HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

候補者プール構築を通した社外取締役の持続的な確保

深刻化する社外取締役不足への処方箋

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント

小林 貴之

■ サマリー

社外取締役の持続的な確保が企業にとってますます重要になっています。企業の持続的な成長、中長期的な企業価値向上のための取締役会における監督機能の強化(モニタリングモデルへの移行)のためにはそれぞれの企業の状況に合致したスキルマトリックスに基づく社外取締役の確保が重要になってきています。

企業の不祥事が発生するたびに、内部統制システムが機能しているかが問われるケースが増えており、経営の監督機能におけるアクセル・ブレーキ両面において資本市場から社外取締役の役割強化が求められています。特に、取締役会の独立性が強化される中で、必要な社外取締役の人数が増えており、その確保が一層難しくなっています。しかし、候補者の供給が限られていることから、企業は早期に候補者探索を進め、独自の候補者プールを構築する必要性が高まっています。

候補者プールの構築には、取締役会に求められる役割を明確にし、各役割に適した人財を戦略的に選定することが求められます。単に候補者リストを作成するだけではなく、候補者との関係構築や候補者リストのメンテナンスが重要です。また、社外取締役の定期的な入れ替え(リフレッシュメント)を通じた、チームとしての取締役会の実効性強化が投資家から求められており、企業は常に新たな候補者を見つけ続ける必要があります。

成功する候補者プールの構築には、取締役会の構成に基づいた人財選定と、その後の関係維持が鍵となります。情報の更新を定期的に行い、常に新鮮な候補者を維持することで、企業は他社より優位性を保ち、適切な社外取締役の確保を実現できます。

目次

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1.重要性を増す社外取締役の持続的な確保

1-1 高まる社外取締役の重要性

 近年、企業の持続的な成長、中長期的な企業価値向上のため、取締役会における監督機能の強化を行う企業が増えています。監督機能の発揮のためには企業の状況に合致したスキルマトリックスに基づく取締役会構成を実現することが求められます。中でも、社外取締役は企業から独立した立場から監督機能を発揮するための重要な役割を担っています。昨今ではアクティビストが企業価値向上に向けた提案を行う際などにも、現任の社外取締役の役割発揮が批判の対象になることも散見されます。社外取締役は企業価値向上において、非常に重要な役割を果たしている証左といえましょう。また、企業に不祥事が起きた場合でも社外取締役が批判の対象になる、あるいは説明の場の矢面に立つという局面も増えております。社外取締役は企業の舵取りをする際に企業価値を向上させるアクセルの機能と、不祥事等のリスクを防ぐブレーキの機能を双方に満たしていくという観点からも、高い期待役割を背負っております。
 そのため、今後企業が取締役会の高い監督機能の実現していくためには社外取締役の確保が重要な課題となります。社外取締役の確保においては「量」及び「質」の観点から必要性が高まっています。
 特に量の面では、取締役会の独立性強化が進んでいることから必要な社外取締役人数が増えています。プライム市場に上場する企業は、コーポレートガバナンスコード(原則4-8)において独立社外取締役を取締役会の1/3以上にすることが求められていますが、近年では半数以上を独立社外取締役とする企業も増加しています。HRGLの調査によると、社外取締役比率が50%以上の企業は、2019年の4.5%から2024年には20.3%へと急増しています。今後多くの企業が社外取締役比率を上げていく局面では、そもそも量的に社外取締役の確保できるかどうかも課題となります。(図表1:「上昇する独立社外取締役比率」)
 しかし、社外取締役の確保は単なる人数(「量」)の問題だけではありません。社外取締役の量的に確保し外形的に社会的要請を満たすのではなく、取締役会に求められる期待役割やスキルマトリックスを満たす、「質」の観点からも社外取締役を選定することが求められます。2024年1月経済産業省が公表した「社外取締役のことはじめ」は、社外取締役の質の担保・向上を目的としている旨が記載されており、社会的にも課題認識されていることが伺えます。

図表1

上昇する独立社外取締役比率
出典:(出所)東京証券取引所 「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2024年7月24日)を元にHRGL作成

1-2 厳しさを増す社外取締役確保における環境

 一方で、社外取締役の確保することは年々難しくなっています。すでに社外取締役の需給バランスは逼迫しており、質の高い候補者は限られているという状況です。
 事実、当社のエグゼクティブサーチサービスの中で、候補者に社外取締役として登用を打診しても、「すでに兼務数が多いため引き受けられない」という理由で断られるケースが増えています。2023年9月18日付の日経新聞の報道によれば、東京証券取引所に上場する企業のうち、社外取締役を2社以上兼任している人は全体の17.5%、特に女性社外取締役では30%に達しています。女性社外取締役の確保はさらに厳しさを増してきているといえます。
 また、社外取締役の「リフレッシュメント(定期的な入れ替え)」を行うことで、必要条件である独立性を担保しつつ、十分条件であるチームとしての取締役会の多様性も投資家から求められる傾向にあり、企業は常に新たな社外取締役を探し続ける必要があります。多くの機関投資家が独立性基準として在任上限について言及していまますが直近では、2024年12月に発表された議決権行使助言会社グラス・ルイスのベンチマークポリシーにて、社外取締役のリフレッシュメントへの積極的な取り組みを促す方針が出されています(図表2:「社外取締役の在任期間に関するポリシー」)。「社外取締役または社外監査役全員の在任期間が連続12年以上」という議決権行使の反対助言の条件は決して厳しい基準ではありませんが、取締役会へのリフレッシュメントについて方向性が示されていることは注目に値します。
 兼務数が多い社外取締役が増える中で自社に最適な候補者を確保すること、さらにリフレッシュメントの観点から継続的に確保を行い続けることが求められており、企業の社外取締役確保を取り巻く環境は難易度が上がってきております。

図表2

社外取締役の在任期間に関するポリシー
出所:グラス・ルイス 「2025 Benchmark Policy Guidelines」を元にHRGL作成

2.社外取締役の継続的な確保の仕組みの構築

2-1 社外取締役の候補者プールの必要性

 こうした状況を踏まえ、多くの企業が社外取締役の確保に向けた取組みを強化しています。当社が行った企業アンケートでは、多くの企業が候補者探索の早期化を進めていることがわかりました。現在、社外取締役の選任に向けたサーチ活動は、すでに1年半~2年前から始めるのが一般的となっています。(図表3:「継続的に社外取締役を登用するための取組み」)
 早期にサーチ活動を始めることで、兼務数が多い社外取締役の枠を早期に確約することは確かに効果的です。しかし、単にサーチ期間を早めるだけでは、どうしても個別の交代予定に対処するだけの、その場しのぎの対応になってしまいます。また他の企業も早期化すればただ競争環境が激しくなる一方です。そこで、企業が独自に社外取締役候補者のプールを構築することで、計画的に候補者と関係を構築していくことで、他社への優位性を築いていくことが重要となってきます。

図表3

継続的に社外取締役を登用するための取組み
出所: JBDN・HRGL共催セミナー「日本企業に求められるボード・ダイバーシティの実現~その意義と展望~」(2024.6.11実施)事後アンケート」を元にHRGL作成

2-2 候補者プールの構築プロセス

それでは候補者プールの構築はどのようなプロセスで行えばよいのでしょうか。以下にプロセスをご紹介いたします。ポイントとしては、前段階において取締役会全体として求められる役割を明確にした上で、個別要件まで落とし込むことや、候補者プールを構築した後に定期的モニタリング・メンテナンスを行うことです。

  • 0.準備段階:取締役会に求められる役割や取締役会構成における方針の決定
  • 取締役会全体ではどのような役割が求められるのかを明確に定義し、スキルマトリックスとして作成します。さらに社外取締役比率の方針やダイバーシティにおける方針(女性比率等)の決定をすることで、候補者の選定の際の指針とします。なお、チームとしての取締役会の構成は、スキルの多様性の獲得に加えて、共通の資質やコンピテンシーを明確にすることも欠かせません。
  • 1.社外取締役に求められる個別要件の明確化
  • 取締役会の役割やスキルマトリックスを元に、個別取締役として求められる役割を人物像としてイメージし、定義します。例えば、「経営」というスキルマトリックスからより取締役会での役割発揮を意識し、「現在のCEOとは異なるキャリア・業界やグローバルなCEOやCFOの経営経験を有する経営人財が最低一人は取締役会には必要である」という定義を行うことで候補者選定の実務に活用しやすいレベルの定義をします。
  • 2.現任者の状況の把握
  • 人物像ごとの現任者の状況を把握します。取締役会の機能発揮の観点で必要なスキル・経験を満たす人物は確保できているか、いわゆる人数合わせのために社外取締役同士のスキル・経験が重複していないか、女性など多様性は確保できているか、社外取締役の退任予定年度はいつか、といったことを確認します。
  • 3.候補者プールの構築
  • 人物像ごとに定めた条件を満たす人財をサーチします。役員の知己者やエージェント、社外データベースなどの複数手段を活用することで、多角的な視点から人財を集めることが可能です。例えば、エージェントに依頼して数十名規模のロングリストを作成し、事務局などが選定したショートリストを作成するなどの実務が考えられます。
  • 4.指名委員会等の会議体によるモニタリング
  • 現任の退職予定年度は毎年確認し、獲得が難しい人財要件は特に早期に候補者にアプローチできるように運用します。兼務社数が多い社外取締役候補者は、兼務先を退任する数年後の登用の約束を取り付けるなどが必要となるかもしれません。また候補者のダイバーシティも確認し、一定水準を維持することが重要です。候補者とは事前に何らかの関係の構築を行うなどして、常にアプローチ可能性について確認しておくことも重要であり、場合によってアプローチが困難と判断される場合は除外してフレッシュなリストを維持するよう努めます。

図表4

社外取締役の現任者把握と候補者プール状況の確認イメージ
出所: HRGL作成

2-3 候補者プールの構築する際の失敗事例と成功のポイント性

 最後に、候補者プールを構築してみたものの、うまく運用できていないという失敗ケースと成功のポイントを見ていきましょう。候補者プールの運用が難しい例として以下のようなケースが考えられます。
<社外取締役の候補者プールの失敗事例>
■候補者プールにリスト化しているのは、いわゆる有名でメディア露出が多い方ばかりであり、取締役においてどの役割を担ってもらうかという点と繋がっていない
■候補者リストを作成しても、インターネット上の情報をもとに作成しているだけであり、関係性ができているわけではないので、声をかけても断られてしまう
■3年前に作ったリストが情報としても古くなってしまい、あまり使えないものである
■自社の取締役会が重視する資質・コンピテンシーを可視化し、確認していないため、実践的なプールになっていない
 これらのケースは、社外取締役の候補者プールを作成することが目的化してしまい、実際にお声がけをして選定するまでの運用をあまり考えられていない際に起きる問題です。
一方、うまく候補者プールの運用ができている場合は以下のポイントを押さえています。
<社外取締役の候補者プールの構築におけるポイント>
■候補者プールの作成をすることそのものを目的とはせず、取締役会に求められる役割から逆算して必要な人財のサーチを行う
■リストの有効性をあげていくために、各候補者との関係構築についても検討し、メンテナンスを行う
■候補者プールが次期社外取締役交代などのスケジュールに合わせて更新していくように指名委員会でモニタリングを実施する。そのために指名委員会の年間アジェンダに社外取締役サクセッションプランの確認について組み込んでおく
■毎年、取締役会の実効性評価において、獲得したいスキルや共通の資質・コンピテンシーを確認しておく
 上記のポイントを考慮しながら、候補者プールの構築から運用・モニタリングを実施することで、安定的な社外取締役確保が期待できます。

3.まとめ

 本稿では、社外取締役の候補者プールの構築について、取組みの必要性が増している背景のご説明及びその構築方法についてご紹介いたしました。候補者プールを構築する際には、人財マーケットにおける状況を都度確認し常に新鮮な情報を手に入れることが優位性に繋がります。
 HRGLでは、取締役会や指名委員会・報酬委員会のアドバイザーとして、取締役会の目指すべきあり方やその構成の理想像につき、議論させていただいた上で、最適な社外取締役をご紹介するというコンセプトでのエグゼクティブサーチに拘り、最新の人財マーケット情報の提供を行っております。また、特に欧米企業のように、CxOが他社の社外取締役を兼務することで、大局的な視点を獲得すること、日本全体でのプール人財の拡充に繋がること、経営の執行と監督の相互理解の促進に繋がる効果なども期待できることから、積極的にご案内しております。

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Opinion Leader

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シニアコンサルタント

Takayuki Kobayashi

あるべき取締役会構成の実現に向けて社外取締役のご紹介を行うエグゼクティブサーチサービスの企画をリード。多くの紹介実績を経験している。
その他、取締役会改革を実現する執行体制強化や人的資本経営など様々なプロジェクトを遂行。