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コラム

ディスクロージャーワーキング・グループ報告が示す情報開示の未来像

シニアストラテジスト コーポレートガバナンスR&D部
中川 和哉(なかがわ かずや)

サステナビリティ情報についてグローバルで開示の義務化に向けた動きが進展

 投資家をはじめ、ステークホルダーが将来の企業価値を見極めるうえで、サステナビリティ情報をはじめとする企業の情報開示のあり方に関心が集まっています。情報開示について、金融庁では各界の有識者から成るディスクロージャーワーキング・グループを設置し、議論を進めてきました。

 2022年6月に公表されたディスクロージャーワーキング・グループ報告では、主な注目点として①サステナビリティ情報の有価証券報告書(有報)への記載欄の新設、②人的資本、③多様性、④取締役会の機能発揮、⑤四半期開示の見直し、という5つのトピックを挙げています(図表1)。

図表1: 今回のディスクロージャーワーキング・グループ報告の概要

出典:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-概要よりHRGL作成

 特に、サステナビリティ情報についてはグローバルで開示の義務付けや基準の統一化に向けた動きが進展しており、ディスクロージャーワーキング・グループでも情報開示のあり方について時間をとって議論しています。たとえば、フランスでは、2015年に制定されたエネルギー移行法によって、気候変動における金融リスクやリスク削減に向けた指標を年次報告書で開示することが求められているほか、米国をはじめ、他国でも年次報告書の一部として、サステナビリティ情報の開示を行う議論が進んでいます。

ISSBの情報開示へのスタンスは、国内の情報開示の議論にも影響する

 サステナビリティ全般に関する情報開示について、ディスクロージャーワーキング・グループでどのような方針が打ち出されているでしょうか。ディスクロージャーワーキング・グループ報告のうち、サステナビリティに関連する内容をまとめています(図表2)。

図表2: ディスクロージャーワーキング・グループ報告の要旨(サステナビリティ、気候変動)

出典:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-よりHRGL作成

 有報におけるサステナビリティ情報の記載欄の新設のほか、サステナビリティ全般の開示においてTCFDが求める4つの構成要素のうち、「ガバナンス」と「リスク管理」の要素についてはすべての企業が開示し、「戦略」と「指標と目標」の要素は、開示が望ましいものの、各企業が重要性を判断して開示する旨が示されています。また、気候変動については、温室効果ガス排出量について重要性の判断を前提とするものの、特にScope1(事業者自らによる GHG の直接排出)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)について積極的な開示が望ましい旨が記されています。

 加えて、重要性の評価の部分の注記など国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)への言及が複数みられます。ISSBは2021年11月に設立され、2022年3月に「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及び「気候関連開示」の公開草案を公表しました。ISSBの情報開示へのスタンスは、2022年7月に設立予定である日本のサステナビリティ基準審議会(SSBJ)をはじめ、国内の情報開示の議論に大きく影響する可能性があります。

取締役会、委員会等の活動状況の記載欄が有報に設けられる

 ディスクロージャーワーキング・グループ報告では、コーポレートガバナンスや情報開示の頻度・タイミングについても多くの提言がなされています。

 コーポレートガバナンスの要素のうち、最も企業の情報開示にインパクトを及ぼすと考えられるのは取締役会、委員会等の活動状況の記載欄を有報に設ける点です(図表3)。欧米企業では、Annual Report(年次報告書)やProxy Statement(招集通知)などで取締役会、委員会等の活動状況について詳しく書かれているのが一般的です。今回の報告では、「開催頻度」、「主な検討事項」、「個々の構成員の出席状況」を記載項目とする方向性が示されています。また、監査の信頼性確保についても、①監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明、②KAM (Key Audit Matters)(*1)についての監査役等の検討内容、③デュアルレポーティングライン(*2)の有無を含む内部監査の実効性の説明が求められています。その他、政策保有株式に関する情報開示のほか、四半期決算短信への一本化の方針や、株主総会前に有報を提出する取組みへの期待などが含まれています。

図表3: ディスクロージャーワーキング・グループ報告の要旨(ガバナンス、その他)

出典:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-よりHRGL作成

(*1) 財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項
(*2) 内部監査部門がCEO等の業務執行ラインに加え、取締役会および監査役等と連携を確保すること

情報開示が求められる背景を理解し、社内の議論、アクションに反映させる

 本コラムでは、ディスクロージャーワーキング・グループの議論を振り返り、今後有報などでどのような情報開示が求められるかについて、要点を絞って簡潔に説明しました。持続的な企業価値向上を目指すうえで最も重要なファクターは、情報開示そのものではなく、情報開示が求められる背景を理解し、それを社内外での議論やアクションに反映させることです。サステナビリティ、ガバナンス、人的資本をはじめ、情報開示が求められる項目は多岐にわたりますが、真摯に対応することでステークホルダーからの信頼も着実に深まると考えます。


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