資本効率の改善を促す経営戦略とコーポレートガバナンス
日本企業の資本効率性の現況と海外企業の事例を踏まえ考察する
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
朝田 悠人
■ サマリー
日本企業を巡る PBR(株価純資産倍率)の改善および資本コストや ROE(自己資本利率),ROIC (投下資本利益率)などの資本効率性を意識した企業経営に関する議論は、足元で加速している。資本市場からの企業の評価という観点では、PBR が 1 倍を下回る企業の割合を欧米企業と比較すると、日本企業の方が多い傾向にある
東証が 2023 年 3 月末に上場企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営」の実現に関する企業の開示内容をみると、過去の事業セグメントの変遷およびそれを踏まえた収益性の改善への言及や、新事業への投資額および利益回収のタイムラインを示すケースもみられる
企業が資本効率を高めるにあたり、取締役会・経営陣で事業ポートフォリオの見直しに関して議論し、適切なアクションを取ることは不可欠であると考えられる。日本企業において、不採算事業を有する企業の割合は約 2 割程度であり、この 10 年間で大きく変化していない
海外企業に対してアクティビストが行った提案を振り返り、資本効率性の改善についての資本市場からの目線について確認している。サードポイントはネスレに全社およびセグメント別の戦略の明確化や事業ポートフォリオの変革について、インテルに買収済の不採算企業の売却の選択肢の検討について提案している。トライアンパートナーズは P&G に、M&A を通じた成長戦略やコーポレートガバナンスの改善について提案している。ネスレ、P&G、インテルは、中長期的な成長戦略を開示した上で、短中期の目標値をバッファのあるレンジとして公表している。目先の資本効率の改善だけでなく、中長期的な企業価値向上を実現するような事業ポートフォリオを検討することが望ましいだろう
資本効率の改善を導く事業ポートフォリオ改革には、既存事業の価値創造最大化のための監督と、持続的な企業価値最大化の観点が考えられる。また、資本効率の改善を促すコーポレートガバナンスの観点からは、ファイナンスや資本市場に関するスキル、M&A に関する経営経験を有する独立社外取締役の登用、自社の役員への研修を通じたコーポレートファイナンスに関する知見の底上げ、役員報酬の KPI への資本効率関連の指標の採用が有効な選択肢として考えられる
1.はじめに
PBR が 1 倍を割る日本企業の割合は増加傾向にある
日本企業を巡る PBR(株価純資産倍率)の改善および資本コストや ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)などの資本効率性を意識した企業経営に関する議論は、足元で加速しています。直近では 2023 年 3 月末に東京証券取引所(東証)から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が公表されています。その中では、資本収益性の分析にあたり、資本コストと比較した ROE、ROIC や、PBR等の指標を活用することが選択肢としてあげられています。
また、東証の要請などを受けて、会計上の簿価に対する時価評価の大小を分ける「PBR1倍」という水準が、さらに意識されるようになりました。国内外において、PBR が 1 倍を割れている企業の割合はどのように推移しているでしょうか。日本企業と欧米企業を対象にPBR が 1 倍を割れている企業数の割合を時系列で分析すると、日本企業はリーマンショックを契機として PBR が 1 倍を下回る企業数が大きく増加し、その後徐々に改善しつつあったものの、2016 年ごろからは増加基調にあります(図表 1)。また、企業数ではなく時価総額でみると、2000 年代初頭について、国内外企業で差異はほぼありませんでしたが、この 20 年間でその差が開いています(図表 2)。詳しくみると、リーマ">
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コンサルタント
朝田 悠人 Yuto Asada
