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コラム

価値創造に向けた知財戦略
-知財投資に対する日本政府の推進計画と知財ガバナンス研究会の取り組み-

フェロー
菊地 修(きくち おさむ)

 菅首相は、2021年7月13日に首相官邸で「知的財産戦略本部」を開催し、「知的財産推進計画2021」(*1)を関係大臣等と審議し決定した。この決定にあたって菅首相は、「企業の知財戦略を強化することは、日本の未来への投資であり、企業の経済活動を活発にするだけでなく、文化的に豊かな社会を作るための重要な課題」と見解を表明された(*2)。

 この推進計画の決定に先立ち、自由民主党知的財産戦略調査会では、6月1日に「近年、企業価値の源泉は、有形資産から無形資産に大きくシフトしており、知的財産への投資戦略が企業の競争力に決定的な影響を及ぼしている。(中略)今後、日本企業がイノベーティブな企業活動を行い、激しい国際競争を勝ち抜いていくためには、日本企業による積極的な知的財産への投資やその活用を促していくようなメカニズム、すなわち、知的財産の投資・活用に積極的に取り組む企業が市場において適切に評価され、必要な資金が供給されるようなメカニズムを構築することが喫緊の課題である。」(*3)と提言している。

 さらに、日本政府は、6月18日の閣議で、令和3年の成長戦略実行計画として「知的財産など無形資産投資を促進する。企業の知的財産への投資やその活用戦略を投資家や金融機関が適切に評価できるよう、本年中にその開示に関するガイドラインを策定し、開示を促す。」(*4)ことを決定している。

 このような経緯の中で、知財推進計画2021は、今後日本が克服していくべき知財戦略として、以下の重点7施策が設定している。

【知的財産推進計画2021 知財戦略の重点7施策】(*5)
1. 競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化
2. 優位な市場拡大に向けた標準の戦略的な活用の推進
3. 21 世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備
4. デジタル時代に適合したコンテンツ戦略
5. スタートアップ・中小企業/農業分野の知財活用強化
6. 知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化
7. クールジャパン戦略の再構築

 この重点施策の筆頭には、「日本企業が激しい国際競争を勝ち抜いていくためには、日本企業による知財投資・活用を促していくことが不可欠である。」(*6)として、「知財投資・活用戦略」が設定された。この戦略では、企業に対して、「どのような知財投資・活用戦略を構築しているかについて、より一層の見える化をすすめ、こうした企業の戦略が株式市場を通じて投資家から適切に評価され、より優れた知財投資・活用戦略を構築している企業の価値が向上し、更なる知財への投資に向けた資金の獲得につながるような仕組みを構築することが重要である。」(*7)と解説している。

 このことは、今般の「コーポレートガバナンス・コード」改訂(*8)が、「企業の経営戦略における知財投資・活用 戦略の重要性に対する認識が高まる契機となる。」(*9)と期待されており、特に重要な点として、企業から「開示・発信されるべき内容は、保有している知財の単純なリストなどではなく、その企業が、どのような社会的価値創出を行おうとしているのか、そのためにどのような知財を活用して、どのようなビジネスモデルで価値提供とマネタイズを実現することを目指すのかという戦略的意思の表明である。開示・発信内容は将来キャッシュフローをイメージさせるものでなくてはならない。その上で、現有の知財を何のために活用するのか、不足する知財をどのように獲得していくのかを明らかにすることが重要である。」(*10)としている。

 当社では、企業が、自社のパーパスを設定し、その達成に向けてIPランドスケープ等による未来予測を活用し事業ビジョンを見定め、そのビジョンを実現するために、自社が保有しているコア価値(競争優位性のある知財)と、今後必要になるコア価値を見定め、両者を有機的に組み合わせて価値を創造するイノベーションプロセスを提唱している。

企業価値を創造するイノベーションプロセス

 この企業における知財投資・活用戦略の開示・発信の在り方について、政府は、2021年中にガイドライン等を作成することを「施策の方向性」(*11)で表明し、8月6日に「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」を発足した。この検討会では、知財投資・活用戦略に関する開示範囲・内容の考え方や、実行に向けたガバナンスの在り方等が検討されることになっており、筆者も委員として参加し、今後の企業のおける知財ガバナンスへの取り組みを提言していく予定である。

 また、このガイドライン作成にあたっては、「知財投資・活用戦略を競争力強化につなげるビジネスモデルの構築に成功している事例」(*12)等を紹介することが有用とされているため、これまで「知財ガバナンス研究会」において、企業や大学等の皆様と進めてきた「日本企業における知財投資・活用戦略の調査・分析を行い、企業価値創造に向けたロールモデルとなる活動事例」の研究成果を、投資家や政府等、知財投資の担い手の方々に対しても発信していく予定である。


【知財ガバナンス研究会のご紹介】
知財ガバナンス研究会では、上場企業が、知的財産投資を如何に実行すべきか?その実行をどのように執行や監督すべきか?さらにこれらの知財投資に関する情報をいかに開示すべきかについて、企業の知財関係者を結集して研究を行い、「チーム知財」として「日本企業の競争力を向上させる」活動を展開している。
このような活動に参加頂ける方は、是非、以下サービスページをご確認の上、サービスページ上のお問合せフォームよりご連絡ください。

知財ガバナンス研究会のサービスページ

*1:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20210713.pdf
*2:https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202107/13chizai.html
*3自由民主党知的財産戦略調査会「知的財産戦略調査会提言」https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/201663_1.pdf
*4:成長戦略実行計画(令和3年)「第11章 イノベーションへの投資の強化、5.知的財産戦略の推進」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/ap2021.pdf
*5:知的財産推進計画2021 P14-P92
*6:知的財産推進計画2021 P14
*7:知的財産推進計画2021 P14
*8:補充原則3-1③として、上場会社は、知財への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであることに加え、補充原則4-2②として、取締役会が、知財への投資の重要性に鑑み、経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきであることが盛り込まれた。
*9:知的財産推進計画2021 P14
*10:知的財産推進計画2021 P15
*11:知的財産推進計画2021 P21「企業の知財投資・活用戦略を見える化し、投資家等が活用しやすい環境を整備するため、コーポレートガバナンス・コードや価値協創ガイダンスの改訂を踏まえ、どのような形で知財投資・活用戦略を開示・発信することが有益であるかなどについて検討し、知財投資・活用戦略に関する開示・発信の在り方を示すガイドラインを 2021 年中に策定し、公表する。」(短期)(内閣府、経済産業省)
*12:知的財産推進計画2021 P15

 

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