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コラム

生物多様性に係る近年の動向 ~世界の動きと企業へ の影響~

コーポレートガバナンス R&D 部
アナリスト 三上 諒子(みかみ りょうこ)

国内外で企業によるサステナビリティへの取組みが進む中、先進企業では生物多様性の保全に向けた取組みが進められています。生物多様性の減少は今に始まったことではありませんが、近年その重要性が再認識されつつあり、投資家を含む様々なステークホルダーが企業に生物多様性に関する情報開示を求める事例が少しずつみられるようになりました。生物多様性の保全に向けた取組みの重要性が再認識されている理由として、主に以下の3点が挙げられます。

  1. 今年採択される予定の生物多様性に関する国際目標の中で、企業による取組みや情報開示が要求される見通しである
  2. 生物多様性の減少は企業が依存する自然資本にも影響を与え、中長期的に事業の持続可能性におけるリスクとなり得る
  3. 気候変動や水問題などの他の環境問題との関係性が深く、今後は生態系をベースとした包括的なアプローチが必要となる

2022年内に開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で「ポスト2020生物多様性枠組」が採択されます。2021年7月に公表された第一次ドラフトでは、2050年の「自然との共生」に向けて2030年までの具体的なターゲットが策定されており、ターゲット15に「すべてのビジネス(公的・民間、大・中・小)がそれぞれの生物多様性に対する依存状況及び影響を評価及び報告」する必要性が明文化されています(図表1)。さらに、2022年3月にはTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)が生物多様性や自然資本に関する情報開示フレームワークのベータ版を公表し、2023年9月の最終版公表に向けた協議を進めています。TNFDはTCFDと同じ4つの枠組(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)を使用しています。

図表 1:ポスト2020生物多様性枠組の変化の理論

出典:「First Draft Of The Post-2020 Global Biodiversity Framework, Figure 1. Theory of change of the framework」および「Engaging Business In The Development Of a Post-2020 Global Biodiversity Framework, CBD」を参考にHRGL作成

生物多様性に係る中長期的なリスクとしては、原材料への依存リスク、レピュテーションリスク、財務的リスク等が考えられます。最終的な価値をもたらす生態系サービスは自然資本から生み出され、自然資本は生物多様性によって支えられています。生物多様性が減少することで企業が依存する自然資本にも影響が及び、事業の継続可能性が低下する恐れがあります。また、枯渇する原材料の価格高騰や投資家によるエンゲージメント活動の活発化にも対応できなくなると財務的リスクも高まります。適切な取組みと情報開示を行わないことでレピュテーションリスクになることもあります。実際に、欧州の一部の小売店において、アマゾン熱帯雨林の森林伐採・森林火災に関与していた可能性のある大手食肉加工会社が販売する牛肉の取り扱いを中止する事例もみられました。

気候変動と生物多様性は相互に連関しており、気候変動への取組みが生物多様性の回復に寄与し、生物多様性への取組みが気候変動対策に繋がります。その他にも、水や食料の問題、人間のウェルビーイングにも関係しています。自然の機能や生態系の力を利用する「自然に根差した解決策(Nature-based Solutions)」(以下、NBS)が提唱されており、企業と様々なステークホルダーが関与しながら複数の課題に包括的に取り組んでいくような取組みが今後はより求められるでしょう。

企業が生物多様性の問題に取り組むときの具体的な検討ポイントとして、以下の3点が挙げられると考えます(図表2)。

図表 2:生物多様性に取り組むうえで企業が検討すべきポイント

出典:「The TNFD Nature-related Risk & Opportunity Management and Disclosure Framework」および「自然に根ざした解決策に関するIUCN世界標準の利用ガイダンス初版」を参考にHRGL作成

  1. 自社と自然とのつながりを分析する
    各企業でビジネスモデルやサプライチェーンが異なるため、生物多様性に与えるインパクトや依存する恩恵も様々です。まずは、自然と事業活動の関わりを深く理解・分析し、リスクと機会の特定を行う必要があります。
  2. 生物多様性に対する取組みの計画とNBSの導入を検討する
    SBTN(Science Based Targets Network)のガイダンス等を活用して効率的に現状の問題点を分析しながら、生物多様性へのインパクトを最小限に抑えるマネジメント体制を構築する必要があります。特に重要と考えられる地域や場所においてはNBSの導入を含め、どのような活動が正のインパクトを生み出すかを十分に検討することが求められます。
  3. 自己評価と情報開示の準備を行う
    生物多様性フットプリントを計測・評価するツールを利用して取組みの改善に繋げたり、TNFDが提唱しているLEAPアプローチ(企業が自然の依存関係を分析する手法)を利用して効率的に情報開示を行ったりなど、世界で開発中の各種フレームワークの動向に注意を向け、積極的に活用します。

今後は、包括的に環境・社会問題に取り組み、自然資本を支える生物多様性や人々に恩恵を与える生態系サービスの観点から中長期的にレジリエントなビジネスモデルに変革していくことがより一層求められます。企業や人間が依存する自然資本を支える生物多様性の減少を食い止め、生態系サービスの持続可能な利用を実現することが結果的にはビジネスの持続可能な成長に繋がると考えます。

※弊社の生物多様性への取組みの一つとして、環境省主導のもと、有志の企業・自治体・団体により2022年4月8日に発足した「生物多様性のための30by30アライアンス」に参加しています。詳細は、こちらをご覧ください。


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