低 PBR を卒業するための処方箋とは?~東証が要請する資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて~
市場関係者を魅了する中長期経営戦略の策定が求められる
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コーポレート
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Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアストラテジスト
中川和哉
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
朝田 悠人
■ サマリー
上場企業における PBR(株価純資産倍率)の改善およびそれに付随して資本コストや ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)などの資本収益性を意識した企業経営、情報開示に改めて注目が集まっている。2023 年 3 月末には、東証からプライム・スタンダードの上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」、さらにプライム上場企業には「株主との対話の推進の開示」が要請された。前者については、事業セグメントごとの ROIC等を算出して、資本収益性の分析・評価を実施することが例示されているほか、現状分析や計画策定・開示において取締役会がコミットすることが求められている
PBR が低水準にとどまる日本企業が多い理由として、①市場関係者を魅了する経営戦略・情報発信の不足、②事業セグメントの過度な多角化、③政策保有株など非事業用資産の活用法という 3 つの要因があると考える。①については、レーティングを付与するアナリストの人数が多いほど、PBR、ROE が高い傾向が有意にみられる。過去 5 年度分の ROE 平均が 8%を超えていても PBR が 1 倍未満の企業はプライム全体で 1 割程度、5%を超えて PBR が 1 倍未満の企業は、プライム全体の 26%に達する。そうした企業は証券会社のアナリストをはじめ、市場関係者を惹きつける経営戦略の策定・情報発信の部分に改善の余地が残っている可能性がある。② については、事業セグメントが増えるほど、PBR、ROE が低下する傾向がみられ、③についても政策保有株の保有比率が高いほど、PBR、ROE が低下する傾向がみられた
低 PBR を卒業するための処方箋として、企業が最も優先して取り組むべきアクションは「市場関係者からみてフィージビリティ(実現可能性)が高く、高成長のポテンシャルを感じさせる中長期経営戦略」を打ち出すことであろう。その際、不確実性の高い未来に備えて「財務」だけでなく気候変動、人的資本などの ESG 要素である「将来財務」を統合した形での戦略策定も必要であると考える。また ROIC 経営の実践を通じて、人財ポートフォリオを含め、資本の再配分など改善に向けた打ち手を講じることも重要であろう。非事業用資産の保有意義も問われるが、売却した資産を安易に株主還元に充てるのではなく、新たな成長機会への投資やグローバル目線で低水準にある従業員、役員報酬の引き上げなどの人財投資も有力な選択肢であろう
1.PBR 改善や資本コスト、資本収益性への意識が求められる日本企業
1-1 低 PBR の卒業に向けた取組みが要請される
TOPIX 構成企業の過半数が PBR で 1 倍を下回る
2023 年に入ってから、上場企業における PBR(株価純資産倍率)の改善およびそれに付随して資本コストや ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率)などの資本収益性を意識した企業経営、情報開示に改めて注目が集まっています。注目を集める大きな理由の 1 つとして、2023 年1月、東京証券取引所(東証)が市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理を踏まえた今後の対応として、プライム・スタンダードの上場企業に「経営陣や取締役会において、自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その状況や株価・時価総額の評価を議論のうえ、必要に応じて改善に向けた方針や具体的な取組、その進捗状況などを開示することを要請」する方針を定めたことがあります。特に継続的に PBR が1倍を割れている会社には、開示を強く要請する方向性を打ち出しています。そして、2023 年 3 月末にプライム・スタンダードの上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」、さらにプライム上場企業に対しては「株主との対話の推進の開示」が正式に東証から上場企業に要請されました。
以前からコーポレートガバナンス・コードや経済産業省が公表した">
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コンサルタント
朝田 悠人 Yuto Asada
