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コラム

監査の実効性を高める「組織的監査」とは(前編)

シニアマネージャー 戦略・リスクガバナンス部
伊勢 悠司(いせ ゆうじ)

監査の実効性向上が求められている

 「指名や報酬のことは分かるけど、監査のことはよく分からないから監査役と内部監査部門に任せている。」これは監査の現状や課題認識について経営者からお話を伺うときによく聞く言葉である。

 近年、監査の実効性向上を求める動きが活発化している。
 監査に関する開示の充実化の要請の他、直近では、2021年改訂のコーポレートガバナンス・コードで、内部監査部門による取締役会、監査役会・監査等委員会・監査委員会(以下「監査委員会等」とする)への直接報告の仕組みの構築等が求められるようになった。そのような背景から、執行と監督の在り方のみならず、監査の実効性向上の在り方も、取締役会等での重要な関心事として話題に取り上げられる場面が増えてきている。

 そもそも監査の在り方は誰が決めるべきなのであろうか。
監査は、執行と監督の在り方と同様、コーポレートガバナンスの重要な論点の1つである。
コーポレートガバナンスは、持続的な企業価値向上のために経営を規律付けする仕組みであり、取締役会や経営陣等が構築とステークホルダーへの説明責任を負うべき性質のものである。
したがって、監査の在り方も監査組織のみで決めるべきものではなく、取締役会や経営陣等で方向性も含め議論をしつつ、様々な関係者が協働して実効性ある監査の設計を図るべきものであると考える。

 そうは言っても、冒頭のとおり、監査の在り方は監査組織に任せきりにしてしまい、全社目線での検討が充分に進んでいない企業が多いのではないだろうか。

 CGS研究会第3期においても、監査の実効性を高める手段として、内部統制システムを活用した「組織的監査」が紹介されている。
 本コラムでは、前編と後編の2回に分けて「組織的監査」の概要を紹介しつつ、様々な関係者が監査の実効性向上を検討する上での一助としたい。

 なお、本コラムでは断りない限り「監査」は監査委員会等監査及び内部監査を指している。ご容赦頂きたい。

「組織的監査」とは

 再改訂版(本コラム執筆時点では案の段階)『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針』(経済産業省)の別紙2では、「組織的監査」とは「内部統制システムが適切に構築・運営されているかを監視し、内部監査部門や内部統制システムを利用して必要な情報を入手し、内部監査部門に対して指示を行うという監査の手法」と定義されており、一般的には、監査等委員会または監査委員会による監査で想定される手法である。

 組織的監査のうち、監査等委員会による監査は以下の特徴が挙げられる。
 ・会社法上、独任制の設計となっていない(会社法399条の3第4項)
 ・常勤者の選定が不要である
 ・組織的監査の前提となる内部統制システム整備に関する決定が企業規模問わず義務付けられている(会社法399条の13第1項ハ)
 これらの特徴は、監査等委員会による監査が、内部統制システムを使用した「組織的監査」を前提としているからであるとされている。
 指名委員会等設置会社における監査委員会も概ね同様の規定がなされており、同じく「組織的監査」を前提としているものとされている。

 従来から、日本では「三様監査」という考え方がある。「三様監査」は、監査委員会等監査、内部監査、会計監査人監査を指し、それぞれ連携をすることで、監査の強み・弱みを補完する考え方である。
連携の仕方は企業によって様々だが、一般的には、定期的な会合の実施による意見交換や監査結果の共有等に留まることが多い。
 一方、「組織的監査」は、上記定義にあるとおり、監査委員会等が内部監査部門へ指示を行うことを想定しており、より関係強化が求められる監査の手法であると言える。

 監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社は、会社法上も「組織的監査」を前提した規定があるものの、具体的な指示の在り方等までは、法的に規定されていない。
そのことから、「組織的監査」は一律・画一的に決められるべき性質のものではなく、自社における監査の目的を見据えつつ、現在の監査委員会等の陣容や内部監査品質を踏まえて、自社ならではの「組織的監査」を段階的に構築・強化していくべきものであると言える。

「組織的監査」構築による変化の傾向

 組織的監査は、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社で想定される監査手法であることを述べてきた。
では、過去に監査役設置会社から監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社に移行した企業は、具体的にどのような形で「組織的監査」を実現しているのであろうか。

 日本監査役協会「監査等委員会監査の実態と今後の在り方について-重要な業務執行の決定の取締役への委任が監査に与える影響と組織監査に関する考察を中心に-」のアンケート(問8-6)では監査等委員会設置会社への移行により、約7割の企業が監査に関連した新たな取組(内部監査部門の新規設置又は人員等の体制の拡充、内部監査部門から監査等委員会への報告体制の強化、内部監査部門の組織上の位置付けの変更)を実施していることが分かる。

 また、HRGLでは、2019年に監査役設置会社から監査等委員会等設置会社もしくは指名委員会等設置会社へ移行した企業を約20社抽出し、移行直前期の有価証券報告書の開示、移行期の翌期の有価証券報告書の開示で監査にどのような変化点があるか調査を実施した。下表はその結果概要である。

出所:HRGL作成

 有価証券報告書の開示で読み取れる範囲ではあるが、機関設計変更に伴い、多くの企業は「組織的監査」の在り方を吟味し、監査委員会等と内部監査部門の関係性を強化していることが読み取れる。
 また、「組織的監査」の前提となる内部監査部門の陣容にもメスを入れている企業が多いことや、内部統制システム活用を見据え、監査委員会等の陣容のスリム化(常勤者数の削減)を図る企業も多いことが読み取れる。

後編は、「組織的監査」を実施する上での具体的な検討ポイントを紹介する。


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