指名・報酬委員会の実効性向上に向けて
日本企業の抱える運営上の課題と取組みのヒント
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
安生 直史
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
北島 育雄
■ サマリー
2023年、2024年に金融庁から公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」、「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム 2024」では、指名・報酬委員会の実効性向上に関する言及がある。
コーポレートガバナンス・コードの策定等を契機として指名・報酬委員会の設置が進んだ日本企業が多い中で、現在では、外形的な体制構築を整えるフェーズから、実質的な議論を行い、実効性を高めるための工夫を行うフェーズに移行している。
指名委員会の領域においては、CEOサクセッションについて課題を抱えている企業が多く、策定から運用の段階までその課題は多岐に渡る。CEOと幹部従業員のサクセッションの有機的な接続に向けては、後継者計画の一体運用を担う人財開発委員会等の会議体を指名委員会の傘下に設置することが対応策として考えられる。
報酬委員会の領域においては、報酬のグローバル化対応や、業績連動報酬におけるKPI設定の妥当性の評価等が課題として挙げられた。いずれの課題もコーポレートガバナンス・コードの策定を契機として各企業が役員報酬の改定を進めてきた中で、更なる実効性向上に向けた課題として顕在化してきた内容であると想定される。
今後、指名・報酬委員会の運営の実効性を高めていくために、取締役会の運営と指名・報酬委員会の運営を連携しながら、企業のガバナンス体制のコントロールタワーの役割を担う「コーポレートセクレタリー」の機能が重要となり、その中で指名・報酬委員会の事務局メンバーも重要な役割を果たしていくものと考えられる。
【HRGLからのお知らせ】
「2024年コーポレートガバナンス・サーベイ」レイト参加企業募集中
HRGLでは、コーポレートガバナンス強化の要諦となる指名・報酬・人的資本の各分野をカバーするサーベイを実施しております。
2024年サーベイの通常スケジュールは既に終了しておりますが、引き続きレイト参加企業を募集しています。
本サーベイの参加(無料)により、他社比での貴社取組み状況について定量・定性両面からの客観的分析が可能となります。ご興味がある場合は、下記よりお申込・お問合せください(レイト参加の申込締切:2月28日(金))
https://www.hrgl.jp/service/compensationgovernance/compensationsurvey/
1. はじめに:指名・報酬委員会の運営に求められること
日本では 2015 年のコーポレートガバナンス・コードの策定を機に指名・報酬委員会を設置する企業が増えてきており、その後、2023年に公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(図表1)および、2024年に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム 2024」(図表2)において、指名・報酬委員会を含めた取締役会等の実効性向上について言及されるまでになりました。これは取締役会や指名・報酬委員会の活動状況に関する情報開示が拡充された一方で、次の段階として各会議体の実効性の向上に向けて企業が試行錯誤し始めている状況を示唆しているものと考えられます。今後、指名・報酬委員会の実効性向上を図るために、独立社外取締役や各委員会の委員長が果たすべき役割を定義し、その役割を果たすために必要な情報連携体制をつくるなどの仕組みづくりが求められてきます。
本稿では、筆者らが日ごろから接している指名・報酬委員会の事務局の皆様からお聞きした各委員会の実効性向上に向けて抱えている課題を紹介しつつ、特に多くの声が寄せられたトピックについて、具体的な取組み例や考え方をご案内させていただきます。
図表1
コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム 出典:金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」(2023年4月2">参考文献
- 1 詳細はHRGLメールマガジン No.103「コーポレートガバナンス 7.0 が描く理想像とコーポレートセクレタリー機能の強化に向けて」をご参照。https://www.hrgl.jp/sus-opinion/sus-opinion-8919/
- 2 詳細はHRGLメールマガジン No.126「今問われる、コーポレートガバナンス改革の実質化 第2弾」をご参照。 https://www.hrgl.jp/sus-opinion/sus-opinion-10978/
- 3 経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日策定) 2.3.3 グループ本社による子会社の管理・監督の在り方 から抜粋
- 4 以下の企業を対象としてHRGLが実施した調査結果による。日本:TOPIX500のうち2022年4月から2023年3月に決算期を迎え、連結報酬等が開示されている2024年1月末時点での時価総額上位100社。アメリカ:S&P500のうち2023年1月から2023年12月に決算期を迎え、報酬ターゲット構成比率が開示されている2024年1月末時点での時価総額上位100社。イギリス:FTSE350のうち2023年1月から2023年12月に決算期を迎え、報酬ターゲット構成比率が開示されている2024年1月末時点での時価総額上位100社。ドイツ:DAX40とHDAX100のうち2023年1月から2023年12月に決算期を迎え、報酬ターゲット構成比率が開示されている2024年1月末時点での時価総額上位40社
- 5 その他の参考資料としてHRGLメールマガジン No.147「日経225構成企業の経営者報酬制度を巡る最新動向」をご参照。 https://www.hrgl.jp/sus-opinion/sus-opinion-12024/
- 6 HRGLの実施した2024年コーポレートガバナンス・サーベイでは、報酬委員会を設置している企業のうち、約2割が報酬委員会の実効性評価を「実施している」と回答し、約1割が「実施を検討中」と回答
- 7 詳細はHRGLメールマガジン No.145「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートセクレタリー機能の高度化」をご参照。https://www.hrgl.jp/sus-opinion/sus-opinion-11994/
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
安生 直史 Naofumi Anjo

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
北島 育雄 Ikuo Kitajima
