日本企業のサステナビリティ委員会の課題と実効性向上への一考
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー
今井 由美子
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
マネージャー
野村 優子
■ サマリー
サステナビリティを経営課題として監督し議論する体制の必要性は、これまでも国内外の様々な機関から提唱されてきたところである。背景にあるのは、サステナビリティを企業戦略に統合しなければ持続的に価値創造していくことができないという危機感であり、取締役会がサステナビリティを巡る課題を議論する体制構築が期待されている。
取締役会でサステナビリティ議論をする理由の一つに長期視点の必要性がある。執行サイドでの議論は3-5 年程度の経営計画達成に向けたものが優先されがちであり、意思決定においても長期的な課題解決よりも短期的な計画達成優先になるのは想像に難くない。また、議論の結果、長期時間軸に鑑みた事業ポートフォリオの大胆な変更など、既存事業の在り方を大きく転換するような意思決定の必要性が生じるケースも想定され、事業統廃合も含む事案を執行サイドで担うことは困難である。
取締役会は、長期的に自社を正しい方向性に導くために、パーパス(存在意義)を実現するための重要な課題(=マテリアリティ)を解決する方針を議論し指し示す役割を担う。ただし、取締役会運営を考慮すると、議論の時間を確保すること自体が困難な実情がある。この場合、監督サイドに専門委員会を設けることも一案である。
現在、多くの日本企業ではサステナビリティ委員会を執行サイドへ設置している。長期視点で
マ テリアリティを議論する必要性・重要性は、サステナビリティ委員会設置位置によって変わるものではないが、執行サイドのサステナビリティ委員会においては、「組織上の問題」「委員の問題」「アジェンダ設定に係る問題」の三点の課題を抱えているケースが多い。この場合、組織内におけるマテリアリティの位置づけの再確認、マテリアリティ議論のためのアジェンダ設定、委員間での共通認識形成の上での議論実施等、運営の工夫が求められる。
1.はじめに
サステナビリティの概念は企業のパーパスを実現するために欠かせず、また、日本においても多くの企業でそれらが経営アジェンダだと認識されつつある。中長期的な企業価値の向上に向けて、サステナビリティを巡る課題(以下「サステナビリティ課題」)をリスクのみならず収益機会として認識し、経営課題の中に位置づけ能動的に対応する企業姿勢が主流となってきた。サステナビリティが経営の重要課題と位置付けられるならば、当然ながらサステナビリティ課題を取締役会が監督するガバナンス体制が欠かせない。そしてこのサステナビリティを重要課題として監督し議論する体制の必要性については、これまでも国内外の様々な機関から提唱されてきたところである。
本メールマガジンでは、このサステナビリティ・ガバナンスの潮流を振り返った後、取締役会メンバーが議論すべきサステナビリティ課題に関する事項、およびその議論のための適切な体制について述べる。その上で、現在の日本企業で多数を占める執行サイドのサステナビリティ委員会に関する主な課題を整理し、サステナビリティ・ガバナンス体制の一部を担うサステナビリティ委員会について、実効性を高めるための施策の一例を提示する。
2.サステナビリティ・ガバナンスの潮流の整理
最初に、サステナビリティ・ガバナンスの潮流を振り返りたい。グローバルにおける動きとしては、過去に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP">
参考文献
- 『サステナビリティ・ガバナンス改革』(内ヶ﨑茂、川本裕子、渋谷高弘 著)
- 『サステナビリティ情報開示ハンドブック』(北川哲雄 編著) 第8章「サステナビリティ・ガバナンスの行方」(内ヶ﨑茂 執筆)
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー
今井 由美子 Yumiko Imai

HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
マネージャー
野村 優子 Yuko Nomura
2020 年 7 月に三菱 UFJ 信託銀行戦略 HR 戦略コンサルティング部に入社後、HR ガバナンス・リーダーズに転籍。HRGL 設立当初よりサステナビリティガバナンス部にて上場企業のサステナビリティ経営体制構築やサステナビリティに係る委員会運営支援、各種情報開示支援を担当。
主な HRGL サステナビリティオピニオン執筆:
「非財務情報開示は企業価値向上に繋がっているのか~統合報告書と株主資本コストの関係に関する実証分析~」
(No.45)、「TCFD から考える日本企業のリスクマネジメント」(No.72
