人権の視点からサプライチェーンをどのようにマネジメントするか
ビジネスと人権における海外各国の法規制の流れと人権ベンチマークが提示する企業の現状
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
池田 葵
■ サマリー
サプライチェーンにおける強制労働や児童労働などの人権問題が取り沙汰され、国際的に企業のサプライチェーンにおける人権に対する配慮が求められています。2011 年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択され、企業には人権尊重において人権方針策定・人権デューディリジェンスの実施・救済メカニズムの構築の推進を要求している。2018年には、企業に求められるデューディリジェンスのガイドラインとなる「OECD デュー・ディリジェンス・ガイダンス」が公表され、企業がデューディリジェンスを実務に落とし込む上で必要なプロセスを提示している
サプライチェーンにおける人権デューディリジェンスの実施や救済メカニズムの構築について、海外各国、特に欧州では厳格な規制が設けられており、企業に徹底した人権尊重に基づいた企業行動を促している。特に欧州では、広範にわたるサプライヤーについて人権対応を求めている。ほとんどの国の規制において、現地で事業を行っている外国籍企業も規制対象に含まれており、グローバルに活躍する日本企業が規制の対象になる可能性もある
NGO、NPO 団体である KnowTheChain や WBA の CHRB は企業の人権対応の取組みを調査し、情報提供を行っている。日本企業全体では、サプライチェーンにおける人権パフォーマンスの評価は改善傾向にあると考えられる。人権方針の策定やコミットメント、ガバナンスの観点では、他の項目と比べて高い評価を得ており、定期的なモニタリングの実施などを通してガバナンス強化に努めていると評価されている。一方で、サプライチェーン全体を通してのトレ ーサビリティや、ステークホルダーエンゲージメントに関しての開示情報の量が少ない点がパフォーマンス改善に向けた今後の課題であると考えられる
ベストプラクティスとしてアイルランドの Primark を挙げる。同企業は、英国の現代奴隷法の対象であることもあり、人権保護に関する取組みを、様々なプロジェクトを立ち上げて包括的に実施している。特に、①国別のリスク評価、②内部データからの分析、③労働者への相談とエンゲージメント、④構造健全性という 4 つの観点から、徹底したデューディリジェンスの実施を行っている点が特徴的である
はじめに
サプライチェーンにおける強制労働や児童労働などの人権問題が取り沙汰され、国際的に企業のサプライチェーンにおける人権に対する配慮が求められています。2011 年には、国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、「UNGP」という。)」が採択されました。ビジネスと人権の関係については、人権を保護する国家の義務・人権を尊重する企業の責任・救済へのアクセスの 3 本柱として分類されています。企業には、人権尊重に関する人権方針策定・人権デューディリジェンス・救済メカニズムの構築を推進することを要求しています。UNGP の採択に伴い、専門家から構成される作業部会が設置され、同部会において国別行動計画(NAP)の策定を行い、企業の人権課題への取組みの促進を推奨しています。これにより、各国は国別行動計画を策定し、さらに国家として人権課題への責任を果たすために海外では法的拘束力を持つハードローを制定する流れがビジネスと人権の領域で拡大しています。
さらに、UNGP の内容は「OECD 多国籍企業行動指針」にも反映されています。企業に求められている人権デューディリジェンスを実施する際のプロセスが、2018 年に採択された「OECD 責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」で解説されています。(図表1)ステークホルダーを巻き込みながら人権課題に対応することで、企業活動による人権への負の影響を停止、防止及び軽減し、人権リスク低減に努めることを通じて、企業がさらなる価値創">
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
池田 葵 Aoi Ikeda
