HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

米英企業のCEOを中心とした報酬制度の最新潮流と日本企業の現在地(1)

-報酬水準・ミックス・クローバックの導入状況-

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント

野中 美希

■ サマリー

CEOの報酬額(総額)の中央値は、日本が約3億円、アメリカが約40億円、イギリスが約9億円と、日本はアメリカ・イギリスと比較して依然として報酬水準が低い。アメリカ・イギリスとの報酬額の差異は、日本の業績連動型報酬が少ないことに起因する

日本の報酬ミックス(実績)は、2021年は基本報酬が50%を占めていたが、2025年は基本報酬が34%に大きく減少。一方、業績連動型報酬(STI・LTIの合計)の割合が66%(同34%、32%)に増加した。アメリカは、実績・ターゲット構成比ともに大半をLTIが占める。イギリスは実績ベースで、2025年は業績連動型報酬の割合が76%(STI33%、LTI43%)を占める

報酬水準の決定に用いるピアグループの構成企業の個社名および選定基準の開示状況は、日本は、選定基準のみを開示している企業は45%あるが、選定基準と個社名の双方を開示している企業は1社(1%)のみ。一方で、アメリカでは98%とほぼすべての企業が、イギリスでは43%の企業がピアグループを構成する個社名および選定基準を開示している

アメリカとイギリスでは、STIとLTIの双方において、ほぼすべての企業がクローバック条項の導入について開示。一方、日本は2025年においてSTIで32%、LTIで59%と、アメリカ・イギリスと比較して未だ低い水準にとどまる

目次

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1.はじめに

 各国のCEOを中心とした報酬の水準や制度の特徴、最新の動向を明らかにすべく、日本、アメリカ、イギリスの時価総額上位企業を対象(調査対象企業は図表1の通り)に調査を実施しましたので2回に分けて紹介します。
 本稿(1回目)では、CEO報酬の実績額や報酬ミックス、報酬水準決定のためのピアグループの選定状況を紹介します。次回(2回目)は、CEO報酬決定のための業績評価指標の採用状況を紹介しつつ、日本、アメリカ、イギリスにおけるCEO報酬の水準や制度設計の違いを踏まえ、今後の日本企業の経営者報酬改革において考慮すべきと考えるポイントを整理します。

図表1

調査対象企業

2.CEOの報酬実績

 2025年におけるCEOの報酬額(総額)の中央値は、日本が約3億円、アメリカが約40億円、イギリスが約9億円でした(図表2)。日本のCEO報酬額は、2021年と比較して1.7倍(約1.8億円→約3億円)と2020年のイギリスに相当する額¹まで増加しましたが、現在のアメリカ・イギリスと比較すれば依然として低い水準にとどまっています。
 また、2021~2025年における日本を基準としたアメリカ・イギリスとの報酬格差の推移をみると、イギリスとは約3倍で横ばい、アメリカとは約15倍から約13倍と格差が縮小していますが依然として大きな差があります。
 翻って2025年の報酬額の内訳をみると、日本は、基本報酬、短期インセンティブ(STI)、中長期インセンティブ(LTI)がそれぞれ約1億円ずつとなっています。一方で、アメリカは同約2億円、約6億円、約32億円、イギリスは同約2億円、約3億円、約4億円です。日本を基準としたアメリカ・イギリスの報酬額の差異は、基本報酬ではそれぞれ約2倍にとどまりますが、業績連動型報酬(STIとLTIの合計)は、アメリカが約19倍、イギリスが約4倍で、特にアメリカのLTIは日本の約33倍となっています。報酬額の差異は、日本の業績連動型報酬がアメリカ・イギリスと比較して少ないことに起因することがわかります。

図表2

CEOの報酬額の推移(2021~2025年、中央値)
出典: 各社公表資料よりHRGL作成

3.CEOの報酬ミックス

 各国のCEO報酬ミックスについて、実績およびターゲット構成比(対象年度における業績連動型報酬の各指標について過達、未達などがなく目標を達成した場合の基本報酬、STI、LTIの報酬総額に占める構成比)を調査しました(図表3・4)。
 日本の報酬ミックス(実績)を2021年と2025年で比較すると(図表3)、2021年は基本報酬が50%を占めていましたが、2025年は基本報酬の割合が34%に大きく減少し、業績連動型報酬の割合が66%(STI34%、LTI32%)に増加しました。同様に、日本の報酬ミックス(ターゲット構成比)を2021年と2025年で比較すると(図表4)、2021年は基本報酬の割合が41%でしたが、2025年は36%と5%pt低下し、その分業績連動型報酬の割合が増加しています。
 一方、アメリカは、実績・ターゲット構成比ともに、基本報酬とSTIの割合が低く、大半をLTIが占めていますが、2021年と比較して2025年のターゲット構成比におけるLTIの割合が高まっており、より一層LTIのウエイトを高める傾向がみられます。イギリスは日本に比較的近い報酬ミックスですが、実績ベースでみると(図表3)、2025年は業績連動型報酬の割合が76%(STI33%、LTI43%)を占めており、日本と比較して、業績連動型報酬の割合が高くなっています。

図表3

CEOの報酬ミックス(実績、2021年・2025年)

図表4

CEOの報酬ミックス(ターゲット構成比、2021年・2025年)
出典: 各社公表資料よりHRGL作成

4.報酬水準決定のためのピアグループの開示

 CEOをはじめとする経営者報酬の水準の決定にあたっては、人財獲得市場において競合となる同業他社や同規模企業などからなるピアグループを設定し、自社にとって適切な報酬水準を見極めるためのベンチマークとして用いることが有用です。
 報酬水準の決定に用いるピアグループの構成企業の個社名および選定基準の開示有無を調査したところ、日本では、選定基準のみを開示している企業は45%あるものの、選定基準と個社名の双方を開示している企業は1社(1%)にとどまっています(図表5)。
 翻って、アメリカでは98%とほぼすべての企業が、ピアグループを構成する個社名および選定基準を開示しています。同国では、証券取引委員会(SEC)の規則により、報酬決定に用いたベンチマーク企業の開示が求められていることが背景にあります²。また、イギリスは個社名および選定基準を開示している割合は43%と、アメリカと比較すれば低いですが、4割以上の企業が開示しており、日本はアメリカ・イギリスと比較して報酬水準決定プロセスの透明性が相対的に低いといえます。

図表5

報酬水準の決定に用いるピアグループ(2025年)
出典: 各社公表資料よりHRGL作成

5.クローバック条項の導入開示状況

 重大な法令・社内規則違反や財務情報の訂正、自社の評価・企業価値を著しく毀損させる行為等が生じた場合に、インセンティブ報酬の全部または一部の返還を求める規定をクローバック条項といいます。
 クローバック条項の導入について開示している企業の割合を調査したところ、アメリカ・イギリスでは、STIとLTIの双方において、ほぼすべての企業が同条項の導入について開示しています(図表6)。背景には、アメリカではSECの規則に基づき、上場企業がクローバック制度の導入および開示を行うことが求められていること³、イギリスではコーポレートガバナンス・コードにおいて、クローバック制度の導入が求められていること⁴があります。
 一方、日本は2025年においてSTIで32%、LTIで59%しかクローバック条項の導入について開示しておらず、アメリカ・イギリスと比較して低い水準にとどまっています。しかし、2022~2025年の推移をみると、導入開示割合は年々増加しており、経営者報酬にクローバック条項を導入する企業が増えている傾向がみてとれます。

図表6

クローバック条項 導入開示割合の推移(2022~2025年)
出典: 各社公表資料よりHRGL作成

6.おわりに

 本稿では、CEO報酬の実績額や報酬ミックス、報酬水準決定のためのピアグループの選定状況をみてきました。
 日本企業において、2025年における報酬額(総額)の中央値は約3億円と、2020年のイギリスに相当する額に到達しました。報酬ミックスは、基本報酬とSTI、LTIの割合がそれぞれ1/3ずつ程度になりましたが、アメリカ・イギリスと比較して業績連動型報酬の割合が低く、経営陣が積極的に適切なリスクテイクを行い、企業価値向上に強くコミットするインセンティブが働きにくい構造になっていると考えられます。
 また、日本は、アメリカ・イギリスと比較して、報酬水準決定のピアグループの選定基準や個社名の開示が少ないなど、総じて報酬決定のプロセスの透明性が低い状況にあります。この背景のひとつとして、日本では欧米に比べて報酬額が低かったため、報酬決定のプロセスの透明性に対する投資家からの要求が欧米ほど強くなかったことや開示規制が緩やかであることが一因として考えられます。しかし、今やCEOの報酬額は着実に増加しており、日本企業も報酬制度全体としての透明性を高めることが必要です。
 グローバルでの優れた経営者の人財獲得の観点やCEOをはじめとした経営陣の中長期視点での適切なリスクテイクを促すためには、成果に報いることができる報酬制度を設計し、欧米と見劣りのしないインセンティブの設計が期待されます。その際には、報酬額ならびに業績連動型報酬の割合の増加にともない、不正行為や企業価値を毀損するような行為を防止し、グローバル投資家からの自社の報酬ガバナンスへの信頼を獲得する観点から、クローバック条項の導入をセットで行うことが望まれます。
 次回は、CEO報酬の業績評価指標を中心に紹介したうえで、今後の日本企業の経営者報酬改革において考慮すべきと考えるポイントを整理します。

参考文献

  • 1.2020年におけるイギリスのCEO報酬額(総額)は、約3億円。
  • 2.U.S. Securities and Exchange Commission, “Regulation S-K,” https://www.sec.gov/rules-regulations/staff-guidance/compliance-disclosure-interpretations/regulation-s-k.
  • 3.Securities and Exchange Commission, “listing Standards for Recovery of Erroneously Awarded Compensation,” https://www.sec.gov/files/rules/final/2022/33-11126.pdf.
  • 4.Financial Reporting Council, “UK Corporate Governance Code” (2024年1月) https://media.frc.org.uk/documents/UK_Corporate_Governance_Code_2024_a2hmQmY.pdf.

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント

Miki Nonaka

大手金融機関にて受託財産管理業務に従事。その後、シンクタンクにて、福祉・労働分野を中心とした官公庁からの受託調査研究、民間企業向けコンサルティング業務、官庁への出向を経験。現在は、報酬領域を中心としたリサーチ業務に携わる。慶應義塾大学商学部卒。