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日経225社を調査、東証の要請に対応する企業は約3割(2023年7月)
~HRGL 資本コスト経営と株主との対話の開示状況調査~

 HRガバナンス・リーダーズ株式会社(代表取締役社長 CEO 内ヶ﨑 茂、 以下 「HRGL」)は、2023年3月末の東証の要請を踏まえた日本企業の開示状況を明らかにすべく、日経225社に含まれる3月期決算の企業のうち、2023年7月26日時点で2023年3月期の定時株主総会後にCG報告書を提出している184社を対象として 「HRGL 資本コスト経営と株主との対話の開示状況調査」を行いましたので、その結果を公表いたします。

【HRGL資本コスト経営と株主との対話の開示状況調査 実施目的】

  • 東京証券取引所(東証)は2023年3月末に、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議での議論の内容を踏まえ、プライム市場・スタンダード市場の全上場企業を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を、プライム市場の全上場企業を対象に「株主との対話の推進と開示」を要請している。
  • これらの要請への対応について、具体的な開始時期の定めはないが、コーポレートガバナンス報告書(以下「CG報告書」)の「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の記載欄に開示を行っている旨を示すことが求められている。本要請の公表後にはじめて決算発表および定時株主総会を迎え、CG報告書の提出が求められる3月期決算の企業群を対象に、その取組みの現況を明らかにすることで、今後上場企業が資本収益性を意識した経営や株主との建設的な対話を実行するための視座を提供する。

【主な調査結果】

  • 東証の要請に沿って、「資本コストや株価を意識した経営」についてCG報告書で開示する企業は28.8%(53社)であった。そのうち、取締役会で現状分析・計画策定を実施していることを明記している企業の割合は11.3%と1割強の水準にとどまっていた。計画策定で最も用いられている財務指標はROE(全社)であり、77.4%と約8割の企業が開示していた。一方でROIC(全社)、セグメント別のROE・ROICを用いている企業の割合はそれぞれ35.8%、11.3%であった。
  • 計画策定において現状分析を踏まえた打ち手を示す際、「事業ポートフォリオの見直し」について言及する企業が最も多く、79.2%と8割弱を占めていた。一方で、株主との対話や情報開示の強化を打ち出す企業の割合は26.4%、24.5%にとどまった。
  • 東証の要請に沿って、「株主との対話の実施状況」を開示する企業は30.4%(56社)であり、そのうち9割以上の企業が、株主との対話の主な対応者を開示していた。株主との対話に際し、社長・CEOが対応している企業の割合は87.5%と9割程度であった。一方で、社外取締役が対応していることを開示する企業は33.9%と3割弱にとどまっていた。
  • 「株主との対話の実施状況」を開示する企業のうち、対話の主なテーマを開示する企業の割合は67.9%であった。対話の内容をESGの領域別にみると、E(環境)領域に関する対話が最も多くみられた。ただし、対話だけでなく、実際に事業経営に取り入れたことを開示している企業の割合は、最も多かったG(ガバナンス)領域においても21.1%と限定的であった。株主との対話の内容について、取締役会・経営陣へのフィードバックを行っている企業の割合は73.2%であり約7割を占めた。ただし、そのうち約4分の1の企業は、フィードバックの対象が経営陣のみの記載にとどまっていた。

【調査対象】

  • 2023年6月末時点での日経225社(日経平均株価算出の対象となる225銘柄)のいずれかに含まれる3月期決算の企業のうち、2023年7月26日時点で2023年3月期の定時株主総会後にCG報告書を提出している184社。

【調査方法】

  • 各社の定時株主総会後に提出される、CG報告書の記載を調査(2023年7月26日時点)。
  • ただし、CG報告書に他の開示媒体のウェブサイトのURLを記載している場合は、その内容を含めている。

■資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて

① 取締役会での現状分析・計画策定状況、計画策定で採用されている財務指標

 資本コストや資本収益性を意識した経営の実践に向けて、現状分析、計画策定・開示、取組みの実行の一連のサイクルの継続的な実施が企業には期待されています。調査対象企業のうち、今回東証が要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について開示する企業は28.8%(53社)でした(図表1)。また、現状分析および改善に向けた計画の検討については、取締役会で議論することが求められています。一方で、取締役会で現状分析・計画策定を行っていることを開示資料の中で明記している企業の割合は11.3%にとどまりました。
 実際に計画策定で採用されている財務指標について、資本効率性や株主還元指標の採用状況を確認したところ、ROEを掲げる企業の割合が最も多く、77.4%と約8割程度を占めていました。一方で、ROICの目標値を掲げる企業は35.8%、セグメント別のROE・ROICの目標値を掲げる企業は11.3%にとどまりました。また、株主資本コスト、WACCといった資本コストに関する指標を、計画策定において参照している企業の割合は17.0%、28.3%でした。株主還元に関する指標について、採用が最も多かったのは配当性向で、35.8%に達しています。一方、PBRについて目標値を開示する企業の割合は15.1%にとどまりました。

(図表1)計画策定で採用されている財務指標の開示状況

② 現状分析を踏まえた方針の状況

 東証からの要請では、資本コストや株価を意識した経営の計画策定・開示にあたっては、自社の資本収益性、市場評価の改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取組みを現状評価とあわせて開示することが期待されています(図表2)。その改善方針を確認したところ、事業ポートフォリオの見直しについて言及する企業の割合が最も多く、79.2%を占めています。次いで、株主還元の強化やROE・ROICといった資本効率性指標の改善に言及する企業が54.7%、49.1%と5割程度みられました。一方で、株主との対話や情報開示といった機関投資家とのエンゲージメントおよびその糸口の強化を打ち出す企業の割合は26.4%、24.5%にとどまりました。

(図表2)現状分析を踏まえた企業のアクションの方向性の開示状況

■株主との対話の実施状況

① 株主との対話の主な対応者、対話を行った株主の概要

 株主との対話の実施状況では、株主との建設的な対話を促す観点から、株主との対話の主な対応者や株主の概要、対話の主なテーマ、取締役会に対するフィードバックの実施状況およびそれを踏まえて取り入れた事項などを開示することが例示されています。調査対象企業のうち、「株主との対話の実施状況」をCG報告書で開示する企業は30.4%(56社)でした。そのうち94.6%の企業が、株主との対話の主な対応者を開示していました。対応者の内訳をみると、CEO・社長が株主との対話を行っていることを開示している企業が87.5%と約9割を占めていました(図表3)。一方で、社外取締役が対応することを開示する企業は33.9%と約3割にとどまりました。また企業によっては、サステナビリティ関係者が機関投資家との対話を行うケースもみられています。また53.6%の企業が、対話を行った株主の概要について開示していました。

(図表3)株主との対話の主な対応者の開示状況

② 対話の主なテーマ・取り入れた事項、取締役会へのフィードバック状況

 「株主との対話の実施状況」を開示する企業のうち、対話の主なテーマを開示する企業の割合は67.9%でした。対話の内容を確認すると、自社事業に関する内容のほか株主還元に関するテーマやESGに関連するテーマについて対話をするケースも多くみられました。ESGの領域別にみると、E領域に関する対話が76.3%と最も多くみられました。なお、E領域ではCO2削減目標、S領域では人的資本やダイバーシティ、G領域では役員報酬やスキルマトリックス、後継者計画に関する内容について対話を行うケースがみられました。一方で、対話を行うだけでなく、実際に事業経営に取り入れたことを開示している企業の割合は、最も多いG領域においても21.1%と限定的でした。また株主との対話の内容について、取締役会・経営陣へのフィードバックを行っている企業の割合は73.2%であり約7割を占めていました。ただし、そのうち約4分の1の企業は、フィードバックの対象が経営陣のみにとどまっており、取締役会の関与に関する記載がみられませんでした。

(図表4)対話の主なテーマ・取り入れた事項の開示状況

 本調査の結果について、HRGL代表取締役社長 CEO 内ヶ﨑 茂は次のように述べています。「サステナブルな企業価値向上を実現するにあたり、資本市場から資本効率性の改善や株価を意識した経営が強く求めている。パーパス経営の実現のために、株主から選任された取締役が株主との対話を主導し、経営の正当性につき説明責任を果たすことが期待されている。本調査では、東証の要請に沿ってこれらの開示を行う企業の割合は一部にとどまっていた。今回は速報性の観点から184社に絞って調査を実施したが、今後の上場企業全体としての傾向も引き続き注視する必要があるだろう。今後、日本企業においては、全時間軸・全方位での隙のない経営が求められており、経営の難易度は一層高まっている。事業・人財の統合的なポートフォリオのあり方をはじめ、企業のサステナブルな成長に向けて、取締役会において、戦略とリスクの成熟した議論が欠かせない。ロジックモデル、インパクト評価、ビジネスシナリオ等、価値創造ナラティブを描くチカラが取締役会に期待されている。」

 “企業の「サステナビリティガバナンス」のエコシステムを構築する”をミッションとするHRGLは、今後も強靭な取締役会を起点としたサステナビリティ経営の実現に向けて、クライアント企業の多様なニーズにお応えし、企業の成長ストーリーをともに描く、コーポレートガバナンスの“かかりつけ医”としての役割を担ってまいります。

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