HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」に関する最新動向

金融庁のフォローアップ会議から見えてきた課題及び今後の方向性

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

朝田 悠人

■ サマリー

2024年4月18日に金融庁で行われた「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第29回)では、昨年公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」に関して、そのフォローアップおよび今後の方向性が議論されている。今回の総論として、企業側ではコーポレートガバナンス・コード、投資家側ではスチュワードシップ・コードへの対応が形式的なコンプライにとどまっているとの指摘が寄せられており、その具体的な要因として、企業の規模等に応じたエンゲージメントの担い手不足について言及されている

企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題の現況および今後の方向性については、①収益性と成長性を意識した経営、②サステナビリティを意識した経営、③取締役会等の実効性向上の3点が言及されている

企業と投資家との対話に係る課題および今後の方向性(案)については、①スチュワードシップ活動の実質化、②情報開示の充実及びグローバル投資家との対話促進、③市場環境上の課題の解決について言及されている

今後企業においては、情報開示にとどまらない資本コスト経営、サステナビリティ経営に向けた取組みの推進やそれらをモニタリングするコーポレートガバナンス体制の構築、今後進むであろうスチュワードシップ・コードの改訂を見据えた、株主・投資家との建設的な対話を進める体制の強化が求められるだろう

目次

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1. はじめに

「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」の取組み状況および今後の方向性が議論されている

 2024年4月18日に金融庁で行われた「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第29回)では、昨年公表された「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」に関して、そのフォローアップおよび今後の方向性が議論されました。
 当該プログラムでは、コーポレートガバナンス改革の実質化の観点から、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題、企業と投資家との対話に係る課題があげられていました。具体的に前者としては、①収益性と成長性を意識した経営、②サステナビリティを意識した経営、③独立社外取締役の機能発揮(取締役会、指名委員会・報酬委員会の実効性向上)といった、資本コストの的確な把握やそれを踏まえた収益性・成長性を意識した経営やサステナビリティに関する取組みの促進、コーポレートガバナンスの強化が期待されています。後者は、①スチュワードシップ活動の実質化、②対話の基礎となる情報開示の充実、③グローバル投資家との対話促進、④法制度上の課題の解決、⑤市場環境上の課題の解決が言及されており、株主との対話の実施状況や英文での開示の充実について言及されています。
 今回のフォローアップ会議では、現在の取組みの現在地を探るとともに、今後採りうる方向性について示されています。なお今回の総論として、企業側ではコーポレートガバナンス・コード、投資家側ではスチュワードシップ・コードへの対応が形式的なコンプライにとどまっており、取組みの質に大きな差があるとの指摘が寄せられています。また、その具体的な要因として、企業の規模等に応じたエンゲージメントの担い手不足について言及されています。

図表1

金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」で示された課題
出典: 金融庁「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」よりHRGL作成

2.フォローアップ会議で示された課題と方向性(案)

2-1 企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題と方向性(案)

 本稿では、当初アクション・プログラムで示された分類である「企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題」「企業と投資家との対話に係る課題」の2軸の観点でお示しします。前者の企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題の現況および今後の方向性については、①収益性と成長性を意識した経営、②サステナビリティを意識した経営、③取締役会等の実効性向上の3点が言及されています。
 ①においては、東証の要請する「資本コストや株価を意識した経営」に関して、情報開示だけでなく、実質的な取組みのさらなる推進が期待されています。東証は2024年2月に、「投資者の視点を踏まえた『資本コストや株価を意識した経営』のポイントと事例」を公表しており、資本市場が期待する取組みの要諦を示すことで、その深化を後押ししています。
 ②では、財務情報と非財務情報とのつながりを意識すること、取締役会による監督の役割、コーポレート・カルチャーを意識した経営の重要性について言及されています。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)における日本版IFRS S1号およびS2号の公開草案の公表、金融庁の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」でのサステナビリティの開示と保証のあり方に関する検討など、サステナビリティに関する情報開示に昨今注目が集まる中、その実質的な取組みの方向性について触れられています。またダイバーシティの確保に向けては、企業の特性や成長段階に応じた多様性の確保や人材育成方針の策定、人的資本への投資等に配意することが示されています。
 ③では、社外取締役、取締役会の議長、指名委員会・報酬委員会の委員長や取締役会事務局といった関係者の役割や、取締役会において建設的な議論が行われているかについて確認することが重要であると示されています。また、社外取締役の質の評価が実質的に実施されていないという点も課題としてあげられています。その質の担保・向上に向けた取組みの一環として2024年1月、経済産業省、金融庁、東証は共同で「社外取締役のことはじめ」を作成しており、その期待される役割が改めて示されています。

図表2

企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題のフォローアップ・方向性(案)
出典: 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第29回)資料よりHRGL作成

2-2 企業と投資家との対話に係る課題と方向性(案)

企業と投資家との対話に係る課題および今後の方向性(案)については、①スチュワードシップ活動の実質化、②情報開示の充実及びグローバル投資家との対話促進、③市場環境上の課題の解決に関して言及されています。
 ①については、従前のアクション・プログラムにおいても言及されている、協働エンゲージメントの促進が方向性として示されています。加えて、その促進や実質株主の透明性確保に向けて、スチュワードシップ・コードの見直しを行うことについても示唆されていることが、今回特筆すべき事項であると考えます。運用会社における対話の担当部門、議決権行使の担当部門、運用部門等が分離しており十分な連携が図られていないなど、対話と議決権行使を一体とした実効的なエンゲージメントが行われていないことも、見直しの背景として付言されています。
 ②については、2025年4月からプライム市場上場企業を対象として、決算情報や適時開示情報の英文開示が義務化されており、グローバルな投資家との建設的な対話の実施が期待されています。また資本収益性と市場評価の2つの観点から「価値創造が推定される我が国を代表する企業」として選定されているJPXプライム150指数の構成銘柄について各種指標の値を開示したリストを公表することを、今後の方向性として示しています。その中では、資本収益性・市場評価・成長性などの各種指標に加えて、グローバル投資家が着目する「取締役会における独立社外取締役の割合」「取締役会議長の属性」「女性役員比率」といったコーポレートガバナンスに関する項目を開示することを例示しています。
 ③について、各社の政策保有株式の縮減に向けた取組みが進められているものの、議決権行使を含む実態を踏まえた開示への対応については課題として認識されています。特に、政策保有株式の純投資目的への変更の実態が不透明であることが課題としてあげられていることから、コーポレートガバナンス・コードに照らした保有目的の検証、開示が今後より一層求められることが考えられます。

図表3

企業と投資家との対話に係る課題のフォローアップ・方向性(案)
出典: 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第29回)資料よりHRGL作成

3.おわりに

 今回のフォローアップ会議の議論では、企業・投資家の形式的な取組みにとどまらない、企業価値向上に向けたより本質的な取組みの深化が期待されています。今後、企業に求められるアクションとはいかなるものでしょうか。
 1つは、情報開示にとどまらない資本コスト経営、サステナビリティ経営に向けた取組みの推進、それらをモニタリングするコーポレートガバナンス体制の構築であると考えます。国内では東証の「資本コストや株価を意識した経営」の開示企業一覧表の公表、SSBJ基準の公開草案が公表といった、情報開示に向けた対応に近年注目が集まっています。一方で、本来望ましいのは、各種要請への形式な対応にとどまらない、企業価値創造に資する取組みのさらなる推進であると考えます。そのためには、取締役会でサステナビリティ、資本コストや株価について議論を行い、経営の基本方針を策定することが出発点となると考えます。そして、目指すべき取締役会のあり方や、社外取締役をはじめとした担い手の役割を明確にし、基本方針に沿った経営が行われているかを適切にモニタリングする、強靭なコーポレートガバナンス体制を構築することが期待されます。また、各種取組みの監督にあたり、サステナビリティ、事業ポートフォリオマネジメントといった重要な事項について集中的に議論する委員会を取締役会傘下に設置することも有効な選択肢となるでしょう。
 もう1つは、今後進むであろうスチュワードシップ・コードの改訂を見据えた、株主・投資家との建設的な対話を進める体制の強化であると考えます。東証が要請している「株主との対話の推進と開示」においても、経営陣・取締役会の主体的な関与や、株主・投資家の考える重要度に応じた効果的なアプローチの重要性について言及されています。情報開示・エンゲージメントを通じて資本市場に向けて効果的な情報発信を行い、投資家との対話の内容を必要に応じて経営の意思決定にフィードバックし、その内容を投資家に示すという好循環を生み出すことで、企業価値の創造につながるものと考えます。また必要に応じて、経営を監督する立場である社外取締役がエンゲージメントの場に出て対話を行うことは、取締役会として決定した方針の合理性や妥当性についての投資家の理解や納得に繋がるとも考えられます。株主・投資家のフィードバックを取締役会の議論に組み入れる一連の仕組みづくりについて、今後さらなる取組みの進展を期待します。
 これらの一連の取組みの推進は、コーポレートガバナンス改革の実質化にも寄与すると考えられることから、さらなる深化に期待します。

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

Yuto Asada

神戸大学経済学部卒。三菱UFJ信託銀行にて個人富裕層向け資産運用コンサルティング業務に従事した後、出向し現在に至る。日本証券アナリスト協会検定会員。