は、金沢工業大学院 杉光一成教授や筆者と共に、CGC改訂で知財投資を追記する活動をした目的を「日本企業が知財を中核として経営を実践し競争力を復活することである」と解説している。このCGC改訂によって日本企業が知財ガバナンスに積極的に取り組み、経営活動として実践していくべきことが明確化された。
 そこで、内閣府と経済産業省は、2021年8月に「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(以下「検討会」という)を発足し、筆者も委員として携わり、2022年1月にガイドラインver1.0を公表した。このガイドラインでは、今後、日本企業の経営者がいかなる視点から知財ガバナンスに取り組み、どのような投資・活用戦略を実行し、投資家と建設的な対話を行うかについて解説している。
 特に、企業が経営で実行すべき指針として、「5つのプリンシプル」で、知財・無形資産を価格決定力やゲームチェンジにつなげていくべきとの考え方が示され、「7つのアクション」で、その実現に向けた知財・無形資産の投資・活用戦略(コア価値の獲得・強化策)やガバナンス体制の在り方など、次章で詳述するような知財ガバナンスに対する行動指針が示された。

 さらに、翌年の2023年3月にガイドラインver2.0が公表され、「企業と投資家・金融機関の価値協創を支えるコミュニケーション・フレームワーク」が提示された。これでは、企業の成長ストーリーの可視化と、それを実現する「企図する因果パス」、更にこの因果パスを事業活動にビルドインし、その活動実績などを監督するための手法(ROIC逆ツリーなど)を解説している。
 また、このガイドラインがスコープしている「知財・無形資産」とは、知財権だけでなく、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これらを生み出す組織能力・プロセスなどにまで拡げている。これらの活用戦略は事業競争力を確保し、持続的な成長を実現する「経営活動」と定義して、すべての業種の企業経営者が積極的に取り組む必要があることを明記している。
 このように、知財ガバナンスの重要性については、東京証券取引所が、2023年3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(*2)を公表し、「成長の実現に向けた知財・無形資産創出につながる研究開発投資・人的資本への投資や設備投資、事業ポートフォリオの見直し等の取組みを推進すること」への期待を示していることからもわかる。
 特に、上場企業には、上記の改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取組みを取締役会で検討・策定し、その内容について、現状評価とあわせて投資者にわかりやすく毎年継続して開示することが要求されている。この開示においては、成長性等に関する観点から、自社の成長の実現に向けたサステナビリティや知的財産を含む無形資産に関する取組みを開示することが要請されている。

 また、金融庁でも、2023年4月19日に「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」を提示し、収益性と成長性やサステナビリティを意識した経営に関して、人的資本や知的財産への投資等や、人的資本・知的財産に関する積極的な情報開示について言及している。
 さらに、一般社団法人 機関投資家協働対話フォーラムは、2023 年 10 月 3 日に公表した「エンゲージメント・アジェンダ 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」(*3)において、投資家が企業の価値を評価する項目として、成長戦略を実現する経営資源やビジネスモデルにおける競争力の源泉の対象に知財・無形資産を規定し、企業から投資家に企業価値の向上に向けたストーリーの一環として説明することを要請している。
 なお、このような知財ガバナンスの全体像や上記3つの戦略の関係については、ガイドラインにおいて図1に示すように体系化されている。

図1 知財・無形資産ガバナンスガイドライン Ver.2.0 の全体像
[知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン]
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo2.pdf

このため今後企業には、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組みとして、価値創造プロセスにおいて知財・無形資産の投資・活用戦略を策定し、それを取締役会での監督の下で、執行すると共に、その戦略の目標や実績等を投資家等に具体的に開示していくことが求められている。  
このことは、東京証券取引所がPBR改善に向けた対応を公表した以降、日本のプライム市場の株価は大幅に上昇した経緯からもわかる。投資家からは、企業の知財・無形資産の創出や活用に対する企業の取組みがますます期待されている。

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(*1) 日本経済新聞社「リーガルのつぼ」渋谷高弘:https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL230SS0T20C21A5000000
(*2) 日本取引所グループ ホームページ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」:https://www.jpx.co.jp/news/1020/cg27su000000427f-att/cg27su00000042a2.pdf
(*3) 機関投資家協働対話フォーラム ホームページ「エンゲージメント・アジェンダ 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた投資家との対話のお願い」:https://www.iicef.jp/pdf/jp/pdf_jp_20231003.pdf?20231003

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