グローバルおよび日本における気候関連開示の現状と課題
IFRS財団のレポートおよびTOPIX100構成企業の調査を中心に
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
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- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
前田 祐梨子
■ サマリー
昨年6月の国際サステナビリティ基準審議会によるIFRSサステナビリティ開示基準(以下、「ISSB基準」という)の公表以来、グローバルにおいて、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」という)の提言に沿った開示からISSB基準に沿った開示への移行が課題となっている
2024年11月12日、ISSBの母体であるIFRS財団は、「気候関連開示の進捗—2024年報告書」を公表した。同レポートは、グローバルにおいてTCFD提言に沿った開示が進捗しており、ISSB基準に沿った開示への移行も進みつつあることを示している。一方で、年次財務報告における気候関連開示がいまだ少ないという課題を指摘し、気候関連開示の財務報告への統合の重要性を強調している
日本においては、ISSB基準の国内基準化に向けてサステナビリティ基準委員会が検討を続けており、2025年3月に気候関連開示基準を含む確定基準(以下、「SSBJ基準」という)を公表予定である。将来的には、有価証券報告書におけるSSBJ基準に基づく開示が義務化される見込みであり、気候関連開示の年次財務報告への統合は日本企業にとっても重要な課題であると考える
HRGLは、TOPIX100構成企業の有価証券報告書を対象に気候関連開示の状況を調査した。調査結果を踏まえると、今後はISSB基準およびSSBJ基準(案)との整合性の観点から、①取締役会による監督体制についての詳細な開示、②気候関連のシナリオ分析に関する開示、③気候関連の財務的影響の定量的な開示、④Scope3のGHG排出量の開示、⑤産業横断的指標の開示の充実が課題になると考える。企業は現在開発中のSSBJ基準の動向を注視しつつ、自社の気候関連の取組みを強化し、開示に向けた準備を進める必要がある
目次
1.はじめに
国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB」という)が、2023年6月にIFRSサステナビリティ開示基準(以下、「ISSB基準」という)を公表してから約1年半が経過しました。気候関連開示においては、長年、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、「TCFD」という)の提言に沿った開示が主流でしたが、ISSB基準の公表以来、TCFD提言からISSB基準への移行がグローバルにおいて主流になりつつあります。
こうしたなか、ISSBの母体であるIFRS財団は、2024年11月12日に、グローバルにおける気候関連開示の進捗状況をまとめたレポート「気候関連開示の進捗—2024年報告書」1 を公表しました。同レポートは、2023年10月に解散したTCFDによるレポートを引き継いだもので2 、TCFD提言に沿った開示の進捗状況に加え、ISSB基準に沿った開示への移行状況などを調査した結果がまとめられています。本稿では、同レポートの内容をもとに、グローバルにおける気候関連開示の進捗について最新情報をご紹介します。
また、日本国内にも目を向けると、現在サステナビリティ基準委員会(以下、「SSBJ」という)がISSB基準の国内基準化に向けた開発を続けており、2025年3月に確定版の基準(以下、「SSBJ基準」という)を公表予定です 3。日本企業にとっても、SSBJ基準ならびにその土台であるISSB基準に沿った開示への備えが喫緊の課題であるといえます。本稿では、こうした動向を踏まえ、HRGLが実施したTOPIX100構成企業の有価証券報告書(以下、「有報」という)の調査の結果をもとに、日本における気候関連開示の現状と課題についてもお示しします。
2.グローバルにおける気候関連開示の進捗状況
本節では、上述のIFRS財団によるレポートの内容をもとに、グローバルにおける気候関連開示の進捗状況を概観します。
2-1 TCFD提言に沿った開示の進捗
IFRS財団は、全世界の上場企業3,814社の各種報告書(財務報告、アニュアルレポート、統合報告書、サステナビリティレポートなど)における開示を対象に、AIを用いてTCFD提言に沿った開示の進捗状況を調査しています。前述のとおり、今後はTCFD提言からISSB基準への移行が見込まれるものの、ISSB基準に沿った開示の進捗状況を把握するうえでも当調査が示すデータは有用だと考えます。なぜなら、ISSB基準は、TCFD提言に比べ追加的なあるいはより詳細な開示を求めてはいるものの、その大枠はTCFD提言の開示項目を踏襲したものだからです。
調査対象企業のTCFD提言にもとづく開示状況に関する調査結果をみてみると、TCFD提言の11の推奨開示項目すべてについて、提言に沿った開示を行う企業の割合が前年比で増加していました(図表1)。開示割合が最も大きく増加した項目上位3つをあげると、「Scope1/2/3の排出量」で10pt増加、「気候関連の指標」で8pt増加、「取締役会による監督体制」で7pt増加でした。項目間を比較すると、「取締役会による監督体制」のほか、指標と目標に関する3項目の開示割合が比較的高く、「Scope1/2/3の排出量」をはじめとする気候関連の指標と目標の把握と開示に取り組む企業が比較的多いことがうかがえます。
全体の傾向としては、11の項目のうち1項目以上を開示する企業は82%と前年から9pt増加、 5項目以上を開示する企業は44%と前年から10pt増加した一方で、11項目すべてを開示する企業は2-3%と極めて少数にとどまりました。企業による気候関連開示にはいまだ課題も多いといえます。
項目別にみると、「戦略のレジリエンス」の開示割合が11%、「総合的リスク管理への統合」が18%と、他の項目に比べて開示が遅れています。「戦略のレジリエンス」については、2022年にTCFDが実施した200社を超える企業へのサーベイにおいて、90%以上の企業が同項目の開示を「やや難しい」または「非常に難しい」と回答しており、シナリオ分析にもとづく戦略のレジリエンスの評価の困難さが、低い開示率の背景にあると考えられます4 。
図表1
TCFD提言にもとづく開示状況(FY2022・FY2023、IFRS財団調べ)

2-2 ISSB基準に沿った開示への移行状況
つづいてIFRS財団は、ISSB基準に沿った開示への移行の進捗を把握すべく、2023年10月から2024年3月までの期間に何らかの形でISSB基準に言及した全世界の上場・非上場企業1,151社の開示資料を対象に、ISSB基準への言及の内容を調査しています。具体的には、ISSB基準に言及した企業を、①同基準への一般的な言及にとどまる企業、②同基準に沿った開示を計画している旨を表明している企業、③同基準に沿った開示を実施している旨を表明している企業の3つに分類し(図表2)、それぞれの割合を示しています。
図表2
ISSB基準への言及内容の分類

結果は地域・国別に示されていますが(図表3)、アジア・オセアニア地域(ISSB基準に言及した474社が対象)やアフリカ地域(同80社が対象)では、対象企業のうち、現在ISSB基準に沿った開示を行っている、あるいは将来的に同基準に沿った開示を計画していることを表明している企業は約半数にのぼりました。また国ごとにみると、ナイジェリア、オーストラリア、ザンビア、モーリシャス、ブラジル、中国、カナダ、シンガポール、英国では、半数以上の企業が、ISSB基準への現在または将来的な準拠を表明しています。
日本企業(ISSB基準に言及した39社が対象)については、現在ISSB基準に沿った開示を行っている旨を表明している企業は5%、将来的に同基準に沿った開示を計画している企業は10%と、少数にとどまっています。他の地域・国に比べ、同基準への移行が遅れていることが示唆されています。
IFRS財団が全世界のアセットマネージャーおよびアセットオーナー55機関から得たサーベイへの回答によると、アセットマネージャーの84%、アセットオーナーの100%が、投資先企業がTCFD提言に沿った開示からISSB基準に沿った開示に移行することを望んでいるまたは期待していることが示されました。今後、ISSB基準がグローバルな気候関連開示のスタンダードになることが見込まれるなか、投資家の信頼獲得の観点から、ISSB基準への移行が重要になると考えられます。これを踏まえ、日本企業においてもISSB基準に沿った開示に備えて具体的な検討を始めることが必要になると考えます。
図表3
ISSB基準への言及の状況(2023年10月~2024年3月、IFRS財団調べ)

2-3 財務報告における気候関連開示の進捗状況
ISSB基準に沿った開示への移行にあたり重要な要素のひとつが、気候関連開示の財務報告への統合です。ISSB基準は企業に対し、①マテリアルな気候関連情報を有報などの一般目的財務報告の一部として開示すること、②サステナビリティ関連情報を財務諸表と同時に開示すること、③気候関連またはその他のサステナビリティ関連のリスクおよび機会が財務諸表に与える現在および予想される影響を開示することを要求しています。これらを通して企業の財務諸表とサステナビリティ関連情報とのつながりが強化され、より投資家の投資判断に資する情報の提供が可能になると考えられます。
こうした背景を踏まえ、IFRS財団は、依然として多くの企業が気候関連情報をサステナビリティレポートなどにおいて開示しており、財務報告において開示を行う企業は比較的少ない点を課題として指摘しています。調査によると、財務報告のなかでTCFD提言に沿って開示する企業数は前年に比べ増加しているものの、気候変動レポートやサステナビリティレポートで開示する企業の約半数にとどまっているとの結果が示されています。
各媒体における開示内容をみると、気候変動レポートやTCFDレポートにおいて最も開示が多い項目は「GHG排出量」である一方、財務報告において最も開示が多い項目は「リスク・機会の説明」です。財務報告で開示される情報は定性的な情報にとどまっており、GHG排出量などの定量的な指標の開示が比較的進んでいない状況がうかがえます。日本においても、法定開示である有報で気候関連の定量的情報を開示することのハードルを高く感じる企業も多いと考えられますが、金融庁はサステナビリティ関連情報の虚偽記載に関するいわゆるセーフハーバーについての議論を進めています5 。企業はこうした議論の進展を注視しつつ、有報での定量的情報の開示に向けて準備を進めることが期待されています。
3.日本における気候関連開示の現状と課題
気候関連開示を財務報告に統合させる動きは、日本においても加速しています。日本では、2023年の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正を受け、有報におけるサステナビリティ関連情報の開示が義務化されました。また、現在開発中のSSBJ基準について、2027年3月期決算の有報から段階的に適用を義務化する案が金融庁により示されています 6。将来的に幅広い企業に対し、気候変動を含むサステナビリティ関連情報の有報における開示が求められる見込みです。
こうしたなか、日本企業は、ISSB基準およびSSBJ基準(案)の内容を踏まえつつ、有報での気候関連開示に向けて準備を進める必要があります。本節では、HRGLが実施したTOPIX100構成企業の有報に関する調査(取締役会で人的資本を議論する企業は昨年比1.6倍、Scope3の開示率も上昇 ~TOPIX100社の有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示状況調査~ | HRガバナンス・リーダーズ株式会社)における気候変動領域の調査結果に焦点をあて、ISSB基準およびSSBJ基準への整合の観点から、日本企業が取り組むべきと考える気候関連開示の主な課題を5点お示しします。
なお、調査対象は、2024年はTOPIX100構成企業である99社ですが、2023年については、有報におけるサステナビリティ情報の開示義務化が2023年3月31日以降の決算期を対象とすることから、TOPIX100構成企業のうち同日以降に終了する事業年度の有報を提出した81社としています。
3-1 取締役会による監督体制の開示
日本企業の気候関連開示における1つ目の課題は、気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクおよび機会を監督する機関についての詳細な開示が不足している点だと考えます。
本調査によると、99%の企業がサステビリティ課題への取組みを取締役会が監督していることに言及しており、監督機能の所在については明確であるといえます。
ただし、ISSB基準およびSSBJ基準(案)は、サステナビリティ関連のリスクおよび機会の監督に責任を負う機関について、より詳細な情報の開示を求めています。たとえば企業は、監督機関または個人が適切なスキルおよびコンピテンシーを有しているかを開示する必要があります。この観点から、本調査において取締役会をはじめとする監督機関に属する個人が、サステナビリティ関連の課題を監督するためのスキルおよびコンピテンシーを有しているかを調査したところ、これらを開示する企業は16%にとどまりました。ISSB基準およびSSBJ基準(案)を満たす開示には到達していない企業が多いことがうかがえます。
監督機関については、スキルおよびコンピテンシーの有無以外にも、気候関連のリスクおよび機会に対する監督機関の責任が職務記述などの文書や関連方針にどのように反映されているかという点や、監督機関が気候関連のリスクおよび機会に関する情報を入手する方法および頻度などについての開示が求められています。企業にはこれらの開示要求事項を把握しつつ、気候関連課題に対する自社のガバナンス体制において検討が不足している点がないかを見直し、強化・開示することが求められます。
3-2 気候関連のシナリオ分析に関する開示
2つ目の課題は、気候関連のシナリオ分析に関する詳細な開示が不足している点だと考えます。
本調査によると、気候関連のシナリオ分析を実施している旨を開示する企業は88%にのぼり、シナリオ分析自体には多くの企業が取り組んでいることが示されました。
ただし、ISSB基準およびSSBJ基準(案)は、気候レジリエンス7 の評価にあたりシナリオ分析の実施を求めているだけでなく、分析に用いたインプットに関する情報として、使用したシナリオの情報源や、当シナリオが物理的リスクと移行リスクのどちらかに関連しているか、分析に用いた時間軸や事業範囲などの詳細を開示することを要求しています。この観点から本調査の結果をみてみると、分析にあたり物理的リスクと移行リスクの両方に言及している企業は76%であった一方、分析に用いた時間軸(短期、中期、長期などで表現)を開示している企業は55%にとどまりました。シナリオ分析の詳細について一定程度の開示は進んでいる一方、ISSB基準およびSSBJ基準(案)が求める水準には到達していない企業がいまだ多いことがうかがえます。
今後企業には、自社が利用可能なスキル、能力、資源を考慮したうえでシナリオ分析の方法を決定し分析を進めるともに、分析に用いた情報や仮定を透明性をもって開示していくことが求められると考えます。
3-3 気候関連のリスクおよび機会による財務的影響の開示
3つ目の課題は、気候関連の財務的影響についての定量的な開示が不足している点だと考えます。ISSB基準およびSSBJ基準(案)は、気候関連のリスクおよび機会が企業に与える現在および将来の財務的影響を、原則として定量的に開示することを要求しています。
しかし、本調査の結果、気候関連の戦略の説明のなかで気候関連のリスクおよび機会が企業に与える財務的影響を具体的な数値を用いて開示している企業は25%にとどまりました。財務的影響について記載をしているものの、定性的な情報にとどまっている企業も多いことがうかがえます。不確実な未来のなか、企業の気候変動への取組みやその財務影響を適切に投資家に判断してもらうために、今後はISSB基準およびSSBJ基準(案)に沿う形で財務的影響を定量的に開示していくことが求められると考えます。
3-4 Scope 3のGHG排出量の開示
4つ目の課題はScope3のGHG排出量の開示が不足している点だと考えます。ISSB基準およびSSBJ基準(案)は、Scope1と2に加え、Scope3のGHG排出量の実績値の開示を要求しています。
本調査によると、GHG排出量についてScope1と2の目標値および実績値を開示する企業は59%であった一方、Scope3の目標値および実績値を開示する企業は33%でした(図表4)。Scope1および2の開示割合とScope3の開示割合との間に開きがある状況です。
ただし、上記のScope3の開示企業の割合は前年比で約1.7倍となっており、Scope1および2との開示割合の差が縮小していることも読み取れます。Scope3の開示に際してはデータ収集など技術面の課題や目標設定、スコープ設定などに関する課題を抱える企業も多いと考えられますが、将来的な有報での開示義務化を見据えて対応を進める企業が増えていることがうかがえます。今後も引き続き、Scope3まで含めたGHG排出量を把握し開示を進めるとともに、自社の目標を見据えた排出削減の取組みを進めることが期待されます。
図表4
GHG排出量の開示状況(2023年: n=81, 2024年: n=99)

3-5 産業横断的指標の開示
5つ目の課題は、産業横断的指標の開示が不足している点だと考えます。同指標は2021年に公表されたTCFDのガイダンス8 において示されたもので、GHG排出量を含む7つの指標から構成されています。ISSB基準およびSSBJ基準(案)は、すべての企業に対してこれらの指標の開示を求めています。
産業横断的指標のうちGHG排出量を除く6指標の開示状況を調査した結果、5つの指標で開示が10%以下と極めて限定的でした(図表5)。これらの指標についてはいまだ開示の先行事例が少なく、具体的な数値の開示に課題を抱える企業が多い状況がうかがえます。
特に、気候関連の移行リスク、物理的リスクに脆弱な資産または事業活動、ならびに気候関連の機会と整合した資産または事業活動については、具体的な金額またはパーセンテージを開示する企業は 1%、6%、3%と極めて少数にとどまっています。なお、上記3指標について、SSBJ基準(案)では金額およびパーセンテージの代わりに規模に関する情報の開示も認める案が示されているものの、ISSB基準では定量的情報の開示が要求されており、SSBJ基準(案)とISSB基準で異なる開示基準が設定される可能性も見込まれます。この点については、SSBJ基準の開発動向を注視のうえ、ISSB基準に沿った開示を進める場合は、具体的な金額およびパーセンテージを開示することが必要になると考えます。
また、役員報酬のうち気候関連の考慮事項と結びついている部分の割合については、開示する企業が20%と他の指標と比べて開示割合が高くなっています。具体的な開示方法としては、役員への短期および中長期インセンティブの支給額の決定に用いるKPIとしてGHG排出削減率や脱炭素の取組みが設定されている場合、「役員の報酬等」の欄においてそのウェイトが開示されるケースが多くみられました。しかしながら、開示割合は2割強といまだ限定的であり、他の指標と合わせて更なる開示の進展が求められていると考えます。
図表5
産業横断的指標(GHG排出量以外)の開示状況(2024年, n=99)

注:「資本的支出、ファイナンス、投資の金額」には、過去に支出・投資した金額および将来支出・投資を計画している金額を含む
4.おわりに
本稿では、IFRS財団によるレポートの内容をもとにグローバルにおける気候関連開示の現況を概観するとともに、TOPIX100構成企業の有価証券報告書における開示状況をもとに日本における気候関連開示の現状と課題について論じてきました。TCFD提言からISSB基準(日本においてはSSBJ基準)への移行が求められるなか、企業においては自社の現状の気候関連開示を整理することで課題を把握し、まずは着手できる課題から取り組み、将来的な開示の義務化に備えておくことが推奨されます。また、今後取り組むべき課題を特定するうえでは、現在開発中のSSBJ基準の開発動向を注視することも必要だと考えます。
また、IFRS財団のレポートが指摘しているとおり、ISSB基準およびSSBJ基準(案)に沿った開示への移行においては、気候関連情報の財務報告への統合が肝要です。日本企業においては、有報における財務諸表と気候変動を含むサステナビリティ関連情報とのつながりを明確にし、サステナビリティ関連のリスクおよび機会が自社に与える財務的影響を定量的に開示していくことが求められていくと考えます。
こうした取組みを通して、国内外の投資家からの日本企業への信頼が高まり、ひいてはグローバル市場における競争力強化につながることが期待されます。また、企業においては開示自体を目的とするのではなく、透明性のある開示をもとに投資家を含むステークホルダーと建設的な対話を行い、得られたフィードバックを踏まえて自社の取組みを継続的に深化させていくことが重要であると考えます。
参考文献
- 1 IFRS財団, “Progress on Corporate Climate-related Disclosures—2024 Report” (2024年11月12日)
- 2 TCFDは過去に合計6つの「ステータスレポート」を公表し、TCFD提言に沿った開示の進捗状況を報告してきた。2023年10月に公表された最後の「ステータスレポート」は以下を参照。
- 3 SSBJは、2023年3月に公開草案として、ユニバーサル基準である「サステナビリティ開示基準の適用(案)」ならびにテーマ別基準である「一般開示基準(案)」および「気候関連開示基準(案)」を公表した。
- 4 TCFD, “2022 Status Report” (2022年10月)
- 5 金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ,「事務局説明資料」(2024年10月10日)
- 6 時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業には2027年3月期決算の有報から、時価総額1兆円以上の企業には2028年3月期決算の有報から、時価総額5,000億円以上の企業には2029年3月期決算の有報から適用を義務化する案が示されている。参照資料は同上。
- 7 SSBJ基準(案)は、気候レジリエンスを「気候関連の変化、進展又は不確実性に対応する企業の能力」と定義している。この能力には「気候関連のリスクを管理し、気候関連の機会から便益を享受する能力(気候関連の移行リスク及び気候関連の物理的リスクに対応し、適応する能力を含む)」が含まれるとされている。
- 8 TCFD, “Guidance on Metrics, Targets, and Transition Plans” (2021年10月)
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
前田 祐梨子 Yuriko Maeda
