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コラム

Board3.0が進化させる新しい監督のカタチ

プリンシパル 戦略・リスクガバナンス部
村澤 竜一(むらさわ りゅういち)

モニタリング・モデルの限界と「Board3.0」

「これからはモニタリング・モデルだ。」 いま日本企業の取締役会の多くは、欧米で主流のモニタリング・モデルを目指している。コーポレートガバナンス・コード改訂の流れからも、経営の監督機能に重点を置いた取締役会は、有力な選択肢として強調されつつあるように見て取れる。ところが、あるべき取締役会の考え方に新たな風が吹き込んだ。「Board3.0」の議論だ。

1950~60年代の米国で支配的だったアドバイザリー・ボードを「1.0」とすると、社外取締役を中心としたモニタリング・ボードは「2.0」と呼ばれる。しかし、「2.0」では、社外取締役には情報・リソース・モチベーションの点で限界があり、執行を十分に監督できない。激変する事業環境に対応した戦略を策定・遂行しなければならないが、それを実効的に監督する機能がモニタリング・モデルには欠けているという。

ではどうすればよいのか。社外取締役が戦略の監督に参画し、採るべき戦略への議論を推し進めるボードが「3.0」である。2019年にコロンビア大学の教授らが提唱したBoard3.0は、第3期目となるCGS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会でも話題となった。

Board3.0は戦略遂行の効果的な監督を目指す

投資家を取締役として迎え入れるべき?

Board3.0は、PE(プライベート・エクイティ)ファンドによる投資先へのガバナンスモデルを、上場企業に適用しようとしたものだ。PEファンドは上場企業を買収・非公開化し、投資のプロフェッショナルを取締役会に送り込み、経営者とともに企業価値を向上させ、EXITによる多大なリターンを狙う。同様に、投資家としてのスキルやモチベーションを備えた取締役が、リソース支援を受けながら事業再編や成長戦略を推し進める。「戦略レビュー委員会」に参画し、社外取締役であっても戦略の監督に必要な情報は得られるようにする。これにより、モニタリング・モデルが抱える限界を克服できるという。

「では、投資家を取締役として迎え入れる必要があるのか?」 確かに、ビジネス経験のない社外取締役よりも、洗練されたアクティビストの方が事業をよく理解し、戦略の評価能力を有しているかもしれない。投資家がハンズオンで経営者と一体となりIPOを実現させるように、投資の成功に強くコミットするインセンティブのある者が取締役会に参加するとなれば、企業価値向上への期待も高まる。

しかし、議論の本質は、Board3.0のモデルを模倣することではなく、サステナブルに価値創造ができるよう取締役会を進化させることだ。長期的な事業価値を評価できなければ、従来のように短期業績や株価動向で経営を判断することになりかねない。「モニタリング・モデル」という言葉に囚われず、試行錯誤を重ね、常に最適な取締役(会)のあり方を構想しよう、ということではないか。

取締役会は「戦略を監督」できるか

「取締役会はどこへ向かえばよいのか?」 社外取締役への情報量を増やし、リソースを与え、インセンティブ報酬を設定したからといって、必ず取締役会の実効性が向上するとも限らない。Board3.0の核心は、変化に対応した戦略を策定・遂行できるメカニズムの必要性だろう。そのための執行と監督双方の機能強化は、CGS研究会でも焦点が当てられた。

「戦略は仮説だ。」 仮説を立て、検証し、実現することは経営者の本分である。戦略という仮説を取締役会が検証(監督)し、経営者と一体となり採るべき戦略を推し進める。監督が執行を組織目的の実現へと導き、これまでのモニタリング・モデルを乗り越える。Board3.0を契機に、成長し企業価値を高める戦略をどうすればよりよく遂行できるのか、考え抜きたい。

参考文献
Ronald J. Gilson and Jeffrey N. Gordon (2019) “Board3.0 – An Introduction,” The Business Lawyer, Vol. 74, pp. 351-366.
Ronald J. Gilson and Jeffrey N. Gordon (2020) “Board3.0: What the Private-Equity Governance Model Can Offer Public Companies,” Journal of Applied Corporate Finance, Vol. 32, No. 3, pp. 43-51.

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