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「稼ぐ力」の強化に向けたCGガイダンス/「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則の解説

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経済産業省 経済産業政策局
産業組織課長

中西 友昭

元 経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

善本 聡

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

寺井 大貴

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

川﨑 靖之

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 係長

須田 康裕

■ サマリー

経済産業省は2025年4月30日に「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」を策定し、公表した。

同ガイダンスは、企業が、コーポレートガバナンス・コードにおける原則を形式的にコンプライするのではなく、「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス(CG)の取組を行うことを支援することを目的とする。

その際には、中長期目線での成長戦略の構築と実行に向けた営みを持続的かつ実効的に行う観点から、自社におけるCGの在り方について十分議論し、一貫した考え方の下で、体制・仕組みを検討することが重要となる。

同ガイダンスは、「答え」を示すのではなく、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の前提となる考え方、取組の進め方、検討ポイント・取組例及び企業事例を整理することで、各企業が自律的な取組を行う際の参考として活用されることを想定している。

「「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則」は、同ガイダンスの主要メッセージとして、企業が「稼ぐ力」の強化に向けて、リスクを取って事業ポートフォリオの組替えや積極的な成長投資を実行する「攻めの経営」に取り組む上で、取締役会が踏まえるべき内容と経営陣がとるべき行動について整理している。

目次

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1.背景

 これまでの長引くデフレによるコストカット型経済から、賃上げと投資が牽引する成長型経済へ移行するにあたって、日本企業が「稼ぐ力」を強化する必要性がますます高まっている。同時に、企業の経営陣が、「稼ぐ力」の強化に向けて、リスクを取って事業ポートフォリオの組替えや積極的な成長投資を実行する「攻めの経営」に取り組むことが一層期待されている。
 コーポレートガバナンス(以下「CG」という。)は、更に複雑化する経営環境下で、企業が「稼ぐ力」の強化に向けて自社の競争優位性を伴った中長期目線での成長戦略を構築・実行し、「攻めの経営」に取り組むための基盤である。
 CGの取組が政府の成長戦略として位置付けられてから10年が経過し、社外取締役数の増加、指名委員会・報酬委員会設置の普及など、企業の取組は着実に進んでいる。
 他方で、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)のコンプライが目的化し、事実上、CGの取組がコンプライアンス業務の一環としてのみ行われる等、形式的な体制の整備にとどまっている企業も多いとの指摘もある中で、企業の課題である「稼ぐ力」の強化に向けて取組の一層の「深化」が求められている。
 そこで、経済産業省では、昨年9月に「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」(座長:神田秀樹 東京大学名誉教授)(以下「CG研究会」という。)を立ち上げ、CGの取組の進め方について検討を行ってきた。
 検討の中では、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの捉え方が改めて提示され、中長期目線での成長戦略の構築と実行に向けた営みを持続的かつ実効的に行う観点から、各社が自社におけるCGの在り方について十分議論し、一貫した考え方の下で、体制・仕組みを検討することが重要であるとされた。
 このような議論を踏まえ、「稼ぐ力」の強化に向けた日本の上場企業のCGの取組を支援するため、今般、経済産業省は、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営を行う上で、取締役会が踏まえるべき内容を、経営陣がとるべき行動と対比する形で、「「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則」(以下「取締役会5原則」という。)として整理した。
 また、各社それぞれにおける検討や取組を支援するため、取締役会5原則を含めて、取組の前提となる考え方、取組の進め方、検討ポイント・取組例及び企業事例を「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(以下「CGガイダンス」という。)として整理した。
 なお、今般、これらの他、CG研究会の議論の全体像の整理や会社法改正の方向の整理、問題提起があった事項についても、公表している(図表1)。

図表1

各公表物の概要
出典:経済産業省 ニュースリリース「「「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則」、「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」を策定しました」(2025年4月30日)

2.CGガイダンスの全体概要

2-1 目的・活用方法

 CGガイダンスは、企業が、CGコードにおける原則を形式的にコンプライするのではなく、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組を行うことを支援することを目的としている。
 日本におけるCGは、単なるリスクの回避・抑制や不祥事の防止だけでなく、企業の「稼ぐ力」を強化し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼が置かれている。
 もっとも、適切なCGの在り方は経営環境や企業文化等によって異なり、また、その実現に至る過程も企業により様々であると考えられるため、CGの取組を通じて、「稼ぐ力」を強化し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現するためには、各社における自律的な取組が不可欠である。
 こうした考え方の下、CGガイダンスは、「答え」を示すのではなく、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の前提となる考え方、取組の進め方、検討ポイント・取組例及び企業事例を整理することで、各社が自律的な取組を行う際の参考として活用されることを想定している(図表2)。具体的には、以下のとおり活用されることを念頭に置いている。
① CEO及び社外取締役が、自社におけるCGの在り方について、改めて考えるきっかけとすること
② CGの取組において中心的な役割を担う取締役会、CEOら経営陣、取締役会事務局等が、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組を行う際の参考とすること
 また、今回新たに策定した取締役会5原則は、取締役会とCEOら経営陣の双方が意識し、常日頃から踏まえて行動することが望まれるものであると同時に、各社がCGの取組を検討する際の土台としても機能するものである。

図表2

CGガイダンスの活用例
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

2-2 全体構成

 CGガイダンスでは、「「稼ぐ力」の強化」の定義を「単なる現時点の収益性・資本効率の向上ではなく、中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上」としている。一時的に資本効率を向上させるだけであれば、自己株式の取得やコストカット等の方法により、実現することも可能かもしれないが、「中長期的かつ持続的」に収益性・資本効率を向上させるためには、同時に成長も実現していくことが必要となる。
 こうしたことも踏まえ、CGガイダンスでは、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて「稼ぐ力」を強化するための企業経営として、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリー1(中長期目線での成長戦略等)を構築し、実行することが重要と整理した。
 その上で、「稼ぐ力」の強化の観点からCGの考え方を改めて整理し、加えて、各社が自社におけるCGの在り方を議論し、一貫した考え方の下で具体的な体制や仕組みに落とし込んでいくことができるように検討ポイントや取組例を示している(図表3)。

図表3

「稼ぐ力」のCGガイダンスの概要
出典:経済産業省 ニュースリリース「「「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則」、「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」を策定しました」(2025年4月30日)

3.「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則

3-1 趣旨

 「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営を行う上で、価値創造ストーリーを構築し、それに基づき、事業ポートフォリオの組替えや成長投資(設備投資、研究開発投資、人材投資、知財・無形資産投資等)を実行していくことが不可欠となる。
 こうした企業経営を行う上で、取締役会が踏まえるべき内容について、CGガイダンスの主要メッセージとして、取締役会5原則を策定した(図表4)。
 また、取締役会5原則と対比する形で、「経営陣の取るべき行動」も整理している(図表5)。これは、実際に現場で企業価値向上に向けた業務を行うのは経営陣であることから、取締役会の機能が強化されても、経営陣が強靱でなければ「稼ぐ力」の強化というCGの目的を実現することはできないためである。
 取締役会やCEOら経営陣は、常日頃から各原則・取るべき行動を意識し、踏まえた行動をすることが重要となる。ただし、これらはあくまでエッセンスを示したものであるため、取締役会5原則の記載内容を出発点として、各社において議論を重ね、具体的な形に落とし込んでいくことが重要となる。
 なお、取締役会5原則では、「業務執行役員であっても、取締役会においては、取締役として本原則を踏まえて行動することが求められる。」としている。通常、各社とも、取締役会の中には、一定数の業務執行取締役が含まれているが、独立社外取締役であるかや、業務執行・非業務執行であるかにかかわらず、いずれも取締役としての役割・責任を担うのは当然であり、これらの役割は共通に担うものであるということを、改めて記載をしている。

図表4

「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(取締役会が踏まえて行動する原則)
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

図表5

「稼ぐ力」を強化する取締役会5原則(経営陣がとるべき行動)
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

3-2 各項目

 原則1が価値創造ストーリーの構築、原則2と3が、その実現に向けた業務執行に関する内容、原則である。
 原則1では、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築するとしている。一般に、価値創造ストーリーの案は、経営陣が策定することになるが、それを基に取締役会でも議論を重ね、株主・投資家との対話も行いながら磨き上げていくことが必要となる。価値創造ストーリーは一度作って終わりではなく、経営環境の変化に応じて随時アップデートを行っていく必要もある。
 原則2と3では、価値創造ストーリーの実現に向けた業務執行にあたり、特に重要となる視点となる、適切なリスクテイクの後押し、中長期目線での経営の後押しについて記載している。
 原則2で言及している適切なリスクテイクの後押しについては、「適切」であることが重要であり、具体的な行動が十分でない場合は経営陣に行動を促すこと、逆に過度なリスクテイクについては抑止することとしている。
 また、原則3では、取締役会自体が短期志向に陥らないよう留意しつつ、経営陣が、中長期目線で、成長志向の経営を行うよう、後押しするとしている。近年、資本市場からの利益還元の要請も強くなる中、取締役会やCEOら経営陣がややもすれば短期志向に陥りやすい状況が生まれている。必要な株主還元(配当や自己株式の取得)は行う必要があるが、稼いだ利益やキャッシュは、自社の成長のための源泉となることから、中長期的に成長することによる株主利益も踏まえた株主還元を検討していくことが求められる。
 原則1~3を実行していくためには、CEOら経営陣の体制・仕組みがそれを実行できるものであることが前提となる。そのため、原則4では、「経営陣の意思決定過程・体制が、迅速・果断な意思決定に資するものとなるよう促す」としている。他方で、取締役会が経営陣の行動を手取り足取りマネジメントすると、経営陣の創意を阻害し、責任の所在も曖昧になるため、マイクロマネジメントとならないよう留意するとしている。
 原則5では、指名・報酬の実効性について言及しており、CEOの後継者計画や報酬政策について述べている。また、指名に関しては、取締役会はCEOを選んで終わりではなく、選んだ後もCEOの評価を通じて、期待通りのパフォーマンスを発揮しているかを検証し、CEOも評価結果を踏まえて改善を行いながら、価値創造ストーリーの実現に邁進することが重要となる。
 このように、取締役会5原則は極めて基本的な内容であるが、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営を行う上で非常な重要な視点として、常に立ち返るべき内容を示している。これらは言うことは簡単であるが、実行していくことは容易ではなく、自身の言動も省みながら、日々改善に努めていく必要がある。

4. 「稼ぐ力」の強化とコーポレートガバナンス

4-1 趣旨

 CGガイダンスではまず、企業がCGの取組を行うにあたり前提となる考え方について整理をしている。冒頭に記載したとおり、CGの取組が、形式的な体制の整備にとどまっている企業も多いとの指摘が見られる中、改めて「稼ぐ力の強化と企業経営・CGの関係性を把握することを通じ、各社が、何のためにCGに取り組むのか、自社にとってCGとはどのようなものなのかを、特に取締役会やCEOが考えるきっかけとして活用することを期待する。
 具体的には、「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営として何を行う必要があるか(後記4-2参照)、その中でCGをどのように捉えるのが望ましいか(後記4-3参照)、取締役会は何を踏まえて行動し、経営陣はどのような行動を取るべきか(上記3参照)を示している。

4-2 「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営

 持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて「稼ぐ力」を強化する企業経営では、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実行することが重要としている。
 その際には、事業ポートフォリオの組替えや成長投資の実行が不可欠であり、そのためには、取締役会とCEOら経営陣がそれぞれの役割に応じて機能を発揮する実効的なCGを構築し、株主・投資家との対話も行っていくことが重要となる。
 また、企業経営を行う上では、適切な株主還元を行うことが重要である。一時的な資本効率の向上等が目的となると、中長期的かつ持続的な収益性・資本効率の向上を阻害する可能性もあるため、自社の価値創造ストーリーに沿った形で株主還元を行っていくことの重要性についても言及している(図表6)。

図表6

「稼ぐ力」の強化に向けた企業経営
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

4-3 「稼ぐ力」の強化に向けたCGの捉え方

 CGの取組を「稼ぐ力」の強化、ひいては持続的な成長と中長期的な企業価値の向上につなげていくためには、改めて、CGを「透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための基盤」であると再認識し、意思決定過程の合理性・透明性を確保しつつ、経営者に裁量と責任を与えるものであると捉えることが考えられる。
 この項目では、CG全般、監督と執行の関係、監督の意味、CEOの選任に関し、よくあるCGの捉え方(例)と対比し、「稼ぐ力」の強化に向けたCGの捉え方を整理している(図表7)。
こうした考え方を踏まえて、各社が、CGについて改めて考えることを期待する。

図表7

「稼ぐ力」の強化に向けたCGの捉え方
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

5.「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスの取組の進め方

5-1 「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組

 「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組を実効的なものにするためには、CEOが主体的に関与していくことが重要となる。
その際、関係者が連携を取り、「稼ぐ力」を強化するためにはどうすれば良いかを考えながら、①CEOら経営陣による業務執行を様々な側面から支える取締役会の構築、②価値創造ストーリーを立案・実現できる強靭な経営チームの組成、③CGの実効性・持続性を担保する評価・検証の仕組みの構築に取り組んでいくことが重要となる。
 CGガイダンスでは、こうした3つの取組を実現するために、特にどのような事項について検討する必要があるかを提示している(図表8)。これらの事項については、全体が連動して機能する必要があるが、企業によって優先的に取り組むべき課題は異なるものと考えられる。
これらの事項は、後段の検討ポイント/取組例(後記6参照)とも連動しており、自社の状況を踏まえて、何をどのような順番で取り組んでいくのかを検討する際の参考にしていただくことを想定している。

図表8

「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

5-2 価値創造ストーリーとCGの関連性

 「稼ぐ力」の強化に向けては、①価値創造ストーリーの構築、②その実現に向けた業務執行(事業ポートフォリオの組替え、成長投資の実行)、③評価・検証、が実効的に機能するCGを構築することが重要となる。
 また、取締役会5原則の各原則とこれらの関係性についても、併せて示している(図表9)。

図表9

価値創造ストーリーとCG/取締役会5原則の関連性
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

5-3 企業が「稼ぐ」ためのアクション

 企業が「稼ぐ」ためには、資本市場の活用と事業ポートフォリオの組替え・成長投資が必要不可欠となる。
 資本市場の活用としては、株主・投資家と対話を行いつつ、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実行していくことが重要となる。中長期的な事業ポートフォリオの組替えと成長投資は、目に見える成果が出るまでに相応の時間を要するため、実行にあたっては株主・投資家をはじめとするステークホルダーの理解が必要となる。株主・投資家と対話を行い、その声を適切に反映することで、自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーの構築が可能となることに加えて、その実行を可能とする信頼関係の構築や将来期待の醸成にも寄与することとなる。

5-4 「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の進め方

 「稼ぐ力」の強化に向けては、自社におけるCGの共通理解と、全体メカニズムが実効的に機能する体制・仕組みの構築が必要となる。また、そうした実効的なCGは形式的な取組や短期的・一時的な取組により実現できるものではなく、時間軸も意識しながら段階的に取り組んでいく必要がある。
 まずは、取締役会及びCEOら経営陣が、「稼ぐ力」の強化の観点(経営スピードの向上、リスクテイクの促進等)から、足下のCGの状況にとらわれずに、自社におけるCGの在り方(取締役会とCEOら経営陣との役割分担等)について十分議論し、認識を共有することが重要となる。
 その上で、自社におけるCGの在り方を踏まえ、取締役会等とCEOら経営陣が、各々の役割を果たし、バランス良く機能発揮できるよう、一貫した考え方の下で、実効的な体制・仕組みを構築していくことが重要であり、この際には、自社の状況を踏まえて、何をどのような順番で取り組んでいくのかを明確にして、取組を進めていく必要がある(図表10)。

図表10

「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組の進め方
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

6.検討ポイント/取組例

6-1 位置付け

 CGガイダンスでは、各社が「自社におけるCGの在り方」を検討する際に、「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる内容を「主な検討ポイント」として示し、「自社におけるCGの在り方」の一例を「取組例」として示している。
 また、CG体制・仕組みについても、「稼ぐ力」の強化の観点から重要と考えられる内容を「主な検討ポイント」として示し、上記の「自社におけるCGの在り方」の「取組例」を前提とした場合における、各項目の一例を「取組例」として示している。
 これらはあくまで各社が考えるきっかけとして主な内容を提示しているものであり、全ての内容を網羅しているわけではない。これらを基に、自社ではどのように考えるか、実効的なCGを構築するために他に検討すべき内容はないか等について議論や検討を進めることが考えられる。
 特に、これらを単にチェックボックス化するのではなく、自社におけるCGの在り方を明確にし、それを基にしたときに、実効的なCGとはどのようなものなのか、それを実現するために何にどのような順番で取り組んでいくのかを各社が検討し実行することを期待する。

6-2 自社におけるCGの在り方

 「自社におけるCGの在り方」は、各社が、CGの位置付け、取締役会とCEOら経営陣の役割分担、監督の在り方等を議論し、取締役会とCEOら経営陣との間で共通認識をもつことを念頭に置いている。
 取組例として、具体的に内容を示しているが、これはあくまで例であり、各社が取締役会や経営陣の間で議論を重ね、明確化することが望ましい。

6-3 各論

 各論では、取締役会、指名委員会、報酬委員会、CEOら経営陣、事務局に関して、各体制・仕組みに関する主要な検討事項について、「主な検討ポイント」と「取組例」を示している。これらは、「稼ぐ力」の観点から特に重要となるCG体制・仕組みを抽出したものであるため、これら以外についても重要な要素は考えられる。例えば、監査役会/監査等委員会/監査委員会を含むその他機関等についても引き続き重要となる。
 検討ポイントでは、各体制・仕組みに関する主な問題提起を行いつつ、その際の考え方や選択肢について示している(図表11)。
 また、取組例については、検討ポイントを踏まえ、どのように進めていくことが考えられるのかを例示している。具体的には、ありたい形を明確化した場合に、その実現に向けてどのような課題が考えられるか整理を行った上で、考えられる取組を示している。
 例えば、取締役会議長に関して、企業がありたい形として「取締役会議長に独立社外取締役を選任」したいと考えた場合に、すぐに実現することが困難な場合も考えられる。この際には、将来の実現を見据え、当面の対応として、社内の非執行取締役を議長に選任しつつ筆頭独立社外取締役の設置を行い、中長期的な対応として、ボードサクセッションの取組の強化や、事務局機能の強化を行うことで、将来、「取締役会議長に独立社外取締役を選任」するという例を示している(図表12)。

図表11

各CG体制・仕組みの検討ポイントの概要
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

図表12

取組例(取締役会 議長/筆頭社外取締役)
出典:経済産業省「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス(「稼ぐ力」のCGガイダンス)」(2025年4月30日)

7.おわりに

 CGガイダンス及び取締役会5原則が、多くの日本企業が「稼ぐ力」の強化に向けたCGの取組を自律的に行うきっかけとなるとともに、各社のコーポレートガバナンスの取組の深化に活用され、日本企業の「稼ぐ力」を強化し、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するものになることを期待したい。

参考文献

  • 1 長期的に目指す姿の実現に向けて、どのようなビジネスモデルを通じて、どのような社会課題を解決し、どのように長期的な企業価値向上に結びつけていくかについての一連のストーリー。

Opinion Leader

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課長

Tomoaki Nakanishi

2000年通商産業省(現 経済産業省)入省後、大臣官房、経済産業政策局、製造産業局、資源エネルギー庁等のポストを歴任した他、内閣官房に出向して成長戦略の取りまとめを担当。ジェトロ・サンフランシスコ事務所次長を経て、2023年7月に経済産業政策局産業組織課長に就任。

元 経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

Satoshi Yoshimoto

信託銀行、総合系コンサルティング会社を経てHRGLに入社し、報酬コンサルティング業務に従事。2023年4月より経済産業省へ出向し、CG班の班長として、コーポレートガバナンスに係る政策立案を担当。「稼ぐ力」の強化に向けたCG研究会の立案から運営まで携わり、「稼ぐ力」のCGガイダンス等の策定に関与。2025年5月に帰任し、ボードガバナンスを中心とするコンサルティング業務に従事。

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

Hiroki Terai

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 課長補佐

Yasuyuki Kawasaki

経済産業省 経済産業政策局
産業組織課 係長

Yasuhiro Suda