HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

変わりゆく中期経営計画(2025年版)

JPX日経400採用企業の中期経営計画が発するメッセージ

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー

柏岡 隆夫

■ サマリー

企業価値向上のための戦略を示す中期経営計画(以下「中計」)における設定目標の傾向を把握するために、JPX日経400採用企業を対象に公表資料を基にした独自調査を今年も実施。

調査項目は、ROEやROICなどの財務的価値に関連する目標に加え、資本コストや政策保有株式削減方針などのほか、人的資本投資、GHG削減、従業員エンゲージメント、女性活躍推進などの将来財務的価値に関連する項目についても調査。

JPX日経400採用企業における2025年に公表された中計では、ROEおよびROIC目標を開示する企業の割合(以下「開示割合」)とともに資本コストや政策保有株式削減方針、GHG削減目標、従業員エンゲージメント関連目標、経営者報酬改定方針などのほぼ全ての項目において開示割合が前年公表中計比で減少。なお、ROEやROICの目標値と株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)の差分は前年と同様で3~4%台であった。

財務的価値関連の目標の開示割合は、ROEは78%、ROICは25%。将来財務的価値関連の目標の開示割合は、GHG削減は52%、従業員エンゲージメントは24%、女性活躍推進は34%であった。

今回の調査結果は、各項目の開示割合が年々上昇してきた従前とは異なるトレンドを示しており、中計における具体的な数値目標開示に対する企業のスタンスの変化が感じられるが、こうした傾向が次年度以降も継続するかどうかに注目したい。

目次

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1.調査について

調査対象と調査方法
 JPX日経400採用企業を対象とし、会社HPや適時開示を基にして中計の有無を調査。中計公表企業については以下に掲げる項目の調査を実施。なお、あくまで参考となるが、JPX日経400採用企業およびHRGLクライアント企業を含む約1000社の分析も実施。

調査時点
■2025年6月30日時点公表中計まで反映
調査項目
■中計の開始年度と終了年度(年度は当該年度開始時点の西暦を記載)
■中計期間にかかわる目標など
・ROE目標を開示する企業数と目標値
・ROIC目標を開示する企業数と目標値
・資本コストを開示する企業数と資本コスト水準
・政策保有株式の売却方針に言及する企業数
・人的資本投資額を掲げる企業数
・経営者報酬改定に言及する企業数
■中計期間にかかわらない目標など
・GHG(温室効果ガス)削減目標値を掲げる企業数
・従業員エンゲージメント指数の改善を掲げる企業数
・女性活躍推進にかかる目標値を掲げる企業数と管理職に占める女性目標値

 ROEやROICなど財務的価値に関連する目標に加え、資本コストや政策保有株式売却方針などのコーポレート・ガバナンスの観点から注目されている内容や、GHG削減、従業員エンゲージメント、女性活躍推進などの将来財務的価値に関連する目標、更には人的資本投資額や経営者報酬改定についても時系列調査することで、経営戦略における優先度が高まっている項目を把握することを企図した。

2.調査結果(対象:JPX日経400)

 調査対象における中計公表企業は335社。2024年と2025年に中計を公表した企業はそれぞれ83社、88社。
 2025年公表中計と2024年公表中計との比較においては、ROEおよびROIC目標の開示割合とともに資本コストや政策保有株式削減方針、GHG削減目標、従業員エンゲージメント関連目標、経営者報酬改定方針などのほぼ全ての項目において開示割合が減少している。
 なお、ROEとROICの目標の平均値はそれぞれ12.0%、9.5%。ちなみに、それぞれに対応する資本コストである株主資本コストとWACCの平均値は7.3%と5.7%であり、それぞれの差分は4.7%と3.8%であった(ROEとROICの目標値は対応する株主資本コスト、WACCに3~4%台のマージンを上乗せした水準にて設定していると考えられる)。

図表1

JPX日経400採用企業調査
出典:公表資料を基にHRガバナンス・リーダーズにて作成 

3.【ご参考】調査結果(対象:約1000社)

 調査対象における中計公表企業は757社。2024年と2025年に中計を公表した企業はそれぞれ214社、182社。
 2025年公表中計と2024年公表中計との比較において、JPX日経400との差分は、ROE目標の開示割合が微増したほか、政策保有株式削減方針、GHG削減目標、従業員エンゲージメント関連目標、経営者報酬改定方針などのほぼ全ての項目において減少幅が比較的軽微にとどまった点である。
 なお、ROEとROICの目標の平均値はそれぞれ10.7%、8.9%。ちなみに、それぞれに対応する資本コストである株主資本コストとWACCの平均値は6.7%と5.4%であり、それぞれの差分は4.0%と3.5%であった(ROEやROICの目標値は対応する資本コストに3~4%程度のマージンを上乗せした水準にて設定していると考えられる)。

図表2

全体調査 (JPX日経400採用企業を含む約940社) 
出典:公表資料を基にHRガバナンス・リーダーズにて作成

4.おわりに

 コーポレートガバナンス・コードの制定以降、企業価値向上への意識が年々高まっている中、企業価値向上にかかる戦略を開示する媒体は複数あるが、本調査はその中でもオーソドックスな媒体である中計をターゲットとした調査である。
 今回の調査結果は、各項目の開示割合が年々上昇してきた従前とは異なるトレンドを示しものとなった。今回の結果だけをみると中計における具体的な数値目標開示に対する企業のスタンスの変化が感じられるが、中計そのものを取りやめる企業が増えていることが影響している可能性も十分考えられる(2025年2月27日付 HRGL Sustainability Opinion 「中期経営計画からの脱却と新しい開示の形」をご参照)。なお、中計自体が長期経営戦略とうまく関連付けられずに慣習的に策定されている場合には、中計を策定する意義も含めて中計の在り方について再検討をする必要があると考える。
 こうした視点も踏まえながら、本年度調査で見られた傾向が次年度以降も継続するかどうかについては引き続き注目していきたい。

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー

Takao Kashioka

三菱UFJ信託銀行に入社後、各種法人ビジネスを経験したのちに2015年より現業に従事。2015年以降に手掛けた累計PJ数は、200社以上。