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コラム

上場企業の知財投資・活用戦略に関する コーポレートガバナンス報告書での開示に対する政府見解について

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

 現在、上場企業では、東京証券取引所(東証)による市場区分見直しと来年4月の新市場発足に向け、新市場区分の選択申請の準備を進めておられているものと存じます。その申請に際しては、本年6月のコーポレートガバナンス・コード(CGC)の改訂に伴いコーポレートガバナンス報告書(CG報告書)を12月30日までに東証に提出すること(*1)が要請されています。

 特にこのCG報告書には、今回始めて「知財投資・活用に関する情報」の開示が求められていますので、内閣府と経済産業省では、その開示やガバナンスの在り方等について「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(*2)」を本年8月に設置し、4回に及ぶ検討を行い、中間報告として、9月24日に首相官邸ホームぺージから、以下の資料を発信しました。

 【知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会 資料(*3)】
今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について~改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレートガバナンス報告書の提出に向けて~

 この資料は、東京証券取引所から公表され上場企業に対して連絡がなされ、この内容に則したCG報告書の情報開示が要請される予定ですので、この検討会委員でもある弊職から、本資料の骨子を、以下の4点に整理してご紹介させて頂きます。

1.CGC改訂の目的の一つである、「日本企業の稼ぐ力の強化と、イノベーションの活性化」を実現するためには、知財・無形資産を活用した持続可能なビジネスモデルを検討し、競争優位を支える「知財・無形資産」の維持・強化に向けた戦略を構築することが必須である。
 なお、CGCでは、「知的財産」との用語が使用されているが、この検討会では、知的財産(知財)だけでなく、次項のように企業競争力の源泉となる無形資産も対象に含めている。

2.この「知財・無形資産」のスコープは、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知財権に限られず、技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これらを生み出す組織能力・プロセスなど、幅広い知財・無形資産を含めて捉えるべきである。
 このため、あらゆる業種の企業でも、競争力のある「知財・無形資産」を保有していることから、経営活動として、以下の図に示すように、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行が必要となる。

3.東証へのCG報告書の提出にあたっては、CGCの補充原則3-1③に基づく知財投資等についての開示や補充原則4-2②に基づく取締役会による実効的な監督の実施(*4)に至っていない企業は、そうした開示や監督をいかに進めるのか、さらにその前提となる知財・無形資産の投資・活用の現状を整理し、それらを戦略的にいかに実践していくかの今後の計画や検討方針を説明することを考える必要がある。
 もし、このような企業が、CGCのプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)により、自ら対応を「実施(comply)」と判断を行った場合には、投資家から、不誠実な姿勢とみなされ、かえってネガティブな評価につながる可能性が高くなる。

4.「知財・無形資産」の投資・活用戦略の構築に向けた対応例として、企業は、以下の①から③までのプロセスを進めると共に、社内の関係部門が横断的かつ有機的に連携して、持続的に企業価値を高める方向で規律付けられるガバナンスの仕組みと、取締役会による適切な監督が行われる体制を構築することが求められる。
 ①自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析を、IPランドスケープの活用等により着手する。
 ②将来に向けどのような知財・無形資産の活用により、どのような価値を顧客や社会に提供し、キャッシュフローの創出に結びつけ、サステナブルな企業価値向上につなげていくかについてのビジネスモデルを検討する。
 ③企業は、将来の競争優位・差別化を支える知財・無形資産の維持・強化に向け、どのような方策どのような投資を行い、あるいはその損失リスクに対してどのような方策の戦略を構築する。
 なお、この具体的な内容に関しては、引き続き検討会で審議し、2021年末にガイドラインとして発行する予定である。

 このように、現在、本格的な知財投資・活用戦略が実行できていない上場企業は、今般、東証の新市場区分の選択申請に伴い提出するCG報告書において、知財・無形資産の投資・活用戦略の現状を整理した上で、今後いかにこの戦略を実践されていくかの活動計画や検討方針を説明(explain)するとともに、その実現に向けて計画的に活動を実行されることが要請されています。

 この要請を踏まえ、現在、知財ガバナンス研究会では、当会企業メンバーがこれまで知財投資・活用戦略に取り組んできた事例を共有し、本格的な知財投資・活用戦略のあるべき姿やその実現に向けた施策や知財ガバナンスへの取組み等を検討しております。
 さらに、日欧米の企業における知財投資に関する開示内容を分析し、IPランドスケープ等を活用して、どのように知財投資・活用戦略を経営者や関係部門と連携して実行し、知財ガバナンスを実践するかも分科会を設置して検討しております。
 知財ガバナンス研究会では、これらの検討を一緒に行い、以前特許部だった知的財産部が、 会社の稼ぐ力を強化する知財・無形資産戦略部門へと進化することを志向する多くの企業様のご参加を期待しておりますので、以下サービスページに記載の「お問い合わせフォーム」よりご連絡頂けますと幸いです。

 なお、知財ガバナンス研究会では、この資料の作成にあたって、知財や知財投資の定義や役割や、知財ガバナンスの体制やその取り組み、CG報告書等での情報開示の在り方について提言(*5)を行って参りました。今後も政府の検討会におけるガイドブック作成においても参考事例として活用して頂けるように、引き続き研究を進め、コラム等で情報を発信して参りますので、引き続きご参照頂けますと幸いです。


【知財ガバナンス研究会のご紹介】
 知財ガバナンス研究会では、上場企業が、知的財産投資を如何に実行すべきか?その実行をどのように執行や監督すべきか?さらにこれらの知財投資に関する情報をいかに開示すべきか?について、企業の知財関係者を結集して研究を行い、「チーム知財」として「日本企業の競争力を向上させる」活動を展開しています。
 このような活動に参加頂ける方は、是非、以下サービスページをご確認の上、サービスページ上のお問合せフォームよりご連絡ください。

知財ガバナンス研究会のサービスページ

*1 市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について」及び「コーポレートガバナンスに関する報告書 記載要領
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/nlsgeu000003pd3t-att/nlsgeu000005jkv0.pdf

*2 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/index.html
*3 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/pdf/corporate_governance.pdf
*4 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
*5 「知財投資・活用戦略の開示・発信の在り方や社内におけるガバナンスの在り方等について深堀をしたガイドライン」に対する
「知財ガバナンス研究会」の期待と要望等について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai2/siryou4.pdf

 

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