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コラム

監査の実効性を高める「組織的監査」とは(後編)

シニアマネージャー 戦略・リスクガバナンス部
伊勢 悠司(いせ ゆうじ)

「組織的監査」構築のポイント

 前編で「組織的監査」は監査の実効性向上の期待が高まる中、監査の実効性を向上させる有効な手段の1つとして2022年再改訂版『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』(経済産業省)に紹介されていることを述べた。
 また、「組織的監査」の在り方は、自社における監査の目的を見据えつつ、現在の監査委員会等の陣容や内部監査品質を踏まえて、自社ならではの「組織的監査」を段階的に構築・強化していくべきものであると述べた。

 下図は、HRGLで作成した監査ガバナンスのフレームワーク図である。監査の実効性を向上させ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上へ貢献する監査を実現するための検討視点の全体像を示している。
後編では、本フレームワークの検討視点に沿って、「1.目的・体制」、「2.監査手法・プロセス」「3.監査資源(人財・ツール等)」の順に「組織的監査」構築の特に重要な検討ポイントを紹介したい。

出所:HRGL作成

ポイント1.目的・体制「監査活動を棚卸・体系化・分担の最適化を進める」

 三様監査の一環として、監査委員会等と内部監査部門は連携しているものの、それぞれ実施主体が異なるために、監査活動の目的・手法等の重複が発生することがよくある。
 筆者も監査の現場支援をする機会が度々あるが、「毎月様々な監査対応に追われていて本業に支障が出ている」「監査の度に同じようなことを聞かれる」「様々な監査を受けているがそれぞれの違いがよく分からない」と現場の不満を伺うことが良くある。

 「組織的監査」の構築にあたってまず実施すべきことは、監査活動の棚卸である。
 両組織の現行の監査活動を洗い出したうえで、「漏れなく・重複なく」監査活動の体系化を図り、その上で分担最適化を進める。

 特に事業所やグループ企業への監査は漏れや重複が生じやすい。明確に分担を定義し、仮に同じ対象を監査する場合であっても実施内容の差別化・一体化を図る(監査委員会等が責任者へのヒアリング等を実施、現場担当者へのヒアリングや資料閲覧は内部監査部門主体で実施する等)等の工夫が考えられる。

 なお、監査活動の体系化と分担割当を検討するにあたって、必ずしも既存のリソースを前提とする必要はない。
 必要な監査活動を実施するにあたって不足するリソースやスキルがあるのであれば、社内の他部署や社外専門家に対してのアウトソースも含めて検討し、実現に向けた関係者への働きかけを実施することが考えられる。
 日本では米国等と比較して監査のアウトソースの活用はあまり浸透していないと言われている。一方、リスクベースの監査活動は本来、毎期同様のことを実施する性質のものではないため、変動費的な要素が強く、アウトソースの方が合理的な場面もあるものと考えられる。
 本件検討を契機にリソースの在り方を改めて見直すことが望ましい。

ポイント2.監査手法・プロセス「組織的監査の実効性を定期的に振り返る」

 「組織的監査」は、一律・画一的な答えがあるものではなく、環境の変化等を通じて継続的な高度化を志向すべきものである。そのためには、定期的な目標設定・振り返りと改善を実施する仕組みが必要である。

 近年、監査委員会等監査の実効性評価や内部監査の品質評価等の導入が進められている。これらの目標設定・振り返りの仕組みがあれば、うまく活用しつつ、「組織的監査」ならではの評価手法、評価項目、評価者の工夫を図ることも可能である。以下は工夫例である。

  • 内部監査の品質評価を実施する際に、監査委員会等による評価や要望等をヒアリングするステップを入れる
  • 監査委員会等の実効性評価を実施する際に、監査委員会等と内部監査部門の関係性により着目した評価項目を設定する
  • 独立した立場の外部専門家による統合的な実効性評価を定期的に実施する

 目標設定・振り返りの仕組みがないのであれば、「組織的監査」構築を契機に、実効性評価等の仕組みを導入すべきか、まずは検討することが望ましい。

ポイント3.監査資源(人財・ツール等)「監査サポート機能強化を志向する」

 監査の実効性向上を図る上で、監査委員会等の職務を補助すべき使用人の機能充実化が重要である。近年は、監査委員会等の運営補助のみならず、特に社外の監査委員等の情報提供機能の強化や監査の補助等に取り組む事例も増加している。
 また、「組織的監査」を意識し、監査委員会等の職務を補助すべき使用人と内部監査部門との連携強化や両組織の統合も(引き続き独立性に留意することは必要であるが)検討の余地があると考えられる。
 日本監査役協会では、2022年5月に「監査役スタッフに関するアンケート調査」の集計結果を公表しており、監査委員会等の職務を補助すべき使用人の機能充実化が年々進んできていることが分かるので参照されたい。

終わりに

 前編と後編の2回にわたって「組織的監査」の背景・事例や構築にあたってのポイントを解説した。

 なお、監査役設置会社では「組織的監査」を前提とした規定がなされていないものの、特に大規模な企業では監査役監査のみで全て完結させることは困難である。そのため、内部監査部門との連携強化は従来から重要な関心事とされてきた。
そのため、「組織的監査」の手法は監査役設置会社においても一定の参考になるものと思われる。

 前編の冒頭で申しあげたとおり、執行と監督の在り方と同様、監査活動の在り方はコーポレートガバナンスの重要な論点の1つである。
 監査関係者以外にとって監査は、ややとっつきにくいテーマではあると考えられるものの、「組織的監査」構築を契機に監査の実効性向上を進めるプロセスの中で、取締役会・経営陣・監査関係者の相互理解を深めていくことが肝要である。


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