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コーポレートガバナンス・コードの改訂に関するコメント

弊社は「コーポレートガバナンス・コード(改訂案)」に対するコメントを東京証券取引所に提出しました。内容は下記をご覧下さい。

 

  1. はじめに
    1.  HRガバナンス・リーダーズ株式会社(以下、HRGLとする)は、「企業の『サステナビリティガバナンス』のエコシステムを構築する」というミッションを掲げ、「企業の成長ストーリーを描くコーポレートガバナンスの“かかりつけ医”」となることをパーパスとして掲げている。日本の上場会社がそれぞれにサステナビリティガバナンスを確立して社会課題の解決に貢献していくような潮流を作るために、HRGLは多くの上場会社の経営者や国内外の機関投資家と日々寄り添い議論してきている。
    2. このような立場から、世界に誇れる指針作りと実務的な課題解決の両方に資することを目指し、今回のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGCとする)の改訂についてコメントを提出したい。
  2. 今回改訂全体に対するコメント・評価
    1. コーポレートガバナンスの「実質」を高める上で、企業の実務的な観点から「目指す姿・基本方針」「監督やモニタリングの対象・手法」「開示・投資家との対話」の3つの要素に注目している。今回改訂に向けたフォローアップ会議では、各論点とも上記の3つの要素それぞれに対し実質を高める議論が行われ、CGCおよび投資家と企業の対話ガイドライン(以下、対話ガイドラインとする)全体としては大きくレベルアップが図られたと考える。
    2. 一方で、上記3つの要素は一連のストーリーによって紐づけられることで実効的な効果を発揮すると考えている。この観点で、企業の「目指す姿・基本方針」の最重要の要素であるパーパスとマテリアリティについて今回の改訂の中では明確な言及がなかった。取締役会の機能発揮や多様性確保、サステナビリティの監督等は、パーパスやマテリアリティを基軸としたストーリーに基づいて行われるべきであり、今後の改訂においてはこの点がより明確になるようにフォローアップ会議での継続的な検討を期待したい。
    3. また今回はCGCと対話ガイドラインとが一体的に改訂されたが、グローバルスタンダードとの比較で重要であるが企業にとってややハードルの高い取組みについては、コンプライ・オア・エクスプレインの対象外である対話ガイドラインに盛り込まれたと認識している。企業においては、コンプライ・オア・エクスプレインの対象でないからといって対話ガイドラインを軽視することなく、今回改訂で対話ガイドラインに盛り込まれた趣旨を理解した上で、特にプライム市場への上場を目指す企業に対しては果敢にこれに取り組むべきであることを改めて周知されることを期待する。
  3. 改訂論点別のコメント
    1. 取締役会の機能発揮
      1. サステナビリティ経営の実現のためには、取締役会がサステナビリティや経営戦略について実効性ある議論のできる場となることが不可欠である。その観点から、独立社外取締役については人数への対応のみに捉われることなく、各取締役および取締役会全体としての質の向上を目指した取組みをすべきであると、企業と投資家双方含めて周知していただきたい。
      2. スキル・マトリックス等を活用して、取締役会が備えるべきスキルと各取締役のスキルの対応関係を公表するに当たり、取締役会が備えるべきスキルの要件を「経営戦略に照らして」と表現されたが、取締役会が備えるべきスキルの定義にはパーパスの実現やマテリアリティの解決への寄与が考慮されるべきである。「経営戦略に照らして」の意味合いとして、これらの要素が含まれているものと解釈できることを周知いただきたい。
      3. 早稲田大学の久保克行教授とHRGLによる共同研究「取締役スキルの現状分析と取締役会スキル・マトリックスのあり方」(旬刊商事法務2254号〔2021年2月15日〕)によると、東証一部上場企業の経営者のうち約6割は、過去にCEOや社長といった経営者としての経験である「経営」スキルを保有していないことが明らかになった。今回の改訂で他社での経営経験を有する者を独立社外取締役に含めることが求められたことは、取締役会・経営陣全体として求められる「経営」スキルの補完の観点で望ましいといえる。他方、いわゆる「タフアサインメント」として社内の経営陣幹部候補に子会社社長を経験させることなどにより、「経営」スキルの獲得を進めることを後継者育成計画の中で配慮すべきである点についても、今後のCGCの周知活動やフォローアップ会議での議論において言及されることが期待される。
      4. 独立社外取締役の取締役会議長への選任については、対話ガイドラインの改訂案の3-8.において言及されたが、欧米では独立社外取締役(リードディレクター)が取締役会議長を担うことは実務として定着している。独立社外取締役が役割を発揮することにより取締役会の実効性をより向上させるために、独立社外取締役の取締役会議長への選任について今後のフォローアップ会議で継続的に議論することを検討いただきたい。
      5. 取締役会の実効性向上を支える機能として、取締役会事務局機能を強化し、欧米のカンパニーセクレタリーのようなコーポレートガバナンスに関する企画機能を持たせるべきである。この点について今回の改訂検討では言及されなかったが、今後のフォローアップ会議で継続的に議論することを検討いただきたい。
      6. 取締役会に期待される監督のテーマはより幅広くなってきており、重要な経営課題については取締役会とは別の法定・任意の委員会を活用してより深掘りした議論を行うことが有効である。指名委員会・報酬委員会・監査(等)委員会に加えてコーポレートガバナンス委員会・人財開発委員会・事業ポートフォリオ委員会等を各社が創意工夫の上で組成することにより、取締役のコミットメントを強化するとともに、重要な経営課題への取組み優先順位を外部ステークホルダーにも分かりやすく示すべきである。また取締役会本会や独立社外取締役のみによる会議(エグゼクティブ・セッション)が経営課題を俯瞰した優先順位付けや各種委員会の連携機能を担うなど、取締役会・各種委員会運営の最適化を図るべきである。これらの点について、今回の改訂検討では後述のサステナビリティ委員会の整備についてのみ言及されたが、今後のフォローアップ会議ではより幅広い議論が行われることを期待したい。
      7. 取締役会の実効性評価の拡充については、対話ガイドラインの改訂案の3-7.において言及されたが、上述した取締役会議長の役割発揮状況、取締役会事務局の機能発揮状況、各種委員会の運用状況・機能発揮状況なども含めて、第三者による実効性評価を行うべきである。今後フォローアップ会議ではより幅広い議論が行われることを期待したい。
    2. 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
      1. 企業の「目指す姿・基本方針」や「開示・投資家との対話」の要素に従業員の多様性の観点が盛り込まれたのは、サステナビリティ経営の促進に向けて高く評価できる。
      2. 一方、「中途採用者」という個別的な属性が多様性の要素として記載されるのは、「転職者の方が新卒採用よりも尊重される」といった画一的な価値観を想起させ、各社のオリジナルな多様性確保の取組みを逆に阻害しかねない。また、わが国に比して労働市場における人材流動性が高い諸外国ではいわゆる新卒採用者と中途採用者の定義は曖昧であり、積極的にグローバル展開する企業においては今回の改訂の趣旨を理解し、目標設定や開示を行うにあたり課題が予想される。「中途採用者」を多様性の要素に盛り込んだ趣旨を改めて周知し、他の多様性の要素も含めてあくまで各社が目指すオリジナルな多様性に応じて目標設定や開示等が行われるべきであることを、企業と投資家の双方に丁寧に説明されることを期待したい。
    3. サステナビリティを巡る課題への取組み
      1. サステナビリティを事業戦略・事業ポートフォリオや人財・知財等の経営資源配分に紐づけるなど、実効性あるサステナビリティ経営の実現に向けた「監督・モニタリングの手法」について意欲的に盛り込まれた点は高く評価したい。
      2. 一方、事業ポートフォリオや経営資源配分の考え方は、企業の「稼ぐ力」に直結するものである。対話ガイドライン2-2には「営業キャッシュフローを十分に確保するなど、持続的な経営戦略・投資戦略の実現を図る」とあり、サステナビリティの前提としてのキャッシュフロー創出力の観点に触れられているが、CGCの周知を進める際にもこの点を改めて強調されたい。
      3. サステナビリティの取組みに関する「目指す姿・基本方針」に当たる「サステナビリティについての基本的な方針」の策定がCGCに盛り込まれたが、これはパーパスやマテリアリティを含むものであると解釈している。各上場会社には、パーパスやマテリアリティに基づく一貫したストーリーでサステナビリティの取組みを進めるべきであることを周知願いたい。
      4. 気候変動開示について、プライム市場上場会社に対してはTCFDと同等の枠組みでの開示の充実が求められたが、TCFDと「同等」の枠組みは現時点で存在せず、実質的にTCFD枠組みそのものの採用を求められていると解釈される。しかしながらTCFD枠組みに基づく開示はセクター間の取組みレベルの差が大きく、気候変動影響の少ないセクターにとって「開示・投資家との対話」の手段としてはハードルが高いという声が聞かれる。枠組みそのものの遵守を一律・性急に求めるものではなく、将来、開示要求が高まることに備えてできるところから着実に取り組むべきであることを、企業と投資家の双方に丁寧に説明されることを期待したい。また、今後企業に求められる対応として、TCFD枠組みによる開示に留まらず、シナリオ分析の手法を幅広く応用することにより気候変動以外の将来環境変化についても予測・分析し、中長期的な戦略の見直しに活用するとともに、株主や投資家等の多様なステークホルダーとの建設的な対話のテーマとすることの重要性も訴求していただきたい。
      5. サステナビリティ委員会の設置については、今回はCGCではなく対話ガイドラインに盛り込まれた。サステナビリティ委員会は「監督・モニタリングの手法」として海外では実務として定着しつつあり、また日本の上場会社においてもサステナビリティ委員会を活用した監督機能の充実に対するニーズは高まってくることが考えられる。今後の改訂の中でCGCにおいても取締役会の実効性強化のための諮問委員会としての設置を求め、コンプライ・オア・エクスプレインの対象としていくことをフォローアップ会議でも継続的に検討されることを期待したい。
      6. 補充原則4-2②はサステナビリティ基本方針等について言及されているが、その上位の原則である4-2の内容(リスクテイクを支える環境整備)との関連性がわかりづらい。同内容は、理解しやすくするためにも、原則4-1(会社の目指すところ・戦略的な方向づけ)の配下に記載することを検討願いたい。
    4. グループガバナンスの在り方
      1. 「グループ経営に関する考え方や基本的な方針」はグループガバナンスの実効性向上のための「目指す姿・基本方針」として不可欠な要素である。フォローアップ会議資料「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」には、これについて「わかりやすく説明する」との記述がみられたが、CGC・対話ガイドラインのいずれの改訂内容にも反映されていない。CGCにおいて開示項目として盛り込むか、フォローアップ会議で継続的に検討し次回以降のCGC改訂で具体的に盛り込まれることを期待したい。
    5. 監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理
      1. 内部監査部門から取締役会等に対し直接報告が行われる仕組みを構築すべきであることが盛り込まれたが、フォローアップ会議で多くの委員が言及されていたように、内部監査機能を活用する上では、内部監査部門の独立性(人事権等)、内部監査品質の確保が非常に重要である。この点、CGC・対話ガイドラインのいずれにも盛り込まれなかったが、今後CGCを周知する中ではこの点も合わせて言及されることを期待したい。
      2. グループ全体を含めた「全社的リスク管理体制」の構築について言及されたが、「全社的リスク管理体制」は戦略に紐づいてとるべきリスクの認識(リスクアペタイト)も包含した意味を持つことを周知願いたい。
    6. その他の論点
      1. 昨今わが国においてもアクティビストの動きが活発化しており、直近でも国益にとって重要な技術を保有する企業に対する海外ファンドの買収提案も報道されたところである。今回改訂ではこのような国益にかかわるような敵対的買収等への対応についての議論はされなかったが、社会インフラとしての企業の持続可能性を担保するという観点で、敵対的買収等の局面に備えたコーポレートガバナンス面での取組み(例えば、独立社外取締役のさらなる活用、幅広い機関投資家とのエンゲージメント等)も重要であることを、今後も周知されていくことを期待したい。
    7. 適用時期・開示時期関係
      1. 新市場区分の選択申請手続(2021年9月~12月末)を行う際には、2021年12月末時点の改訂版CGCに対応したコーポレート・ガバナンス報告書を参照することにより「より高いガバナンス水準」を東証側で検証されると理解している。一方、「より高いガバナンス水準」に含まれるであろう「プライム市場上場会社のみに適用される原則等」については、適用開始が2022年4月4日とされているため、2021年12月末時点ではこれらの原則等は未適用であり、コーポレート・ガバナンス報告書におけるコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないとも解釈できる。新市場区分の選択申請(2021年12月末時点)において「プライム市場上場会社のみに適用される原則等」への対応(予定)状況をどのように開示すべきか、明らかにしていただきたい。
      2. 東証資料「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)」(2021年4月7日)には、「プライム市場上場会社のみに適用される原則等」に関するコーポレート・ガバナンス報告書での開示期限が明記されていない。フォローアップ会議の提言にある通り、「実施日(2022年4月4日)以降に行われる株主総会後速やかに」コーポレート・ガバナンス報告書を提出すべきであることを明確にしていただきたい。

以上

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