プラスチック規制をめぐる国際動向
バリューチェーン全体における循環経済モデルへの転換が必要
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
前田 祐梨子
■ サマリー
気候変動、生物多様性の損失、汚染という「3つの危機」への統合的な対応が求められるなか、企業の環境関連のアクションにおいて、脱炭素やネイチャーポジティブに加え、循環経済への移行にむけた取組みを進めることが不可欠の要素となっている
近年、プラスチックの利用が引き起こすCO2排出や海洋汚染などを背景に、世界の各法域でプラスチック分野での循環経済への移行にむけた規制が強化されている。規制の対象は、プラスチック使用製品の製造、使用、廃棄などのプロセス全体におよぶ。日本でも、6月27日に経済産業省が公表した循環経済の実現にむけた制度見直しに関する中間とりまとめ案において、将来的に事業者に再生プラスチックの利用計画策定と実績の定期報告を義務づける方向性が示され、今後のさらなる規制強化が見込まれる
国際的な規制動向としては、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(以下、プラスチック条約)の年内の制定にむけ、政府間交渉委員会が交渉を進めている。プラスチック条約には、プラスチック使用製品の廃棄にかぎらず、製造や流通を含めたライフサイクル全体に関する規制が盛り込まれる可能性がある
プラスチック関連の規制強化により、企業にとっては対応にかかわるコスト増大やプラスチック使用製品の需要減少などのリスクの一方、再利用やリサイクルを通じた資源の活用、代替素材の開発などの機会も生じると考える。こうしたリスクや機会を踏まえた企業の取組みについて、投資家からの注目も高まっている。CDPの水セキュリティの質問書においては2023年からプラスチックに関する項目が追加され、報告企業にはプラスチック関連の指標や目標などの開示が求められている
プラスチックによる環境汚染をなくすためには、単に製品の回収や適切な廃棄、リサイクルなどに個別に取り組むのではなく、循環経済モデルへ転換することが不可欠である。企業には、あらゆるプラスチック使用製品が廃棄されず、再利用やリサイクル、堆肥化などを通じて循環し続けるシステムの構築にむけた取組みが求められている
目次
1.はじめに
プラスチック分野での循環経済への移行にむけた規制が進む
昨今国際社会では、脱炭素にとどまらず、ネイチャーポジティブや循環経済への移行にむけた動きが官民において加速しています。日本でも、2024年5月に公表された第六次環境基本計画において、地球が、気候変動、生物多様性の損失、汚染という「3つの危機」に直面しているとの現状認識のもと、気候変動対策や循環型社会の形成、生物多様性の確保・自然共生、水・大気・土壌の環境保全などが重点領域として掲げられました1 。こうしたなか、企業には各種環境問題の統合的な解決にむけた取組みが求められています。
本稿では、環境問題への統合的アプローチに際して不可欠な、循環経済への移行にむけた動向に着目します。なかでも焦点となるのが、環境への影響が大きいとされ、近年規制強化の動きが加速しているプラスチックの分野における動向です。
プラスチックの利用をめぐっては多くの問題が指摘されていますが、なかでも主に次の2つの方法による環境への悪影響が懸念されています。一つ目は、プラスチックの生産、廃棄の過程におけるCO2の排出です。プラスチックの多くは化石燃料である石油を原料としているため、原料採掘、輸送、製品製造、廃棄のすべての過程において多くのCO2が排出され、気候変動の一因となっています。二つ目は、海洋プラスチックによる生態系への影響です。現在大量のプラスチックごみが海洋に流出しており、そこに生息する魚や動物が、ポリ袋を餌と間違えて飲み込んだり、プラスチック製の漁網などに絡まるなどして殺傷されています。また、近年は微細化されたプラスチックの粒子であるマイクロプラスチックによる海洋汚染も問題になっています。マイクロプラスチックには、プラスチックごみが自然環境中で劣化し細かく砕けて生じたものと、洗顔料や歯磨き粉などの製品に使用されてきたマイクロビーズと呼ばれるプラスチック粒子の流出によるものがありますが、こうしたマイクロプラスチックに有害な化学物質が吸着し、食物連鎖を通して人間を含む生態系に取り込まれることによる悪影響が懸念されています。このように、プラスチックが引き起こす問題は気候変動や生物多様性の問題と密接に結びついており、脱炭素やネイチャーポジティブを含む環境問題の統合的な解決に際して、必須で取り組むべき問題です。
世界の多くの法域では、すでにプラスチックの製造、使用、廃棄をめぐる様々な規制が導入されています。さらに現在、プラスチック汚染をおわらせるための国際的な枠組みの導入をめざし、プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(international legally binding instrument on plastic pollution、以下、プラスチック条約)の年内の制定にむけた国家間の交渉が進められています。本稿では、こうした国際的なプラスチック規制の動向について解説するするとともに、プラスチック分野での循環経済の実現にむけて今後企業に求められる取組みについて考察します。
2.各法域におけるプラスチック規制の現況
近年、世界の各法域では循環経済への移行を目的とする政策が進められており、その一環としてプラスチック使用製品に関する規制が強化されています。本節では、主要諸国におけるプラスチック規制の動向について、いくつかのポイントにわけつつ概観します。
特定の使い捨てプラスチックの製造・販売・輸出入への規制
昨今のプラスチック規制に関する第一の注目点は、プラスチックの製造や輸出入など、サプライチェーンの上流における規制が各法域で強化されていることです。これは、循環経済への移行のためには、製品を回収して再利用やリサイクルするだけでなく、プラスチック使用製品の流通量自体を削減する必要があるためです。EU2 やイギリス(イングランド)3 、カナダ4 などでは、各国で規制対象となる製品に違いはありますが、飲食店などで提供されるカトラリーや容器をはじめとする特定の使い捨てプラスチック製品や包装材について、その製造や販売、輸出入などがすでに禁止されています。
日本では使い捨てプラスチックの製造や販売を禁止する法律はありませんが、「プラスチック資源循環促進法」(2022年施行)において、飲食店やホテルでのカトラリーやアメニティ、クリーニング店でのハンガーなどの「特定プラスチック使用製品」を提供する事業者に対し、その使用の合理化のための目標設定とそれにむけた取組みなどが求められています。具体的な取組みとしては、特定プラスチック使用製品の提供を有償化したり、提供有無に関して消費者に意思確認をすることなどが考えられます 5。
マイクロプラスチックを含む製品への規制
製品の製造、販売段階における規制としては、洗顔料や歯磨き粉、化粧品などに添加されるマイクロビーズの使用に対する規制も進んでいます。前述のとおり、マイクロビーズが使用時に海洋などに流出し、生態系や人体への悪影響を引き起こすことが懸念されているためです。現在、すべてのマイクロビーズが対象ではないものの、EU6 やイギリス 7、アメリカ8、カナダ 9などにおいて、すでにその製造や販売が禁止されています。日本では使用を禁止する法規制はないものの、産業界では使用を控える自主規制が進んでいます。
プラスチック使用製品への課税
プラスチック使用量の削減のため、プラスチック使用製品に対する分担金や税金を課す法域も増えつつあります。EUでは、リサイクルされていないプラスチック包装廃棄物の量に応じて加盟国が分担金を負担する制度が2021年から施行されています10 。さらにスペインでは再利用できないプラスチック包装製品に対する国内課税が導入されており 11、他のEU加盟国でも同様の課税が導入されることが予想されます。EU域外のイギリスでも、リサイクルされていないプラスチック包装材に対する課税が導入されています12。
プラスチック使用製品の再利用・リサイクル・堆肥化の促進のための規制
プラスチックの流通量自体を削減するための規制と並行し、再利用やリサイクルなどを通したプラスチック資源の循環を促進するための法整備も進んでいます。そのひとつが、再利用やリサイクルなどを可能にするような製品設計や素材の使用要件に関する規制です。EUでは、「包装および包装廃棄物に関する規則」(2024年4月採択)により、すべての包装材へのリサイクル可能な素材の使用が義務づけられることになりました。また、飲料用や輸送用包装などの用途別に、再利用や詰め替え可能な包装材の最低利用率要件が課される見込みです13 。アメリカのカリフォルニア州では、「プラスチック汚染防止および包装材生産者責任に関する法」(2022年成立)により、2032年までにすべての使い捨てプラスチック包装材や食品容器をリサイクルまたは堆肥化可能なものにすることや、その65%を実際にリサイクルすることが定められました。同法は、一定のリサイクル率を未達成の場合に発泡スチロール製の食品容器の販売・流通を禁止するなど、厳しい規制を含む内容となっています14 。
日本では、プラスチック資源循環促進法により、プラスチック使用製品製造事業者に対し製品の設計段階における3R+Renewableの取組みが要請されています 15。また、回収・再資源化段階における企業の取組みを後押しすべく、製造・販売事業者などが国の認定を受けることで、廃棄物処理法にもとづく業の許可がなくても、使用済みのプラスチック使用製品を自主回収し、再資源化することを可能にする枠組みが整備されています16 。さらに、2024年6月27日に経済産業省が公表した循環経済の実現にむけた制度見直しに関する中間とりまとめ案においては、将来的にプラスチック利用業者に対し、再生プラスチックの利用計画の策定と実績の定期報告を義務づけるなどの方向性が示されました(図表1) 17。プラスチックを含む資源の循環促進に向け、国内での制度拡充と規制強化が、今後さらに進展することが見込まれます。
図表1
日本における循環経済の実現(資源消費量の抑制)にむけた制度見直しの方向性
本節では、主要国におけるプラスチック規制の動きを概観しましたが、同様の規制は主要国にとどまらず世界各国に広がっています。国際的な規制動向は日本の政策にも大きな影響を及ぼすことが見込まれるため、グローバルでビジネスを行う企業はもちろん、日本のみでビジネスを行う企業も、国内外のプラスチック規制の動きを注視していく必要があると考えます。
図表2
各法域におけるプラスチック関連規制
3.プラスチック条約制定にむけた国際交渉の動向
3-1 プラスチック条約交渉開始の背景と交渉の経緯
本節では、2024年内の制定にむけて国際交渉が進められているプラスチック条約について解説します。はじめに、プラスチック条約交渉が開始された背景についてです。2010年代半ばからプラスチックによる海洋汚染問題への国際的な注目が高まり、これまでG7、G20諸国により、海洋プラスチックごみ対策のための行動計画やビジョンが示されてきました。2019年のG20では「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が合意され、「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減する」という目標が掲げられました 18。
これらの国際合意の主眼は、適切な廃棄物管理などを通してプラスチックの海洋への流出を防ぐことに置かれていました。しかし近年では、海洋中のプラスチックに限らずより広いプラスチック問題に対処すること、プラスチックの廃棄だけでなく製造・流通を含めたバリューチェーン全体における対策をとることへの要請が国際的に高まっています。
こうしたなか、2022年3月の第5回国連環境総会において、「プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際文書(条約)にむけて」という決議が採択されました。この決議では、プラスチック汚染根絶のために国際的な協調、協力、ガバナンスの強化が急務であるとの認識のもと、2024年末までの条約制定が合意され、交渉を担う政府間交渉委員会(Intergovernmental Negotiating Committee: INC)が設立されました 19。
INCはこれまで4回の会合を行い、2023年9月には条約の草案の初版が、12月には修正版が公表されています。さらに、2024年7月1日に、4月に行われた第4回会合(INC-4)の成果を踏まえ、最新の草案(7月時点では暫定版)が公表されました。この草案をベースに、11月25日から韓国で開催予定の第5回会合(INC-5)で交渉が行われ、条約制定の合意がなされることが期待されています(図表3)20 。
図表3
プラスチック条約交渉の経緯
3-2 プラスチック条約交渉における論点
プラスチック条約の草案では、締約国に課される可能性のある義務規定の候補が示されています(図表4)21 。各規程の詳細は今後の交渉によって決まるため現時点では不確定要素も多いですが、ここでは重要なポイントをかいつまんでみていきます。
図表4
プラスチック条約草案における義務規定に関する項目
プラスチック条約について注目すべき第一のポイントは、プラスチックの生産から使用、廃棄に至るまでのバリューチェーン全体が取り扱われる見通しであることです。条約策定が合意された第5回国連総会の決議においては、プラスチックのライフサイクル全体を取り扱う包括的なアプローチにもとづいて条約を策定することが示されました 22。前述のとおり、プラスチック汚染対策として廃棄物管理だけでは不十分であり、プラスチックの生産量自体を抑制し、懸念のあるプラスチックは上流で規制する必要があるとの考えが根底にあります。
条約草案においては、「一次プラスチックポリマー」23 や、「懸念のある化学物質とポリマー」、「問題のあり回避可能なプラスチック製品」(使い捨てプラスチックや意図的に添加されたマイクロビーズを含む)について、締約国がその生産、供給、使用を制限するよう義務づける案が示されています。プラスチックの生産制限をめぐっては交渉参加国間の意見の隔たりもあり、各国一律での規制が課されることになるかはいまだ不透明です。それでも、何らかの形で上流における規制が条約に盛り込まれた場合、プラスチック使用製品を製造、供給、使用する企業に影響が及ぶ可能性があります。
また、条約草案には、リデュース、リユース、再充填、修理などを促進する観点から、プラスチック製品の設計や構成、性能を向上させるための措置を義務づける案も盛り込まれています。前節でみたとおり、EUでは包装材の循環性を促進するための素材の要件等を定める規則が採択され、日本でもプラスチック資源循環促進法において製品の設計段階におけるリデュース、リユース、リサイクル促進のための取組みが求められています。プラスチック条約に製品設計に関する義務が盛り込まれれば、各法域におけるこうした規制の強化がさらに進む可能性があります。
条約草案のなかでもう一点注目しているのが、非プラスチックの代替品に関する項目です。安全で環境面で健全かつ持続可能な非プラスチックの代替品の開発と利用を促進するために、締約国に、規制や経済的手段、公的調達、インセンティブなどを用いることが推奨あるいは義務付けられる可能性があります24。このような義務が盛り込まれた場合、各国でプラスチック代替品の開発を支援する制度の整備が進められ、そうした製品を開発・製造する企業にとって機会が創出されることが見込まれます。
以上のように、プラスチック条約が取り扱う問題は、プラスチックを製造、利用する企業にとって影響が大きく、交渉動向を注視する必要があります。
3-3 日本政府の立場
プラスチック条約交渉に参加する各国の立場は様々ですが、直近の第4回会合(INC-4、2024年4月23日~29日)で示された主張を図表5にまとめています。
様々な論点のなかでも、プラスチックの生産制限に関しては各交渉参加国の間で立場の隔たりが大きくなっていますが、日本政府としては、世界一律での生産制限ではなく、使い捨てプラスチックの削減や環境に配慮した製品設計、リユース・リサイクルや適正な廃棄物管理などの分野での取組みを進めていくことを主張しています25 。
図表5
プラスチック条約交渉における日本政府の主張
4.企業に求められる取組み
循環経済のアプローチが不可欠
プラスチック汚染への対策強化が国際的な課題として重要性を増すなか、企業がプラスチック問題にどのように取り組み、関連するリスクと機会を管理しているかについて、投資家からの注目も高まっています。2023年には、CDPの水セキュリティの質問書においてプラスチックに関する項目が追加され、企業にはプラスチック関連の指標や目標などを開示することが求められています26 。今後、企業には、自社が製造、利用するプラスチックによる環境負荷を軽減するためのさらなる取組みが求められると考えられます。本節では、プラスチック問題の解決に向け、企業がとることができるアクションについてご説明します。
プラスチックによる環境汚染をなくすためには、従来型の線形経済モデルから脱却し、循環経済に転換するための取組みが不可欠です。すなわち、単に製品の回収や適切な廃棄、リサイクルなどに個別に取り組むのではなく、プラスチックの利用量をできる限り削減したうえで、あらゆるプラスチック使用製品が廃棄されず、再利用やリサイクル、堆肥化などのプロセスを通じて循環し続けるシステムへの転換が求められています。循環経済の分野で国際的な影響力をもつエレン・マッカーサー財団は、循環経済への移行により、プラスチックの海洋への流出総量を年間80%削減できると試算しています 27。
ここでは、エレン・マッカーサー財団が提示する、プラスチック分野における循環経済の6つのビジョンをご紹介します(図表6)28 。このビジョンにおいては、第一に、不要なプラスチック包装材をなくすことが求められます(①)。企業は、製品の再設計やイノベーション、新たな供給モデルの構築を通して、この課題に取り組む必要があります。第二に、どうしてもプラスチック包装材が必要とされる場面では、一度使われた包装材が廃棄されず循環するプロセスを構築することが求められます。たとえば、再利用モデルの適用を通じて使い捨て包装材の需要を減らす必要があります(②)。また、プラスチック包装材を100%再利用、リサイクル、堆肥化可能なものにすること(③)、さらにそうした包装材が実際に再利用、リサイクル、堆肥化されること(④)も不可欠です。企業には、自社が製造する製品について、これを可能にするような設計を行うだけでなく、使用後の製品の回収や再利用、リサイクル、堆肥化を実際に担うことが期待されます。第三に、化石燃料などの有限資源の消費を伴わないプラスチック利用のシステムを構築する必要があります(⑤)。すなわち、プラスチックの生産、供給、回収、リサイクルを含むすべてのライフサイクルにおいて、化石由来ではなく再生可能なエネルギーが使用されなければなりません。最後に、プラスチックに添加される有害化学物質をなくし、人間の健康や安全を脅かさないようにすること(⑥)も必要です。
このように、プラスチック分野における循環経済の実現にむけて企業が果たすべき役割は、製品の設計、製造から回収、再利用段階まで、ライフサイクル全体にわたります。日本では、前述のプラスチック資源循環促進法により、プラスチック使用製品の循環を促進するための製品設計指針が示されているほか、民間企業によるプラスチック使用製品の自主回収と再資源化のための枠組みが整備されるなど、企業の取組みを後押しする方向性があらためて示されました。こうしたなか、一部の企業においては、プラスチック使用製品を回収し、再資源化するためのシステム構築を行う動きが加速しています。今後、プラスチック分野での資源循環のため、ライフサイクル全体で取組みを進めていくことがますます重要になると考えます。
図表6
プラスチック分野における循環経済の6つのビジョン(エレン・マッカーサー財団)
おわりに
プラスチック条約交渉の行方はいまだ不透明ですが、条約が成立した場合、パリ協定や昆明・モントリオール生物多様性枠組みにならぶ重要な国際枠組みとなる可能性があります。この場合、各法域におけるプラスチック関連規制がさらに加速し、企業の中長期的な戦略に大きな影響を及ぼすことが見込まれます。こうした規制の強化は、対応にかかわるコスト増大やプラスチック使用製品の需要減少などリスクにもなりえますが、他方でプラスチック使用製品の再利用やリサイクルを通じた資源の活用や、代替素材の開発などに関して、ビジネス機会も存在すると考えます。企業は今後も国内外での規制の動向を注視しつつ、自社に関連するリスクと機会を見極め、それを戦略に反映させていく必要があります。
あらためて、冒頭でご説明したとおり、企業には、気候変動、生物多様性の損失、汚染という地球が直面する「3つの危機」について、個別にではなく統合的に取り組むことが求められています。本稿でご紹介したプラスチック分野での循環経済にむけた取組みは、環境汚染対策のみならずネットゼロやネイチャーポジティブの実現の観点からも重要性が高く、統合的な取組みに際して考慮することが欠かせない要素であると考えます。
参考文献
- 1 「環境基本計画」 (2024年5月21日)
- 2 EUR-Lex, “Single-use plastics – fighting the impact on the environment” (2024年7月1日アクセス)
- 3 Gov.UK, ”Single-use plastics bans and restrictions” (2024年7月1日アクセス)
- 4 カナダ政府, “Single-use Plastics Prohibition Regulations- Overview” (2024年7月1日アクセス)
- 5 環境省「『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律』の普及啓発ページ」(2024年7月1日アクセス)
- 6 欧州委員会, “Questions and Answers on Restriction to intentionally added microplastics” (2023年9月25日)
- 7 Gov.UK, “World-leading microbeads ban takes effect” (2024年7月1日アクセス)
- 8 Congress.Gov, “Microbead-Free Waters Act of 2015” (2024年7月1日アクセス)
- 9 カナダ政府, “Microbeads” (2024年7月1日アクセス)
- 10 欧州委員会, “Plastics own resource” (2024年7月1日アクセス)
- 11.スペイン国税庁, “Excise tax on non-reusable plastic packaging” (2024年7月1日アクセス)
- 12 Gov.UK, “Plastic Packaging Tax: steps to take” (2024年7月1日アクセス)
- 13 欧州議会, “New EU rules to reduce, reuse and recycle packaging” (2024年7月1日アクセス)
- 14 California Legislative Information, “Plastic Pollution Prevention and Packaging Producer Responsibility Act” (2024年7月1日アクセス)
- 15 環境省「『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律』の普及啓発ページ」(2024年7月1日アクセス)
- 16 環境省「『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律』の普及啓発ページ」(2024年7月1日アクセス)
- 17 経済産業省 産業構造審議会 産業技術環境分科会 資源循環経済小委員会「成長志向型の資源自律経済戦略の実現に向けた制度見直しに関する中間とりまとめ(案)」(2024年6月27日)
- 18 G20大阪首脳宣言 (仮訳), (2024年7月1日アクセス),
- 19 UNEA Resolution 5/14 entitled “End plastic pollution: Towards an international legally binding instrument” (2022年5月10日)
- 20 UNEP, “Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution” (2024年7月1日アクセス)
- 21 ”Compilation of draft text of the international legally binding instrument on plastic pollution, including in the marine environment” (2024年7月1日)
- 22 UNEA Resolution 5/14.
- 23 プラスチック製品の製造のために初めて使用されるプラスチックポリマー
- 24 ”Compilation of draft text.”
- 25 経済産業省「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第4回政府間交渉委員会の結果概要」(2024年7月1日アクセス)
- 26 2024年からはCDPの質問書の統合にともない、すべての企業が回答する質問書にプラスチック関連の設問が含まれるようになった。
- 27 Ellen MacArthur Foundation, “Perspective on ‘Breaking the Plastic Wave’ study: The circular economy solution to plastic pollution”(2024年7月1日アクセス)
- 28 Ellen MacArthur Foundation, “Our vision for a circular economy for plastics” (2024年7月1日アクセス)
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
アナリスト
前田 祐梨子 Yuriko Maeda