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コラム

【戦略・リスクガバナンスコラム開始】
再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの向き合い方

パートナー 戦略リスクガバナンス部
林 拓矢(はやし たくや)

ごあいさつ ~戦略・リスクガバナンスコラムを配信開始します!~

わが社が事業をスタートさせた2020年10月以降、わたしたちは「戦略・リスクガバナンス」に関するコンサルティングを新規事業として立ち上げ、多くの上場企業に対しコーポレートガバナンス、中長期戦略、グループガバナンス、リスクマネジメント等に関する助言や支援を行ってきました。「戦略・リスクガバナンス」に関するコンサルティングを通じて積み上げた知見や経営者との会話での気づきについて、タイムリーに情報発信していくことが「戦略・リスクガバナンス」の領域を創り上げたわたしたちの使命であろうと考え、わが社のホームページからささやかにコラムを配信することにしました。

HRガバナンス・リーダーズの「戦略・リスクガバナンス」に関するコンサルティングチームのメンバーが、それぞれの想いを世に問うべく綴っていこうと意気込んでおりますので、ぜひお読みいただきご感想やご意見をお寄せいただければ幸いです。

 

新しい展開を迎えたコーポレートガバナンス・コード

2021年4月に東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コードの改訂案が、金融庁からは投資家と企業の対話ガイドラインの改訂案が公表され、それぞれパブリックコメントが募集された。2021年6月11日に東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コードの改訂版が、金融庁からは投資家と企業の対話ガイドラインの改訂版が、それぞれパブリックコメントの概要と併せて公表された。非常に多くの意見が寄せられたものの、2021年4月に公表された改訂案から大きな修正はなく確定したようだ。改訂を検討した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の場でも、改訂案の内容を高く評価する声が上がっていたが、非常に完成度の高いよい中身に仕上がったと感じる。

今回の改訂のキャッチフレーズは「形式から実質へ」であったが、この「実質」の部分がかなり具体的に議論され、近年のサステナビリティ経営に求められる「ボードアジェンダ」が明示された(図1参照)。確かに「実質」についての論点が拡充され、コードそのものが新しい展開を迎えたとも感じる。今回の再改訂版のコードの趣旨をしっかりと理解し、会社の成長に生かすことができるよう、会社の「本質」の部分を大いにレベルアップすることが期待される。

【図1】

「コンプライ・オア・エクスプレイン」を超えて

再改訂版のコードへの対応について各社の動きを見ていると、2回目の改訂でもあり手慣れた様子で「コンプライ・オア・エクスプレイン」の準備を始めているようである。改訂点を一覧表にし、自社の現状とのギャップを分析し課題を抽出、対応方針を検討し優先順位をつけるという、いわば「流れ作業」が始まろうとしている雰囲気もある。

一方で、今回改訂の特徴でもある「実質」部分についてはコードの字句だけでは実務に落とすことが難しく、各社それぞれの事業に合わせた解釈が必要となる論点が多い。例えば、サステナビリティ基本方針(改訂案の補充原則4-2②)の中身は何を定めるべきか、人的資源や知的財産への投資に関する実効的な監督(改訂案の補充原則4-2②)とは具体的に何を指すのか、事業ポートフォリオについて「分かりやすく示す」(改訂案の補充原則5-2①)とはどの程度具体的にすべきなのか、などなど。単純に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の方針を決めるというよりは、「コードの趣旨をどう会社の成長に生かすのか」についてボードで十分に議論することが求められる。

そうなると、「改訂の趣旨はどこにあるのか」を取締役会・経営陣が正確に理解することが重要になる。残念ながら、コード本文を上から順に読んだところで趣旨はほとんど伝わってこない。コード改訂の趣旨を理解する上で助けとなるのは、コード改訂案と同時にフォローアップ会議から示された「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議 2021年4月6日)という文書である。背景にある趣旨等をある程度読み取ることができるため、「コードの趣旨をどう会社の成長に生かすのか」を実践する上ではこの文書の中身を解釈しておくことをお薦めする。

またコードはそもそもステークホルダーからの要求事項という性質を持つため、ステークホルダーの切り口を意識した章立てとなっている。コードの改訂点を会社の成長に生かすには、読み方を工夫する必要がある。コードの章立てに従って順に読み下すのではなく、「サステナビリティ」、「中長期戦略・事業ポートフォリオ」、「人財・知財等の経営資源配分」、といったテーマごとに論点を取り出し、これらのボードアジェンダの何を意思決定・監督の対象とするのか、何を開示すべきなのかをストーリーとして理解すべきである。

 

コーポレートガバナンス改革の「新時代」は、始まったばかりである。上場会社にとっては、新しいコーポレートガバナンス・コードを活用して自社のオリジナルなコーポレートガバナンスを作り上げ、戦略・リスクガバナンスのレベルアップを図ることができる千載一遇のチャンスが到来したといえる。

hayashi

パートナー 戦略リスクガバナンス部
林 拓矢(はやし たくや)

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