米英企業のCEOを中心とした報酬制度の最新潮流と日本企業の現在地(2)
-業績評価指標の採用状況と今後の日本企業の経営者報酬改革のポイント-
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
野中 美希
■ サマリー
業績連動型のSTIおよびLTIにおける1スキーム当たりの指標採用数の平均(財務指標と将来財務指標の合計)は、2025年において、STIでは、日本は3.6個、アメリカは4.7個、イギリスは5.5個。LTIでは、日本は3.7個、アメリカは1.9個、イギリスは4.0個。3か国とも、前年比、STIは減少、LTIはほぼ横ばいである
業績評価指標における財務指標の採用割合をテーマ別にみると、STIにおいて、日本はアメリカ・イギリスと比較して、純利益や資本効率関連の指標の採用割合が高く、キャッシュフロー関連の指標の採用割合が低い。LTIでは、3か国とも、TSR(株主総利回り)関連の指標の採用割合が最も高い
業績評価指標における将来財務指標の採用割合は、日本はSTI・LTI共に45%程度であり、近年STIでの採用割合が増加。アメリカ・イギリスは、STIでの採用割合がLTIより高いものの減少傾向にあり、逆にLTIでは増加傾向である
将来財務指標のテーマ別(E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)、サステナビリティ/ESG、その他)の採用割合をみると、日本はアメリカ・イギリスと比較して、STIおよびLTIでサステナビリティ全般に係る指標である「サステナビリティ/ESG」領域の指標の採用割合が高く、またLTIにおいては「E」領域の指標の採用割合も高い。アメリカとイギリスは、「経営戦略全般」の採用数が上位にきており、戦略目標など経営戦略と紐づいた将来財務指標をKPIに採用している傾向がある
業績評価指標として個人評価を採用する企業の割合は、STIにおいて、日本とイギリスでは3割超、アメリカは1割程度。LTIについては、日本で7%、アメリカ・イギリスではほとんどない
目次
1.はじめに
各国のCEOを中心とした報酬の水準や制度の特徴、最新の動向を明らかにすべく、日本、アメリカ、イギリスの時価総額上位企業を対象に調査を実施しました。
前回(1回目)は、「米英企業のCEOを中心とした報酬制度の最新潮流と日本企業の現在地-報酬水準・ミックス・クローバックの導入状況」と題し、CEO報酬の実績額や報酬ミックス、報酬水準決定のためのピアグループの選定状況を紹介しました¹。今回は、CEO報酬決定のための業績評価指標の採用状況を紹介しつつ、日本・アメリカ・イギリスにおけるCEO報酬の水準や制度設計の違いを踏まえ、今後の日本企業の経営者報酬改革において考慮すべきと考えるポイントを整理します。調査対象企業については前回メールマガジンを参照ください。
2.業績評価指標の採用数の状況
CEO報酬のうち、業績連動型の短期インセンティブ(STI)および中長期インセンティブ(LTI)における1スキーム当たりの指標採用数の平均(財務指標と将来財務指標の合計)をみると、STIでは、2025年において、日本は3.6個、アメリカは4.7個、イギリスは5.5個と、いずれも2024年と比較して減少しています(図表1)。そのなかで、日本の平均将来財務指標数は1.2個と前年比増加しています。
LTIでは、2025年における1スキーム当たりの平均業績評価指標数は、日本は3.7個、アメリカは1.9個、イギリスは4.0個とほぼ前年と同水準です。
図表1
1スキーム当たりの平均業績評価指標数(2024~2025年)

3.業績評価指標における財務指標の採用状況
CEO報酬のうち業績連動型報酬の支給額の決定に用いる業績評価指標における財務指標の採用状況をみていきます。
はじめに、STIにおける財務指標の採用割合をテーマ別にみると、日本は売上・収益、営業利益、純利益関連が3割超、次いで資本効率関連が2割超となっています(図表2)。またアメリカは、売上・収益関連の採用割合が5割超と依然として高く、営業利益やキャッシュフロー関連が3割超で続いています。また、イギリスは、営業利益やキャッシュフロー関連の採用割合が3割超で高く、営業利益と資本効率関連がわずかに増加傾向にあります。3か国で比較すると、日本は純利益や資本効率関連の採用割合が高く、キャッシュフロー関連の指標の採用割合が低くなっています。
次に、LTIにおける財務指標の採用割合をテーマ別にみると、日本は売上・収益、純利益、キャッシュフロー関連の採用割合が年々減少傾向にあります(図表3)。反対に、資本効率関連の採用割合は4割程度で推移しているほか、近年はTSR関連の採用割合が増加し、2025年は4割を超えています。アメリカとイギリスは、2021~2025年にかけて、TSR関連の採用割合が最も高く、次いでEPS関連の採用割合が高くなっています。
図表2
STIにおけるテーマ別財務指標の採用割合の推移(2021~2025年)

図表3
LTIにおけるテーマ別財務指標の採用割合の推移(2021~2025年)

4.業績評価指標における将来財務指標の採用状況
ここでは、業績評価指標における将来財務指標の採用状況をみていきます。
4‐1 将来財務指標の採用状況
CEO報酬の業績評価指標として将来財務指標を採用する企業の割合は、日本は、STIにおいて年々増加し、2025年は45%に達しました(図表4)。一方、LTIにおいては2023年以降45%前後で推移しています。アメリカとイギリスは、STIにおいて減少傾向にあり、2025年はアメリカで53%、イギリスで74%となっています。一方で、LTIにおいて採用割合は増加傾向にあり、2025年はアメリカで16%、イギリスで51%となっています。
3か国でLTIにおける状況を比較すると、日本は2024年にLTIでの採用割合は48%と最も高かったのですが、2025年は、イギリスのLTIにおける採用割合が5割を超え、日本よりも高くなっています。
図表4
将来財務指標の採用割合(2021~2025年)

4‐2 テーマ別 将来財務指標の採用状況
CEO報酬の業績評価指標として将来財務指標を採用している企業を対象に、各国における将来財務指標の採用割合の推移をテーマ別(E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)、サステナビリティ/ESG、その他)²にみます。
日本は、STIにおいて「S」およびサステナビリティ戦略やESG各領域での施策に係る指標である「サステナビリティ/ESG」の採用割合が、またLTIにおいて「サステナビリティ/ESG」の採用割合が最も高くなっています(図表5)。しかし、STI、LTIにおいて「サステナビリティ/ESG」のなかでも、「サステナビリティ課題への注力度」や「CSRの向上」など「サステナビリティ全般」に係る指標の採用が多く、具体的な定量指標を採用していない傾向があります(図表8・9)。
アメリカは、STIおよびLTIで、ESGいずれの領域にも該当しない「その他」の採用割合が最も高く、次いで「S」の採用割合が高くなっています(図表6)。また、イギリスは、STIでは「その他」と「S」、LTIでは「E」の指標の採用割合が最も高くなっています(図表7)。具体的な指標でみると(図表8・9)、アメリカとイギリスでは、「その他」に分類される「経営戦略全般」が上位にきており、戦略目標など経営戦略と紐づいた将来財務指標をKPIに採用している傾向がみられます。そのほかの指標も、「GHG排出量関連」や「安全性関連」、「顧客満足度関連」など、定量的・客観的に測定しやすい指標が多く採用されています。
なお、2025年はアメリカとイギリスで「S」の採用割合がSTI・LTIともに前年より大きく減少しました(図表6・7)。図表に示してはいませんが、減少要因をみていくと、アメリカは、STI全体での将来財務指標の採用総数が2025年は203件と前年比81件減少している点を考慮する必要がありますが、「S」全体で2025年は64件と前年比30件減少しています。内訳をみると「ダイバーシティ&インクルージョン関連」が2023年25件、2024年10件、2025年2件と年々減少していることが大きな要因となっています³。一方で、イギリスは、STI全体での将来財務指標の採用総数が2025年は287件と前年比106件減少している点を考慮する必要がありますが、「S」全体で2025年は125件と前年比44件減少しています。個別の指標でみると、「顧客満足度関連」57件→41件、「ダイバーシティ&インクルージョン関連」25件→15件、「従業員エンゲージメント関連」21件→13件と主要な指標が全体に減少しています。また、LTIについては、LTI全体での将来財務指標の総数が前年比1件減にとどまるなかで、「S」全体で2025年は47件と前年比13件減少しており、なかでも「顧客満足度関連」の減少が大きく(21件→13件)なっています。
図表5
日本 テーマ別将来財務指標の採用割合(2021~2025年)

図表6
アメリカ テーマ別将来財務指標の採用割合(2021~2025年)

図表7
イギリス テーマ別将来財務指標の採用割合(2021~2025年)

図表8
将来財務指標採用数トップ5(STI、2025年)

図表9
将来財務指標採用数トップ5(LTI、2025年)

5.業績評価指標における個人評価の採用状況
CEO報酬の業績評価指標として個人評価を採用する企業の割合は、STIにおいて、日本とイギリスでは3割を超えていますが、アメリカは1割程度となっています(図表10)。一方で、LTIにおいては、最も高い日本で7%、アメリカとイギリスではほとんどありません。
ここで、イギリスの小売業Kingfisher社のSTIにおける業績評価指標を一例として紹介します(図表11)。同社のSTIは、財務指標(調整後税引前利益と前年同期比売上高成長率)と個人評価で構成され、評価のウェイトは80%:20%となっています。個人評価については、CEOの個人目標が「プロ向け事業への注力」と「フランスへの注力」であることとともに、達成状況についてもアニュアルレポートにて開示されています。今回Kingfisher社の事例を紹介しましたが、アメリカ・イギリス企業で個人評価を導入している企業は、同様の開示をしているケースが多く見られます。一方で、日本企業は個人評価を採用している旨の開示がある企業は多いですが、具体的な目標の内容やその達成状況について開示しているケースはほとんどなく、個人評価の内容の透明性が低いと言えます。
図表10
個人評価の採用割合(2025年)

図表11
イギリスKingfisher社(小売業)STIにおける業績評価指標採用事例(2025年)

6.おわりに
本稿では、CEO報酬決定のための業績評価指標の採用状況をみてきました。
CEO報酬の業績評価指標のうち、業績連動型報酬における1スキーム当たりの財務指標と将来財務指標合計での平均採用数は相対的にSTIの方が多くなっています。しかし、3か国ともに、STIは前年より減少、LTIはほぼ横ばいとなっており、重要な指標に絞り込んでいる可能性が示唆されます。
また、CEO報酬の業績評価指標として将来財務指標を採用する企業の割合は、日本は、STIでアメリカ・イギリスと比較して低い水準でしたが、年々増加し、2025年は45%に達するなど増加傾向、LTIにおいてもほぼ同水準となっています。具体的な指標をみると、アメリカとイギリスでは、「経営戦略全般」が上位にきており、戦略目標など経営戦略と紐づいた将来財務指標をKPIに採用している傾向がみてとれます。そのほかの指標も、「GHG排出量関連」や「安全性関連」、「顧客満足度関連」など、定量的・客観的に測定しやすい指標が多く採用されています。それに対して日本は「サステナビリティ課題への注力度」や「CSRの向上」など「サステナビリティ全般」に係る指標の採用が多く、具体的な定量指標を採用しておらず、客観性や透明性が低い傾向があります。また、日本における個人評価の導入割合は一定程度あるものの、イギリスの事例で示したように個人目標の内容やその達成状況について開示しているケースはほとんどなく、透明性に課題があると考えられます。
前回のメールマガジンから2回にわたり、日本・アメリカ・イギリスの時価総額上位企業における、CEO報酬をめぐるプラクティスの現況をみてきました。最後に、今後の日本企業の経営者報酬制度改革において考慮すべきと考えられるポイントを3点整理します。
1点目は、報酬制度改革と一体となった報酬水準の引き上げおよび適切な報酬ミックスの設定です。日本のCEO報酬総額は増加しているものの、アメリカ・イギリスと比較して低水準であることに変わりなく、その要因は業績連動型報酬、特にLTIの支給額の差にあることがわかりました。今後、日本企業がグローバルな人財市場において優れた経営者人財を獲得するため、自社の競合になりうる企業群の報酬水準を考慮のうえ、報酬水準を設定することが肝要と考えられます。また、中長期視点での適切かつ大胆なリスクテイクを促すよう、業績連動型報酬の割合を適切な水準まで高めていくことが肝要であると考えます。
2点目は、業績評価指標の透明性の向上と自社の戦略との連動の強化です。日本の将来財務指標は、定量的な評価が難しい「サステナビリティ全般」に係る指標の採用が多い傾向があります。報酬制度の透明性を高める観点から、経営戦略や財務上のリスクと連動した定量的な指標を採用することが重要と考えられます。その点において、アメリカとイギリスで自社の戦略に紐づく戦略目標などの「経営戦略全般」関連の指標のほか、定量的・客観的に測定しやすい指標が多く採用されている点は参考になります。また、個人評価についてもアメリカ・イギリスの企業のように目標やその達成状況を開示することで、透明性を高めることが重要と考えられます。今後は、自社の中長期的な戦略と連動した具体的な将来財務指標や個人評価を設定し、客観的な基準に基づいて測定・評価されることを明示することで、投資家に対して制度の信頼性と納得感をもって示すことが期待されます。
3点目は、クローバック条項の導入です。日本は過去4年間でクローバック条項の導入開示割合が年々高まっていますが、アメリカ・イギリスと比較すると低く、道半ばといえます。1点目で掲げた報酬水準の引き上げと適切な報酬ミックスの設定とあわせて、不正行為や企業価値を毀損するような行為を防止し、グローバル投資家からの自社の報酬ガバナンスへの信頼を獲得する観点から、クローバック条項の導入をセットで行うことが望まれます。なお、日本企業においては、クローバック条項が導入されていても、具体的な発動条件や手続きについての法務・税務の整理が不十分であるという課題も指摘されています⁴。実効性のある報酬ガバナンスの確立のためには、同条項が実際に発動される場合を想定し、適切な発動条件および手続きを事前に定めておくことが肝要です。
参考文献
- 1.「米英企業のCEOを中心とした報酬制度の最新潮流と日本企業の現在地(1)-報酬水準・ミックス・クローバックの導入状況」(HRGLメールマガジンNo.196),2026/7/14 参照。https://www.hrgl.jp/sus-opinion/sus-opinion-15270/
- 2.E,S,G,サステナビリティ/ESG,その他の各テーマに含まれる具体的な指標の例は以下の通り(詳細は、2026年6月17日付ニュースリリース内Appendix参照、https://www.hrgl.jp/info/info-15015/)。
【E】GHG排出量関連、エネルギー関連、廃棄物リサイクル関連、【S】顧客満足度関連、安全性関連、ダイバーシティ&インクルージョン関連、【G】リスクマネジメント関連、コンプライアンス関連、【サステナビリティ/ESG】サステナビリティ全般、外部評価、【その他】経営戦略全般(戦略目標等)、DX/イノベーション、生産性・効率性向上 - 3.アメリカのLTIは将来財務指標の採用割合が低いため参考となるが、「S」領域の指標の採用件数は2025年6件で前年比-5件。
- 4.内ヶ﨑茂, 安生直史, 大杉陽, 小川雄大, 藤野友則「開示から見る日本の経営者報酬制度の現在地と今後の展望」『旬刊 商事法務』No. 2378(2024年12月25日).
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
野中 美希 Miki Nonaka