マテリアリティを役員報酬に連動させる企業のケーススタディ
海外企業における傾向、および採用される将来財務指標と経営戦略の関係性
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
三上諒子
HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
池田葵
■ サマリー
役員報酬制度に非財務指標(将来財務指標)を導入する企業が増えている背景には、主に、① 環境的要因、②内発的要因の 2 つがあると考える。経営上の重要な課題(マテリアリティ)に紐づく KPI を将来財務指標として採用し、経営トップのコミットメントを高めるという観点からは、経営が企図する方向へ進んでいるかをモニタリングする機能を発揮させる②がより重要と考える
STI と LTI の双方で将来財務指標の採用比率が高いセクターは公共事業及びエネルギーであった。一方、STI、LTI の双方で将来財務指標の採用比率が最も低いセクターは情報技術であった。また、全体の傾向として、海外企業は STI における将来財務指標の採用比率が LTI の採用比率を上回っており、それはどのセクターでも共通している。特に、STI と LTI の採用状況に顕著な差がみられるセクターはコミュニケーション及びヘルスケアであった
STI では多くのセクターで E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の各領域に関連する指標が採用され、LTI ではセクター別の採用状況に差がみられた。その背景として、STI は定性評価を含む全体的あるいは総合的な評価を実施するが、LTI ではより明瞭で測定可能な指標を対象とした評価を実施する傾向があると考える。
本調査では、セクター別、STI/LTI 別に採用される将来財務指標の傾向が異なっていた。それは企業ごとに特定されるマテリアリティ、及びセクター別のマテリアリティが反映された結果と考える。具体的にマテリアリティが役員報酬に組込まれる企業をピックアップし制度設計の意図や背景について調査すると、中長期の成長要因として特定されたマテリアリティを基に具体的な指標に落とし込んだうえで、単年度で評価すべき指標と中長期で評価すべき指標に棲み分け役員報酬に連動させていることがわかった。
自社における役員の報酬制度を見直し、将来財務指標の採用を検討する際には、STI、LTI の特徴(短期、中長期)を踏まえた将来財務指標の設定を行い、その指標が企業のパーパスや戦略に整合していることが重要であると考える。
1. 役員報酬に将来財務指標を連動させる企業が増加する背景
中長期的な事業の成長要因に対する経営層のコミットメントを高める
役員報酬制度に、非財務指標(以下、「将来財務指標」)を採用する企業が国内外で増えています。弊社が配信した報酬 KPI に関するメールマガジン No.89 を参照すると、特に海外企業での採用比率が高いことがわかります(図表 1)。将来財務指標の採用比率が高まっている背景として、①将来財務指標を採用する役員報酬制度に関する開示が求められる等の環境的要因、②企業の中長期戦略に対するコミットメントを高め適切なインセンティブを付与する内発的要因の主に 2 つがあると考えます。
①の環境的要因について、世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議 2020 では、役員報酬に将来財務指標を導入すべき旨が提言されました。2022 年 3 月 17 日には、国内で一般社団法人信託協会から「ESG 版伊藤レポート」が公表され、経営戦略の実効性を向上させる ESG 要素を特定し、企業活動の結果であるアウトプットを示す定量的な指標を役員報酬に組込むことが奨励されました。また、ISSB が 2023 年 6 月に公表した全般的開示事項(S1)では、関連するパフォーマンス指標が役員の報酬制度に含まれているかについて開示することが要求されます。開示が要求される背景には企業価値を測る指標として将来財務指標が不可欠で">
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HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
三上諒子 Ryoko Mikami

HR ガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
池田葵 Aoi Ikeda
