HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

ESG コミュニケーションとショートターミズム再考③

持続的成長へ向けた日本におけるサステナビリティガバナンスの在り方

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
フェロー

後藤 英樹

■ サマリー

2014 年の改訂日本再興戦略以来の課題としてのショートターミズムへの批判は、当初、主に機関投資家に向けられたものでもあったが、ESG 投資が奔流となった現在は、むしろ、脱炭素やSDGs 貢献へ向けた高いポテンシャルを有しながらも、明確な成長軌道を示し、持続的な企業価値拡大を実現できずにいる企業経営サイドの課題となっている。

近年、非財務情報開示、規制環境のトレンドも、TCFD から ISSB(国際サステナビリティ基準委員会)へと、シングルマテリアリティによる財務インパクト開示へと、いわば会計情報化ともいえる傾向が進んでいるともいえる。TCFD のガイダンスは、取締役会または委員会が、戦略、リスクマネジメント、年度予算や事業計画、パフォーマンス目標設定、モニタリング、資本的支出や買収、資産売却などで、気候変動に関する考慮をすべきであるとしている。

GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の統計によると、世界のサステナブル(ESG)投資は、長期リターン獲得を目的に、従来の分析手法に ESG 要素を加味する ESG インテグレーションなどの手法が圧倒的比重を占めている。ESG 投資のメインストリーム層へのアピールには、環境・社会の変化を踏まえた明確な長期の事業・経営戦略をベースとする持続的な企業価値拡大へ向けた蓋然性の高い価値創造ストーリーの展開が重要となろう。

環境・社会の長期的変化を見越した経営戦略の策定が、重要性を増す中、ISSB も、全般的な要求事項として、監督側のサステナビリティ委員会、サステナビリティ・スキルマトリクス、 ESG 連動報酬、マテリアリティ KPI などの重要性に言及し、サステナビリティガバナンスの強化を求めている。長期戦略の策定機能を高める社内変革と、サステナビリティガバナンスの構築を組み合わせて実行していくことが求められよう。

ショートターミズムを抑制し、長期的な戦略を推進していくことは、環境・社会変化に対応した事業ポートフォリオ転換に向けた“迅速・果断な意思決定”を可能とするとみられる。依然、日本企業の取締役会は、国際的には独立性が低く、執行の事情優先の経営が、バリュエーションを抑制している可能性もある。ボードの独立性、専門性活用と CEO のリーダーシップが持続的成長をもたらすという思考に基づき、制度充実に加え、ボード 3.0 の発想や専門委員会の活用も含めたサステナビリティガバナンス構築を進めていくべきであると考えられる。

1.2014 年以来の経営課題であるショートターミズムの現在地

 「ESG コミュニケーションとショートターミズム再考」では、シリーズとして、①では、 ESG コミュニケーションの起点としての IR の課題など、②では、中期経営計画中心のマネジメントから、マテリアリティを中核とした長期視点のサステナビリティガバナンスの構築などについて述べてきた。今回の③では、原点に戻り、改訂日本再興戦略(2014 年)以来のショートターミズムを巡る環境変化などへの評価を再考しながら、日本におけるサステナビリティガバナンスの在り方について議論をしていきたい。

図表1

改訂日本再興戦略(2014 年)以来のショートターミズムを巡る環境の変化 出典:経済産業省:伊藤レポート 3.0 ・価値協創ガイダンス 2.0 の概要( 2022 年 8 月)、 脱炭素・SDGs特許をAIで判定、浮かび上がる日本の技術ポテンシャル(独立行政法人 経済産業研究所 ‐ RIETI、2021年12月)、PCT国際出願は、特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際特許出願。表中のSDGs目標7はクリーンエネルギー、目標13は気候変動。

 遡って、改訂日本再興戦略(2014年)及び同年の伊藤レポートでは、主に、投資家サイドのショートターミズムが指摘されていたが、SDGsの開始年である2015年、運用業界に多額の委託を行なっているGPIF(年金積立金管理運">

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Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
フェロー

Hideki Goto

日本IBM等で企業財務を経験後、S&Pを経て、メリルリンチ、ドイツ証券にて、クレジットアナリストとして、日経ランキングに掲載。ゴールドマンサックス証券にて金融戦略部長(FICCリサーチヘッド)。再びドイツ証券でのCFOアドバイザリー業務を経て、金融危機後、クレアンにて、ESGアドバイザリーを立上げ、本邦初のアナリスト向けESG説明会等各種プロジェクトを手掛ける。オリックスのシニアアドバイザー、トーマツのマネージングディレクター(気候変動/ESGアシュアランス)等を経て、現職。環境省「グリーン投資促進のための市場創出・活性化検討会」等委員を歴任。環境金融研究機構(RIEF)顧問。コーネル大学MBA。各種委員会、ブルームバーグ出版「信用リスク」シリーズ等寄稿・講演多数。

CORPORATE
STATEMENT

新しい未来へのストーリーを。

ひとりを輝かせることが、
企業を、社会を、そして世界を
輝かせることにつながる。
そう信じている、だから。
志ある企業が、未来にわたって輝き続けるための
持続可能な企業経営の、力となること。
それが、私たち HRガバナンス・リーダーズの
使命です。
ひとりひとりを、それぞれの組織を、強くし、
有機的につなぐ、
サステナビリティガバナンスで。
企業の新しい未来への、ストーリーを創る。
ビジョンを強く実行し続ける在りかたへと、
変えていく。
日本を動かし、世界を変えていく人たちの、力へ。
未来を生み出す力の、力へ。
アイデアと、経験と、知識と、情熱を、
その想いへと、全力で注ぎ込みながら。
ずっとずっと続く道をともに創り、歩み続けます。
一緒に地球を輝かせていく、
そう、仲間となって。