変わりゆく中期経営計画(2024年版)
JPX日経400採用企業の中期経営計画が発するメッセージ
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コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー
柏岡 隆夫
■ サマリー
企業価値向上のための戦略を示す中期経営計画(以下「中計」)における設定目標の傾向を把握するために、HRGLでは東証プライム市場上場企業を中心とした約940社(JPX日経400採用企業を含む)を対象に公表資料を基にした独自調査を昨年に引き続き実施。
調査項目は、ROEやROICなどの財務的価値に関連する目標に加え、資本コストや政策保有株式削減方針などのほか、人的資本投資、GHG削減、従業員エンゲージメント、女性活躍推進などの将来財務的価値に関連する項目についても調査。
JPX日経400採用企業における2024年に公表された中計では、ROE目標を開示する企業の割合(以下「開示割合」)とともに資本コストや政策保有株式削減方針、経営者報酬改定方針などの開示割合が前年公表中計比で明らかに増加。なお、ROEやROICの目標値と株主資本コストやWACCの差分は3~4%台であった。
財務的価値関連ではROEとROICの目標の開示割合がそれぞれ89%、38%。将来財務的価値関連の目標の開示割合は、GHG削減は59%、従業員エンゲージメントは30%、女性活躍推進は35%であった。
今回の調査結果である、ROE目標や資本コスト、政策保有株式削減方針などの開示割合の明らかな増加からは資本コスト向上への意識の高まりが感じられる。なお、調査項目以外にもPBR目標値などの企業価値関連項目や人的資本関連項目、コーポレート・ガバナンス関連項目の記載も多くみられ、こうした内容からも経営戦略として優先度が高まっている項目を感じとることができる。
目次
1.調査について
1-1 調査対象と調査方法
調査対象と調査方法
HRGLのクライアント企業様をはじめとする約940社(JPX日経400採用企業などの東証上場企業約900社を含む)を対象とし、会社HPや適時開示を基にして中計の有無を調査。中計公表企業については以下に掲げる項目の調査を実施。
調査時点
■2024年6月30日時点公表中計まで反映
調査項目
■中計の開始年度と終了年度(年度は当該年度開始時点の西暦を記載)
■中計期間にかかわる目標など
・ROE目標を開示する企業数と目標値
・ROIC目標を開示する企業数と目標値
・資本コストを開示する企業数と資本コスト水準
・政策保有株式の売却方針に言及する企業数
・人的資本投資額を掲げる企業数
・経営者報酬改定に言及する企業数
■中計期間にかかわらない目標など
・GHG(温室効果ガス)削減目標値を掲げる企業数
・従業員エンゲージメント指数の改善を掲げる企業数
・女性活躍推進にかかる目標値を掲げる企業数と管理職に占める女性目標値
ROEやROICなど財務的価値に関連する目標に加え、資本コストや政策保有株式売却方針などのコーポレート・ガバナンスの観点から注目されている内容や、GHG削減、従業員エンゲージメント、女性活躍推進などの将来財務的価値に関連する目標、更には人的資本投資額や経営者報酬改定についても時系列調査することで、経営戦略における優先度が高まっている項目を把握することを企図した。
2.調査結果(対象:JPX日経400)
2-1 全体の傾向
JPX日経400採用企業を対象とした場合、中計公表企業は338社。2023年と2024年に中計を公表した企業はそれぞれ85社、71社。
2024年公表中計と2023年公表中計との比較においては、ROE目標の開示割合が明らかに増加。また、資本コストや政策保有株式売却方針、経営者報酬改定方針の開示割合もそれぞれ明らかに増加している。
なお、ROEとROICの目標の平均値はそれぞれ11.9%、9.7%。ちなみに、それぞれに対応する資本コストである株主資本コストとWACCの平均値は7.3%と6.1%であり、それぞれの差分は4.6%と3.6%であった(ROEやROICの目標値は対応する資本コストに3~4%台のマージンを上乗せした水準にて設定していると考えられる)。
図表1
JPX日経400採用企業調査

3.【ご参考】調査結果(対象:約940社)
3-1 全体の傾向
全体調査(約940社を対象)における中計公表企業は729社。2023年と2024年に中計を公表した企業はそれぞれ185社、183社。
2024年公表中計と2023年公表中計との比較において、JPX日経400との差分は、ROE目標の開示割合が微増にとどまり人的資本投資額の開示割合が明らかに減少した点である。
なお、ROEとROICの目標の平均値はそれぞれ10.4%、8.9%。ちなみに、それぞれに対応する資本コストである株主資本コストとWACCの平均値は6.9%と5.4%であり、それぞれの差分はいずれも3.5%であった(ROEやROICの目標値は対応する資本コストに3.5のマージンを上乗せした水準にて設定していると考えられる)。
図表2
全体調査 (JPX日経400採用企業を含む約940社)

4.おわりに
4-1 中計から感じとれるもの
コーポレートガバナンス・コードの制定以降、企業価値向上への意識が年々高まっている中、企業価値向上にかかる戦略を開示する媒体は複数あるが、本調査はその中でもオーソドックスな媒体である中計をターゲットとした調査である。中計には有価証券報告書や統合報告書などの媒体にないタイムリー性がある。
また、中計という媒体には、特段の記載ルールやフレームワークのようなものが存在しないので、各企業の独自性や想いが如実に表れやすい。今回940社を調査して見えてきたのは、ROE目標や資本コスト、政策保有株式政策削減にかかる開示割合が明らかに増加した点であり、ここからは資本効率性への意識の高まりが感じられる。なお、本文で掲載した開示項目以外にも、PBR目標や時価総額などの企業価値関連項目示や人的資本独自KPIなどの人的資本関連項目、機関設計変更などのガバナンス関連項目の記載も多くみられ、こうした内容からも経営戦略における優先度が高まっている項目を感じとることができる。
今後も本調査のアップデートを通じ、中計から滲み出る温度(メッセージ)を感じとっていきたい。
図表3
その他の開示項目

Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
パートナー
柏岡 隆夫 Takao Kashioka
