HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

グループシナジー創出に向けたグループ人材マネジメントのポイント

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアマネージャー

古川 拓馬

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
マネージャー

砂原 健一

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント

小林 貴之

■ サマリー

グループ経営とは、グループの経営資源を最大限に活用しシナジーを生み、企業価値を最大化させていくことで「コングロマリット・プレミアム」を創出することを意味します。このグループ経営において重要な経営資源の1つである人材面に焦点を当てたものがグループ人材マネジメントです。

グループ人材マネジメントの推進には親会社と子会社がどのような役割を果たし、両社がどれだけの裁量が与えられているかを明確にすることが重要です。子会社の人材マネジメント権限を認めて分権的な経営を行いながら、親会社人事はグループシナジーを発揮するために、親会社と子会社が同じ方向を向いて目指すことのできるグループ人材戦略・人材ポートフォリオを策定することが重要です。

グループ人材マネジメント実践のプロセスは、グループ全体や各子会社の人事課題の洗い出しを起点とし、課題解決のための取組みについて、親会社と子会社の担当範囲を整理し責任範囲を決めたうえで、グループ共通の人事施策や人事制度の検討、人事施策の実行に向けたロードマップの策定、経営層によるグループ人材戦略実行状況のモニタリング体制を確立していくことです。

グループ人材マネジメントの推進には、親会社がグループ全体の方向性を示すことに加えて、親会社・子会社間での連携・子会社同士での協業など、グループ一体となった取組みの推進が不可欠な要素となります。

目次

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1.グループ人材マネジメントが求められる背景・課題

 「グループ経営」とは、企業グループを1つの組織として経営し、単一の事業から得られる利益を最大化することではなくグループ全体から得られる利益を最大化することを意味しています。グループ経営を推進する目的は、企業グループの経営資源を最大限に活用し、範囲の経済性を働かせることでコスト効率や顧客への付加価値を高めること(事業シナジー)、およびグループのブランド力やグループの経営資源を適切に配分すること(コーポレートシナジー)により、グループ全体のリターンを最大化させることです。これは「コングロマリット・プレミアム」と呼ばれます。今や、グループの各企業の単純総和ではなく、グループ各社間で相乗効果を発揮し、企業価値を最大化させることがグループ経営では求められています。
 日本企業においても過去からグループ経営を積極的に展開してきましたが、グループによるシナジー効果を上手く発揮することができていないのが現状です1 。その背景にある主な課題は、①グループとしての経営方針やグループ戦略がなく経営の効率性や全体最適の視点が薄いこと、②各事業部門の権限・影響力が強く「部分最適」が優先されること、③グループ全体の横串を通した共通プラットフォーム機能の不在であること、④グループ内の親子間の序列構造による格差があることと言われています 2。これからのグループ経営では、これらの課題を解決し、より中長期の企業価値向上と持続的成長を実現するための合理的なグループ経営の在り方を検討することが求められています。
 次章以降では、これからのグループ経営の在り方を考える上で最も重要とされるグループ人材マネジメントに焦点を当てて解説していきます。

2.コングロマリット・プレミアムを実現するグループ人材マネジメントにおける親会社の役割

2-1 グループ子会社への分権のあり方

 グループ人材マネジメントを推進する際の大きな課題は、親会社と子会社の役割や権限のあり方です。同一グループでも別会社の集まりとなるため、事業内容や人事制度も多様であり、画一的な方針やルールを適用するのが難しいという背景があります。
 特にコングロマリット・プレミアムを目指す企業では、異なる事業が共存しているため、親会社が子会社の人材マネジメントに細かく介入することは望ましくなく、親会社人事の人的リソースという観点からも実際には難しい状況です。そのため、子会社の人材マネジメントにおいては、権限を認めて分権的な経営を行うことが求められます。ここで重要なのは、グループ全体と各社それぞれの人材マネジメントにおいて、親会社と子会社がどのような役割を果たし、どれだけの裁量が与えられているかを明確にすることです。多くの企業では、役割や裁量の分担が明確に言語化されていないため、責任の所在がはっきりしないという課題が生じている可能性があります。例えば、子会社である事業会社の人材戦略や人事企画においては、子会社自身が積極的に牽引して策定すべきという責任意識が薄く、親会社の方針に従うだけという状況が見受けられます。

2-2 グループ人材戦略・ポートフォリオの重要性

 一方で、分権が行き過ぎて各社が異なる方向へ向かうようになると、グループシナジーの実現が困難になります。グループシナジーを発揮するためには、親会社と子会社が同じ方向を向いて目指すことのできるグループ人材戦略を策定することが重要です。特にグループ人材ポートフォリオを策定することで、グループ経営戦略を実現するために必要な人材像について明確なイメージを共有でき、各社がその目標に向けて逆算して効率的に取り組むことが可能となります。
 このグループ人材戦略やポートフォリオの策定には子会社各社の積極的な参加が求められますが、その推進役割と責任は親会社の人事部にあると考えます。親会社の人事部は、グループ子会社のコミットメントを促進しつつ、全体で合意形成できる方針を策定するための舵取りを求められます。
 さらに、実務上効率的なグループ人材マネジメントを実現するためには採用・異動配置・育成など、人事機能の具体的な取り組みを施策レベルで詳細に整理し、どの主体が担うべきかを特定することが考えられます。この点は後続の第三章にて詳しくご説明します。本章では、親会社と子会社の役割を明確に分担しつつも、グループ全体が同じ目線でグループ人材マネジメントを推進するための重要な要素を説明しました。これらの要素を取り組むことで、自律と協働による効率的なグループ人材マネジメント推進体制を実現することができます。(図表1)

図表1

自律と協働による効率的なグループ人材マネジメント推進を行うための要素

3.グループ人材マネジメントの実践に向けて

3-1 グループ人材マネジメント実践の検討プロセス

 前章では、子会社への権限委譲やグループ人材マネジメントにおける分権のあり方にふれてきましたが、本章では、グループ人材マネジメント実践に向けた検討プロセスについて、子会社への分権化にあたってポイントに着目します。
 グループ人材マネジメント実践の検討プロセスは、グループ人材戦略・人材ポートフォリオを実現するためのグループ全体や各子会社の人事課題の洗い出しが起点となり、抽出した課題を解決するために必要な取組みについて、親会社と子会社の担当範囲を整理します。担当範囲の明確化が求められる理由としては、グループ人材戦略で取り組む内容は多岐にわたり、複数のグループ会社が対象となることから、親会社・子会社の責任範囲を決めることがグループ人材戦略の実現可能性の向上につながります。親会社は、グループ全体の人材戦略を示す役割を担い、子会社は各種人事施策の取組みの実効性を高めることが、グループ人材戦略実現のためには不可欠といえます。そのうえで、グループ共通の人事施策や人事制度の検討、人事施策の実行に向けたロードマップの策定、経営層によるグループ人材戦略実行状況のモニタリング体制を確立していく、ここまでがグループ人材マネジメント実践の検討プロセスとなります。
 なお、本章では、弊社がご支援しているクライアント企業様より、お問合せをいただく機会の多い、図表2のStep1「課題の洗い出しと論点整理」、Step 2「親会社と子会社の担当範囲の明確化」、Step3「グループ共通の人事施策/制度の検討」の内容について紹介します。

図表2

グループ人材マネジメント実践の検討プロセス

3-2 グループ人材マネジメントの具体的な取組み

 まず、Step1「課題の洗い出しと論点整理」では、グループ人材戦略や人材ポートフォリオ実現のために、グループ全体や子会社が対応すべき重点課題を洗い出し、その対応策を検討します。例えば、人材戦略の実行に向けた取組みとして、グループ全体と子会社に分類して課題を洗い出していきますが、グループ全体で対応する重点課題について採用・育成・配置などの人事機能面から整理することや、グループ共通の取組みを妨げている内容を抽出します。また、人材ポートフォリオ実現に向けた対応については、グループ全体で強化する人材やスキルの明確化、子会社の専門人材などの必要人員の精査、グループ会社間での異動・配置などを検討していきます。
 次に、Step 2「親会社と子会社の担当範囲の明確化」について、図表3は人材戦略の策定から人事施策の運用まで、各フェーズでの検討の流れを示しています。まずは、グループ人材戦略や人材ポートフォリオの策定方針をもとにグループ共通施策や各種人事施策を計画し、子会社においても、親会社のCHROや人材戦略担当と協議を進めたうえで、子会社が実行する人材戦略を検討し、具体的施策の運用に進みます。このように、グループ全体の人材戦略を実現するうえでは、親会社と子会社が個別に取り組むのではなく、戦略策定や計画の段階から相互に協議して取り組むことが求められます。なお、子会社の人事施策は各社独自で運用しているケースもあるため、子会社の人事施策の利点を活かしつつ、新たなグループ共通の取組みを導入して子会社の人事施策をアップデートしていく視点も求められるでしょう。
 また、子会社への分権化を進めるうえでは、親会社の意向だけでなく、各子会社の好事例等も参考にしながら、グループ共通で実施する施策をボトムアップで検討することも考えられます。例えば、子会社間で共通の人事施策の導入検討や、導入に向けての障壁の整理、取組みを進めるうえでの課題共有などについて、各子会社の人事部長や人事担当間で議論し、子会社同士で取組みを推進することも、グループ人材戦略の実効性を高める一つの事例としてあげられます。

図表3

親会社と子会社の担当範囲の明確化

 続いて、Step 3「グループ共通の人事施策/制度の検討」の観点から、グループ経営を担う次世代リーダーの育成について紹介します。次世代リーダー候補人材の育成にあたっては、育成目的に沿ってグループ内の主要ポジションに配置していきます。まずは、グループ会社の主要ポジションを明確にしたうえで、グループ各社から育成対象とする候補者を抽出し、各候補者の経験や育成目的に沿った配置先を決定します。配置先については、子会社の人事とも協議しながら各ポジションでの経験内容を整理する必要があるため、親会社主導だけではなく、子会社とも協議を進めながらグループ横断的な育成が求められます。

図表4

グループ経営を担う次世代リーダー候補人材のグループ横断的育成

 以上、Step1~Step3にふれながら、グループ人材マネジメントの分権化に関する親会社の役割、子会社の取り組み内容を解説しました。グループ人材マネジメントには、親会社の統率やグループ全体の方向性を示すことが前提として求められますが、それに加えて、親会社・子会社間での連携・子会社同士での協業などが具体的なアクションプランとして考えられます。人的資本経営の高度化にむけては、グループ一体となった取組みの推進がグループ人材マネジメントには不可欠な要素であり、グループ人材戦略の実現に向けた原動力といえるでしょう。

(注)本稿に掲載の図表は全てHRGLにて作成しており、当社の事前の承諾なく、複製、転送等により使用することを禁じます。

参考文献

  • 1 経済産業省『第4回 サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 資料3 事務局説明資料②』ではコングロマリット企業が低収益企業を抱え込みコングロマリットディスカウントが生じていることを指摘している
  • 2 松崎和久(2013)『グループ経営論-その有効性とシナジーに向けて-』同文館出版

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアマネージャー

Takuma Furukawa

法政大学大学院政策創造研究科修了。国内独立系人事コンサルティング会社を経て現職。現在は人的資本経営推進、後継者計画の策定、人事制度設計等のプロジェクトを中心に従事。

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
マネージャー

Kenichi Sunahara

東京都立大学大学院 経営学研究科修了。鉄道会社に入社後、事業企画部門、経理部門、事業戦略部門などに従事。その後、持株会社の人財戦略部門において人的資本経営推進、人財戦略策定に取り組む。現在は人的資本経営推進、後継者計画の策定、指名委員会運営支援等に従事。

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント

Takayuki Kobayashi

前職では人財紹介会社にてエグゼクティブ人財 (経営人財およびデジタル人財)の採用支援業務に従事。現在は人財戦略の立案、人事制度設計や人的資本経営推進を中心に人財マネジメントコンサルティングを主に手掛ける。