HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

株主との対話を深める「役員報酬」とは

「自前主義」から脱却するCGサーベイの戦略的活用

  • Corporate
    Governance
  • Nomination/HR
  • Compensation
  • Sustainability

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

菅野 真吾

■ サマリー

CGコード改訂等により株主との対話の重要性が格段に高まる中、いわゆる「自前主義」的な役員報酬設計・対外開示には限界がきている。そのため、客観的なサーベイデータを活用した実効性のあるアプローチへの転換が求められている。

アカウンタビリティを高めるためには、恣意的なデータではなく、網羅的な「ピアグループ」を用いて比較検証することが不可欠である。最新の市場動向や投資家の視点を踏まえ、株主との価値共有に向けた報酬制度の設計と開示が重要となる。

CGサーベイデータを活用し、自社の「現在地」を定量的に把握することで、報酬委員会等において社外取締役を巻き込んだ実質的な議論が可能となる。加えて、単に他社と横並びにならない、自社の報酬戦略に照らした明確なストーリーを描けるようになる。

CGサーベイへ参加しデータを提供することは、自社のガバナンスを強化することだけにとどまらない。このことは、CGサーベイ全体のデータの質と母集団の厚みを向上させることを通じ、より質の高い分析を可能にし、ひいては、日本企業全体のガバナンス向上に大きく寄与する。

目次

目次を閉じる

1.「株主との対話」強化時代に求められる「役員報酬」の在り方

 2026年4月に公表されたコーポレートガバナンス・コードの改訂案¹では、「株主との対話」が基本原則1に統合され、コーポレートガバナンスの起点として再整理がなされました。機関投資家をはじめとする「株主との対話」は、コーポレートガバナンスの深化のために欠かせないものとして位置づけられています。
 企業の価値創造ストーリー実現のために、経営陣のインセンティブとして設計される「役員報酬制度」は、株主との対話における重要アジェンダの1つです。役員報酬に対しては、株主と価値共有(利害の一致)ができているか、Pay for Performanceの仕組みが採られているか、そしてガバナンスの実効性が担保されているか等、様々な視点で株主からの関心が寄せられています。
 このような状況下で、過去の踏襲や社内におけるバランス調整を前提とした、いわゆる「自前主義」的な制度設計や対外説明(開示)には限界があります。
 本稿では、株主との対話の強化が求められる時代における、役員報酬制度の在り方について、客観的データ(サーベイデータ)を用いた実効性ある活用方法をご紹介します。

2.アカウンタビリティを高めるサーベイデータ

2-1 比較検証ツールとしてのCGサーベイ

 自社の役員報酬水準や構成の妥当性を検証し、株主に対して合理的な説明責任(アカウンタビリティ)を果たすためには、自社にとって都合の良い数社の事例のみに基づいた恣意的なデータではなく、統計的かつ網羅的な客観的データに基づく「ピアグループ」(自社の比較対象として選定した企業グループ)との精緻な比較検証が求められます。精緻な比較検証のためにはサーベイデータを活用することが重要と指摘されています。
 HRGLでは、毎年、「コーポレートガバナンス・サーベイ²」(以下、「CGサーベイ」)を実施しています。CGサーベイは、コーポレートガバナンスの要諦となる取締役会・人的資本・指名・報酬・サステナビリティの5領域をカバーし、各社の「現在地」を把握するためのサーベイです。

2‐2 レポートを活用したアカウンタビリティの向上

 CGサーベイのデータ活用においては、例えば、社長の報酬水準がピアグループに比べ高いのか低いのか、株式報酬に関してピアグループ内ではどのスキームを入れている企業が多いのか等、報酬ガバナンスにおける様々なデータを閲覧することができます。ここでは、株主の関心が特に高い「報酬構成」(基本報酬・賞与・株式報酬の構成割合)に関するレポートをご紹介します(図表1)。

図表1

報酬構成レポート(イメージ)
出典: 2025年コーポレートガバナンス・サーベイを基にHRGL作成(数値はダミー)

 このレポートでは、役位ごとに自社の報酬構成の値と、参加企業(設定したピアグループ)の報酬構成の平均値とがグラフ化されています。赤枠で囲んだ社長の報酬構成を例にとると、自社の報酬構成は基本報酬:賞与:株式報酬がおよそ7:2:1であるのに対し、ピアグループの平均値はおよそ5:2.5:2.5となっており、ピアグループと比較して、自社は基本報酬割合が高く、変動報酬(賞与・株式報酬)の割合が低いことが分かります。このようにサーベイデータを用いて、自社の役員報酬水準や構成をピアグループと比較することで、自社の現状や今後在るべき姿を考えることができます。
 株主に対するアカウンタビリティを果たすためには、市場の最新動向や投資家の期待について客観的データを基に的確に把握し、「株主との価値共有に向けた自社の報酬制度の設計方針」について、透明性をもって開示していくことが重要になります。

3.サーベイデータを用いたモニタリングと制度の見直し

3-1 比較検証による「現在地」の可視化

 サーベイデータを活用して、ピアグループと比較することで、自社の「報酬制度の現在地」を定量的に把握することができ、報酬委員会等での実質的な議論に寄与します。
 例えば、自社が設定したピアグループの中で、“自社の業績規模は上位25%に位置するのに、役員の報酬水準は下位25%に位置している”といったような結果が出た場合、自社の経営層の人材競争力・リテンション等を図る上で現在の報酬水準を維持すべきかどうか、社外取締役を巻き込みながら、単なる感覚論にとどまらない本質的な議論が可能となります。

3‐2 毎年の定点観測と報酬戦略の「ストーリー」構築

 また、サーベイデータの活用にあたっては、報酬制度の改定を予定する年度だけ利用するのではなく、毎年のデータを取得し、定点観測を行うことが重要です。サーベイに加入し続け、毎年のデータを目にすることで、過去からのトレンド変化を踏まえた議論も可能となるためです。
 加えて、毎年の定点観測の結果を確認した上で重要なことは、“他社がこうしているから”といった横並び的なプラクティスとの比較で終わらせない、ということです。客観的データや最新のトレンドを踏まえ、報酬委員会等において、自社の中長期的な企業価値向上のための報酬戦略に照らして、「なぜこの水準や構成、KPIを選択したのか」、「自社の報酬ポリシーを実現できているか」を改めて議論し、社内外で説明し得る明確なストーリーを示すことが必要です。

4.おわりに──質の高い対話は、質の高いデータから

 このようにデータ活用を行いながら、株主との建設的な対話をすることが求められています。株主の理解へつなげる報酬ガバナンスを実現するためには、分析の土台となるサーベイデータの「質」および「母集団の厚み」が重要となってきます。そして、自社内における議論や株主との対話においては、サーベイデータの中に、自社にとって真に競合となり得る企業群が含まれていることは必須です。
 CGサーベイはデータの「質」と「母集団の厚み」について高い評価を得ています。2025年は、プライム市場上場大企業を中心に400社近くの企業に参加申込をいただきました。CGサーベイは企業のサステナブルな成長に貢献するコーポレートガバナンスのグランドデザインの構築に貢献しています。
 CGサーベイへご参加いただくことで、CGサーベイ内の企業データはさらに充実します。このことは、参加企業の皆様にとって、自社のガバナンス強化により活用できることを意味するのと同時に、日本企業全体のガバナンスが向上することにも繋がります。
 日本企業全体の「株主との対話」の地盤をより強固なものにするためにも、是非CGサーベイへのご参加をお願いいたします。

参考資料

1.金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード──会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために(改訂案」基本原則1。なお、同改訂案に関する詳細は、澤口実 = 小林雄介「コーポレートガバナンス・コード改訂案のポイント──スリム化と成長投資の促進に向けた実質化」を参照。
2.CGサーベイの詳細は、HRGL「コーポレートガバナンス・サーベイ(CGサーベイ®」を参照。なお、CGサーベイは、本文でも述べるとおり、取締役会・人的資本・指名・報酬・サステナビリティの5領域におけるサーベイを実施しているが、本稿では「報酬」領域の活用に限定して紹介する。

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

Shingo Sugano

明治大学法学部卒。法律系の学術出版社にて学習用雑誌やWebメディアの企画・編集業務を経て、現職。当社では役員報酬や従業員株式報酬等の報酬領域に係るコンサルティング業務に従事。