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コラム

「知財・無形資産ガバナンス」の実践と普及に向けた取組み
第1回

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

本コラムでは、知財・無形資産経営者フォーラム、知財ガバナンス研究会、戦略法務・ガバナンス研究会創設の狙いについて、8回にわたってご紹介しています。

はじめに

 知財・無形資産ガバナンスの目的は、「日本企業の稼ぐ力の再生」である。この実現に向け、日本経済新聞社は、2023年10月に、当社および当社が運営する「知財・無形資産 経営者フォーラム」の協力のもと、岸田文雄内閣総理大臣、Principles for Responsible Investment (PRI) CEO David Atkin氏にもご登壇頂き、「第1回NIKKEI知財・無形資産シンポジウム」を開催した。このシンポジウムでは、知財戦略、人的資本、法務戦略の面から無形資産を活用し、いかに企業の持続的成長を実現すべきかが議論された。この議論では、現在最も注目されている人的資本への投資拡大によって、多くのイノベーションの原石が生まれてきていることを確認できたが、その原石を事業へと育て上げ、収益につなげていくものが「知財・無形資産」であり、それらを活用した経営活動の健全性や成長性を導くものが「戦略法務」である。
 このように日本企業が持続的に成長していくためには、人的資本が生み出した知財・無形資産を経営資源として戦略的に活用した経営を実行していく必要がある。この知財・無形資産経営では、①自社のパーパスや市場のニーズを見定め、それを実現する事業ビジョンを策定する ②その実現に必要な知財・無形資産(To Be)を探索し、現在保有している知財・無形資産(As Is)をいかに強化して獲得するか、あるいは新たにR&DやM&Aによって獲得するかを判断する ③それらを実行する知財・無形資産の獲得・強化戦略を策定し、的確に実行していく ことが求められる。

 では、この「知財・無形資産」とは、どのようなものか? 一言でいうと、企業の経営資源であり、成長力、競争力の源泉だ。たとえば、企業価値を表すブランド、開発技術を独占的に保護する特許、製造や業務プロセスのノウハウ、DXを実現するデータやソフトウェア、製品の信頼性を形成するサプライチェーンなど、企業活動の中で生み出される成果で、製造業はもちろん、金融・証券・保険、流通・出版など、すべてのサービス業における重要な知的資本でもある。
 この「知財・無形資産」の重要性に鑑み、東京証券取引所では、2021年6月にコーポレートガバナンス・コード(以下、「CGC」という)(*1)を改訂し、知的財産に対して積極的に投資を行い、その投資に対して取締役会が監督すると共に、具体的な情報を投資家等に開示すべきことを追記した。
 この改訂を受け、内閣府・経済産業省が2022年1月に「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)(*2)を公表し、CGCの「知的財産」を「知財・無形資産」と明確化し、企業が全社一丸となって知財・無形資産ガバナンス(以下、「知財ガバナンス」という)を実践することを促すとともに、「5つのプリンシプル」と「7つのアクション」を提示した。更に2023年3月に改訂し、企業と投資家との対話を促すための「コミュニケーション・フレームワーク」を発表した。これらの知財ガバナンスは、全ての企業が持続的に成長し、企業価値を高めるために必須の経営手法であるため、技術力を競争優位とする製造業だけでなく、ブランドや業務プロセス等の信用力が重視されるサービス業など、あらゆる業種の企業が積極的に実践すべき活動であると提言している。
 そこで、当社では、日本企業の成長戦略を実現するために、その経営プロセスにおいて企業が的確に人財や知財に投資を行い、価値創造を実践していくために、「知財・無形資産経営者フォーラム」、「知財ガバナンス研究会」を創設した。さらに、その価値創造への取組みを法務面から的確にサポートするように、「戦略法務・ガバナンス研究会」を発足した。本コラムでは、これらの活動内容を紹介するとともに、知財・無形資産を中核として企業経営の進め方を、以下の通り、解説する。
 なお、この知財ガバナンスの実践方法については、知財ガバナンス研究会で、その基礎的な考え方と実践方法を、「知財・無形資産ガバナンス入門」としてまとめ、中央経済社から書籍を出版しているので、ご参照頂けると幸甚である。

第2回はこちら >>

(*1) 東京証券取引所ホームページ コーポレートガバナンス・コード https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
(*2) 首相官邸ホームページ 知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/v2_shiryo1.pdf

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
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菊地 修(きくち おさむ)

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