経営課題となった人権への対応の必要性
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
野中 美希
■ サマリー
2011 年、国連人権理事会にて「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」が採択。世界で初めて「人権を尊重する企業の責任」が明文化された文書であり、各国法規制等も参照する、重要な国際規範のひとつといえる。UNGP では、人権尊重の責任を果たすため、企業に対して、① 人権方針の策定、②人権デュー・ディリジェンス(人権 DD)の実施、③救済メカニズムの構築の 3 つの取組みの実施を求めている。
諸外国では法規制等が強化されている。また、日本政府もガイドラインの発出や日米共同でのタスクフォースの設置など、企業の人権配慮に向けた動きを加速している。ISSB が今後基準化に取り組む可能があるテーマのひとつとして人権が挙げているほか、投資家や取引先からの要請も活発化している。取引先から自社の人権対応が不十分であり、改善が見込めないと判断されると、最悪の場合には、サプライチェーンから外される可能性もある。
人権を経営課題として認識し、経営トップのコミットメントのもと、UNGP が企業に求める 3つの取組みに段階的に着手することが肝要である。それにより、自社事業のどこに・どのようなリスクがあるのかが明らかとなり、具体的な対策も検討できるようになる。また、一連の取組み状況を開示して、ステークホルダーからの要請に備えていくことが重要である。
0.はじめに
近年、中国・新疆ウイグル自治区などでの少数民族に対する強制労働に関与しているとされる中国企業との取引関係を通じて、日本のアパレルや ICT(情報通信)関連企業を含む多くのグローバル企業が人権侵害に関与しているのではないかとメディアで報道されるなど、人権に対する企業の責任が以前にも増して問われるようになっています。
かつては「国家の責任」とされた人権にかかわる諸課題への対応が、なぜ急速に企業の経営課題となってきたのでしょうか。それは、経済のグローバル化の進展に伴い、企業活動が個人の生活や地球環境に大きな影響を及ぼすようになるなど、人権問題への企業の関与が深化したため、企業の果たすべき役割が拡大しているためです。
こうした背景のもと、諸外国では様々な法規制が導入されつつあり、対応できなければ経営リスクとなりかねない状況にあります。しかし、なぜ企業が人権課題に取り組まなければならないのかに納得感がない方や、企業が尊重すべき人権とはどういうものかが定かではない方もいらっしゃるかもしれません。そこで、本稿では、企業にとっての人権尊重の責任の考え方や、企業に求められる取組みと国内外で進む規制強化の動向等について概説します。
1.企業に求められる人権尊重の責任
1-1. 企業が果たすべき人権尊重の責任とポイント
<">参考文献
- 国際連合「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP:UN Guiding Principles on Business and Human Rights)」, 21 March 2011, https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/
- ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」,2022年9月, https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003-a.pdf
- 法務省人権擁護局「今企業に求められる『ビジネスと人権』への対応『ビジネスと人権に関する調査研究』報告書(詳細版)」,2021年3月, https://www.moj.go.jp/content/001376897.pdf
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
野中 美希 Miki Nonaka
