HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

CA100+の「気候ガバナンス」評価の視点と同イニシアチブの“フェーズ2”について

企業が投資家と気候変動に関する対話を進めるためのガバナンス体制とは

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

大杉 陽

■ サマリー

ESG投資を推進する投資家の活動は引き続き活発で昨年10月には東京でPRI(責任投資原則)の年次カンファレンス「PRI in Person 2023」が開催された。投資家とのエンゲージメントに耐えうるガバナンス体制の整備が企業に期待されるなか、PRIほか投資家団体が支援する気候変動イニシアチブ、Climate Action 100+(以下CA100+)の企業の情報開示に対する評価体系(ネットゼロ企業ベンチマークのうち開示情報フレームワーク)が整備の参考となると思料する。本稿ではその1項目の気候ガバナンスに焦点を当てる(本稿発行に際し我が国のCA100+のご担当をされているPRIの野水彩子様よりコメントを頂戴しましたので是非ご一読下さい)

CA100+の開示情報フレームワークは対象企業に11項目の評価を実施。うち8番目が「気候ガバナンス」の評価となっている。気候ガバナンスのサブ指標としては「取締役会は、気候変動について明確な監督を行っている(サブ指標8.1)」、「役員報酬体系に、気候変動対策の成果要素が組み込まれている(サブ指標8.2)」、そして新たな追加指標「取締役会は、気候関連のリスクと機会を評価し管理する十分な能力や技量を有している(サブ指標8.3)」の3点が設定され、これら3つのサブ指標に対して各2つ計6つの具体的な評価基準が設けられている(詳細は本文参照)

気候ガバナンス全体について、欧州企業は50社中3社が全ての要件を満たす「Yes」の評価、47社は部分的に満たす「Partial」との評価。北米企業46社中44社と日本企業10社は「Partial」の評価であった。新サブ指標8.3の適用に伴い、取組みが先行していた欧州企業も追加対応が必要な状況だが、新項目を除く従来の項目だけの評価でも日本企業には対応の遅れが見られ、例えば欧州と日本では報酬関連の評価基準において大きなギャップが確認できた

責任ある投資家と向き合うには(気候変動関連の)目標設定・開示にとどまらず、目標達成に向けた遂行状況について投資家からの信頼を向上させるべく、CEOほか経
営陣の報酬制度と関連要素との紐付けの見直しや経営陣のスキル・マトリックスの点検が必要となってくるであろう

目次

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1.序:PRIなどの投資家団体が参加するCA100+の活動

1-1 責任投資家の発行体への精力的なエンゲージメント活動に耐えうるガバナンス体制をCA100+のベンチマークを参考に考察する

 責任投資原則(PRI)は2023年10月、東京において年次総会であるPRI in Personを開催し国内のみならず海外からも機関投資家ほか多くの関係者が参加されました(参考:弊社メールマガジンNo.106)。基調講演では岸田総理が登壇され、そのなかで運用資産合計90兆円規模の7つの公的年金がPRIに署名準備を進めることを明らかにしました。また、グリーン・トランスフォーメーション(GX)やESG投資を推進する環境整備のための「サステナビリティ投資商品の充実に向けたダイアログ」を金融庁に設置することにも言及がありました。2024年に入って以降これらの動きが進展するにつれ、サステナビリティ商品・サステナビリティ運用に携わる責任ある投資家(ESG投資家)から投資を受ける(受けることを期待する)企業は、自社が環境・社会・ガバナンスのイシューにどの程度真剣に取り組んでいるのかという点について、彼らとの対話の中でより一層確認されていくこととなります。PRI in Personに参加していたある海外機関投資家は、自社の判断基準とそれらを反映した評価ツールを用い、エンゲージメントの内容なども加味した上で最終的にネットゼロに向けた進展が見られない場合にはダイベストメントの判断を行うと紹介していました。
 では、責任投資家とエンゲージメントを実施するうえで、企業サイドにはどのようなガバナンス体制の整備が期待されるでしょうか。本稿では責任ある投資家の団体であるPRIほか投資家団体が支援するイニシアチブであるClimate Action 100+(以下CA100+)による企業の情報開示に対する評価体系(「ネットゼロ企業ベンチマーク 1」のうち「開示情報フレームワーク」)の1項目である「気候ガバナンス」を参考に、投資家とのエンゲージメントに耐えうるガバナンス体制について考えてみたいと思います。また本メールマガジン発行に際し我が国のCA100+の事務局をご担当されておられる野水彩子様よりコメントを頂戴しておりますので是非お読み頂ければと思います。

1-2 気候変動に焦点を当てたCA100+の活動と評価項目における気候ガバナンスについて

 本題に入る前に、ご存知の方も多いとは思いますがCA100+とはどのような取組みなのか改めて確認しておきたいと思います。彼らは世界最大の温室効果ガス排出企業が気候変動に対して必要な行動を取れるようにするための投資家主導のイニシアチブです。2017年にスタートしたCA100+は当初5年間活動する予定でしたが、2023年6月以降を「フェーズ2」として位置づけ活動を継続することとなりました。このフェーズ2の公表に際し、彼らはネットゼロ排出経済への移行において重要な役割を果たす企業群 への取組みについて改めて具体的な3つのゴールを掲げ活動を継続しています(図表1)。
 即ち、彼らは世界の平均気温上昇を産業革命前から2℃未満に抑え1.5℃を目指すというパリ協定の目標のため、企業にTCFDやセクター等の気候変動関連ガイダンスと一致した企業情報開示とそこで開示された目標を達成するための移行計画の実施や、そのためのガバナンス体制などを企業ほかステークホルダーに求めていく活動に取り組んでいます。その一環として、気候変動に対してその果たす役割が重要と考える企業群2について彼らの企業活動の情報開示について評価・公表しています。
 続いては同イニシアチブのネットゼロ企業ベンチマークのうち開示情報フレームワークの全体像を確認したうえで、本日のテーマである気候ガバナンスについて着目し、その評価項目を確認していきたいと思います。

図表1:

Climate Action100+の目指すものとフェーズ2における具体的な活動目的
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出典:Climate Action100+ウェブサイトを参考にHRGL作成

2.CA100+の開示情報に関する評価体系と気候ガバナンスの評価

2-1 CA100+の「開示情報フレームワーク」の全体像と気候ガバナンスの記載内容を確認する

 CA100+のネットゼロ企業ベンチマークの「開示情報フレームワーク」は以下11個の項目(下図図表2左部①ネットゼロの野心的目標~⑪温室効果ガス出削減履歴)について企業を評価しており、そのうち8番目が「気候ガバナンス」の評価となっています。これら11項目に対しては、各項目をより細かく見ていくためのサブ指標が設定されていることに加え、サブ指標の状況を評価するために評価基準が設定されているという3層構造の評価体系となっています。

図表2

CA100+の開示情報フレームワークの評価体系とフレームワーク8:気候ガバナンス
出典:Climate Action100+ウェブサイトおよび原文参考訳を元にHRGL作成

 以降は、本稿のテーマである⑧「気候ガバナンス」についてサブ指標と評価基準について見ていきたいと思います(図表2右部)。気候ガバナンスでは当該項目を評価するためのサブ指標が3つ用意されています。まず「当該企業の取締役会は、気候変動について明確な監督を行っている(サブ指標8.1)」、続いて「当該企業の役員報酬体系に、気候変動対策の成果要素が組み込まれている(サブ指標8.2)」が従来から存在し、23年の公表内容からは先行して一部地域の企業で用いられていた「取締役会は、気候関連のリスクと機会を評価し、管理する十分な能力や技量を有している(サブ指標8.3」」が全企業対象の評価項目として加えられ、3つのサブ指標に基づいて評価されることとなりました。
 さらにこれらサブ指標についてそれぞれ評価基準が2つずつ設定されており、サブ指標8.1であれば「当該企業は、気候変動リスクの管理に対して、取締役会または取締役会委員会が監督を行っている証拠を開示している(評価基準8.1.a)」、「当該企業は、気候変動に対して責任を負う、取締役会レベルの役職を指名している(評価基準8.1.b)」の2点が評価基準となります。そしてサブ指標8.2には「当該企業のCEOまたは他の上級役員1名以上(あるいはその両方)の報酬についての取り決めに、業績連動型報酬を判定するKPIとして、気候変動の成果(「ESG」または「サステナビリティ成果」との言及だけでは不十分)が明確に組み込まれている(評価基準8.2.a)」、「当該企業のCEOまたは他の上級役員1名以上(あるいはその両方)の報酬についての取り決めに、業績連動型報酬を判定するKPIとして、当該企業のGHG削減ターゲット達成に向けた進捗状況が組み込まれている(評価基準8.2.b)」」が、更にサブ指標8.3に対しては「当該企業は、気候関連のリスクと機会の管理に関する取締役会の技量を評価し、評価結果を開示している(評価基準8.3.a)」「当該企業は、気候関連のリスクと機会の管理に関する取締役会の技量を評価する際に用いる基準、および技量を高めるために実施している施策についての詳細を開示している(評価基準8.3.b)」が設定されています。結果的に、気候ガバナンスは計6つの評価基準によって投資家イニチアチブから評価されることとなります(なお、このような「評価項目→サブ指標→評価基準」という評価の仕組みは他の10項目にも共通する構造となっています)。
 筆者なりにこの気候ガバナンスの評価項目の構造を解釈してみれば、ガバナンス体制として温室効果ガス排出関連の削減目標が策定・開示されていることを前提に、目標の実行・達成に関し、役員の評価体系に織り込むことおよび実行に足る資質を備えた取締役(会)であることを開示情報から確認することによって、目標達成を評価面・資質面から担保しようとした構成となっているものと思料します。
 では、これらの評価対象となっている企業群の実際の気候ガバナンス評価結果はどのようなものとなっているでしょうか。以降でその一部を確認していきたいと思います。

3.評価結果の地域間比較などにみる日本企業の課題

3-1 企業の取組みが3地域で最も先行する欧州企業でもサブ指標8.3の適用により追加対応が必要に

 ここからは「気候ガバナンス」について欧州に本社拠点を持つ企業(一部は他の地域にも本社機能を有する)50社、北米(米国、カナダ、メキシコ)46社、日本10社の状況を比較してみようと思います(図表3)。
 気候ガバナンス全体について、欧州の企業は50社中3社がすべての要件を満たす「Yes」の評価を得ており、他の47社は部分的に満たす「Partial」という結果でした。米国企業については46社中1社が「Yes」、評価基準を全く満たしていない「No」が1社、他の44社が「Partial」、日本企業は10社すべてが「Partial」との評価でした。地域横断で多くの企業が  気候ガバナンスに対し部分的に対応しているという結果となっていますが、前述のように直近の公表内容から新たにサブ指標8.3が加わったことから、この項目についてはたとえフェーズ1の時期からリスト入りしている企業であっても未対応の場合があることは想像に難くありません。
 参考までに、従来から存在するサブ指標8.1および8.2の2指標のみで3地域を見てみると、欧州企業はYes:21社、No:0社、Partial:29社、米国はYes:4社、No:0社、Partial:41社、日本はYes:1社、No:0社、Partial:9社という結果となりました。いずれにしても全体的に「Partial」(=部分的対応)に留まる企業が多いことに変わりないものの、評価項目8.3が加わったことで欧州企業の評価の多くが「Yes」から「Partial」となり、従来の要件をすべて満たしてきた欧州企業も今後追加的な対応が迫られると推測されます(図表3赤字部分)。また日本企業は母集団の数に他地域と差があるものの、3つのサブ指標での評価においてYesの企業は0、新項目を除いた従来の2つの視点からの評価でもYesは1社に留まり、部分的に対応できている割合でも欧州とは32ポイント(=90-58)のギャップが確認でき、対応に遅れている状況といえるでしょう。

図表3

評価項目8 気候ガバナンス各地域対応状況(欧州・北米・日本)
出典:Climate Action100+ウェブサイトよりHRGL作成

3-2 新設サブ指標8.3に関わる評価基準への対応は各地域ともこれから。報酬関連の評価基準については取組みが進む欧州と日本との間に大きなギャップが存在

 前述のように指標8の評価は3つのサブ指標と各サブ指標に紐づけられた2つの評価基準に支えられる結果、最終的には6つの評価基準をすべて満たすことで最終的に指標8が「Yes」の評価を受けることになります。次はこの6つの評価基準について3地域ごとに要件を満たさない「No」の割合を中心に確認してみます(下図図表4参照)。
 やはり新たに加わったサブ指標8.3に紐づけられた2つの評価基準、特に8.3b「当該企業は、気候関連のリスクと機会の管理に関する取締役会の技量を評価する際に用いる基準、および技量を高めるために実施している施策についての詳細を開示している」が地域の別を問わず高い割合となり、我が国ではa(気候関連のリスクと機会の管理に関する取締役会の技量評価)およびbとも1社も対応できていない状況となっていました(下図赤部参照)。
 要件を満たしていない企業(「No」)の割合の差が他の地域間で日本が劣後する形で大きい項目としては対欧州で評価基準8.2.a「CEOまたは他の上級役員1名以上(あるいはその両方)の報酬の取り決めに、業績連動型報酬を判定するKPIとして、気候変動の成果が明確に組み込まれている」(欧州18%、日本70%)で、対応割合に52ポイントのギャップがありました。8.2.b「CEOまたは他の上級役員1名以上(あるいはその両方)の報酬についての取り決めへの、業績連動型報酬判定KPIとしてGHG削減ターゲット達成に向けた進捗状況の組込み」も42ポイント(欧州48%、日本90%)と差が大きく、欧州企業と比べると「報酬と気候変動との関連付け」は今後日本企業のガバナンスや報酬を考慮していく上で重要性が高い項目であると捉えることが出来ると考えます(図表黄色部参照)。
 なお対北米でNoについて見てみると、8.3.a「気候関連のリスクと機会の管理に関する取締役会の技量評価・評価結果の開示」(北米74%、日本100%)において日本企業との差が26ポイントと他の評価基準の評価ギャップを上回る結果となっており、取締役会のケイパビリティと気候変動との関連性について海外の対応との差が生じていると言えるでしょう。
 一方、Yesの欄を参照頂くと、3地域共通で最も対応できているのは評価基準8.1.a「気候変動リスクの管理に対して、取締役会または取締役会委員会が監督を行っている証拠を開示している」でした。また、先述のように日本と他の地域で母集団の数に40社ほど差があり単純比較するわけにはいかないかも知れませんが、日本企業は対北米企業と比較するとサブ指標8.1「当該企業の取締役会は気候変動について明確な監督を行っている」の評価基準への対応について8.1.aについては10社中10社、8.1.b「気候変動に対して責任を負う取締役会レベルの役職を指名している」については8社と高い割合で対応できていることで、北米の割合を上回る結果となりました(下図緑部)。

図表4

評価項目8 気候ガバナンスの6つの評価基準に対する対応状況(欧州・北米・日本)
出典:Climate Action100+ウェブサイトよりHRGL作成

4.評価体系を参考にガバナンスの仕組みを整え開示する

4-1 目標設定・目標開示に留まらず、CEOほか経営陣の報酬制度とESG項目の関連付けの見直しや経営陣全体としてのスキル・マトリクスの点検を

 以上、ESG投資を行う主体である責任投資家が企業の気候変動・温室効果ガス対応について確認するためのCA100+の情報開示の評価体系のうち気候ガバナンスにフォーカスを当て欧州、北米、日本の状況について確認してきました。筆者はこの評価体系について、企業がたとえCA100+というイニシアチブのエンゲージメント対象企業でなくとも自社のガバナンス体制について機関投資家とのエンゲージメントに耐えうるものか等を確認する上でヒントとなると思料します。
 そのポイントについて上に述べた気候ガバナンス評価項目の関係性に沿って整理するならば、自社が掲げた目標について、①それと密接な関係にある経営者の報酬という評価制度の設計を行うことと、②能力・経験・スキルといった資質面の制度設計を行うこと、③そしてそれらを対外的に開示することによって、社外にいる重要なステークホルダーたる投資家による企業の目標達成に対する確信度を高めることにあるのではないかと考えます。
 気候変動の課題を解決すべく運用機関がその責任を果たすための方策の一つは、自身のポートフォリオに含まれる投資企業のGHG排出量の削減にあることは言うまでもありません。そのためには(潜在的なものを含む)投資企業が着実にGHGを減らしている・今後も減らしていけると期待できるか否かが今後いっそう重要となってきます。
 そうした確信度の高い企業として責任投資家から認知され・投資されるうえでは、企業によってサステナビリティ目標が掲げられるだけでなく、それが達成されることで関与者・責任者にどれだけリワードがあるのか、そしてその責任者はそもそも目標を達成する上での資質を兼ね備えているかということを対外的に示しているかが求められると考えます。これらに関する開示情報を基に企業と投資家とのエンゲージメントを実施していくことは、サステナビリティ目標実現に向けて資金の出し手と事業者がより一層協調していくことに繋がるものと思料します。
 では、企業のより具体的な体制整備のアクションとして、どのようなことが考えられるでしょうか。(GHG削減目標ほか)サステナビリティ目標が設定されていない企業であればまずはサブ指標8.1に沿うような目標設定すると共に、これをいかにガバナンス体制としてマネージしていくかという点を整備していくことが必要となるでしょう。
 次にこれらが既に存在する企業においては、目標達成に対する投資家からの信頼感を高めるべく報酬面・資質面の整備を推進していくこととなりますが、前者(報酬面)の側面であれば例えば①(サステナビリティの要素を含まない)既存の報酬制度にサステナビリティの要素を盛り込む、②既にサステナビリティ目標を伴う報酬制度を導入していたとしても、対外的によりいっそう理解しやすいクリアなものとする、③サステナビリティ目標と整合的な短期KPI・中長期KPIを設定するなどが想定されます(既存のKPIからより整合的なものへの変更なども含む)。更にこれらを開示することもエンゲージメントの前提・基礎として重要となるでしょう。そして後者(資質面)の側面であれば例えば①(指名委員会を設置していない)取締役(会)における役員指名に関連するアジェンダ見直しや取締役会評価項目の見直しとそれらの内容(改善策などを含む)を公表する有価証券報告書等でのガバナンス開示内容の整理や、②取締役会のスキル・マトリックスの検証、③有能な社内人材の将来の経営陣登用を見据えたサステナビリティ教育や、④人的資本経営などの要素も絡めた人事・教育制度の見直し、⑤社外の人材登用を見据え社外取締役に求める人材要件を再定義する、といったアクションが想定されます(図表5)。
 企業がステークホルダーにアカウンタビリティを果たしつつ、掲げた目標を遂行・達成していくため、そして企業への資金の出し手である責任投資家が受託責任を果たすうえでは、(サステナビリティ)目標の設定・開示にとどまらず、目標遂行を担保するためにCEOほか経営陣の報酬制度と関連項目との紐付けの見直しやスキル・マトリックスの点検を行うことにより、より盤石なサステナビリティ・ガバナンス体制を構築し開示を進展させていくことが重要になると思料します。折しも多くの企業が4月から新事業年度を迎え、6月の株主総会を経て新たな経営体制で経営に取り組まれる時期かと思います。将来にむけたサステナビリティ経営のビジョンを描くうえで目標・報酬・人財のトライアングルを総合的・一体的に考えてみるのには良い時期かもしれません。

図表5

評価項目8:気候ガバナンスへの日本企業の対応状況と期待されうるアクション例
出典:Climate Action100+ウェブサイトを基にHRGL作成

参考文献

  • 1 CA100+では投資家エンゲージメントのツールとしてネットゼロ企業ベンチマークを用意しており、同ベンチマークは企業の開示情報の十分性を評価する開示情報フレームワークと企業のアクションとパリ協定の目標との整合性を評価する整合性評価から成り立っています。本稿では前者を取り扱うこととします
  • 2 企業群の選定にあたっては「ネットゼロ排出経済への移行において重要な役割を果たす企業」に焦点が当てられており当初は二酸化炭素排出量が多い100社がリストに入りましたが、その後投資家アンケートに基づき①投資ポートフォリオにとって重要な企業、②ネットゼロ排出経済への移行に不可欠な企業、または③排出量データでは捉えられない気候関連の財務リスクにさらされる可能性がある企業が「注目企業」としてさらに61社追加されました。そしてフェーズ2の活動開始に際し、企業のM&Aや諸事情を踏まえて入れ替えが行われ現在の企業数は170社となっています

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

Akira Osugi

大学の専攻は国際人的資源管理。卒業後、複数企業の経理・財務を経験。在籍物流企業では拠点移転プロジェクトに係る採用・労務管理等にも従事。以後IR・SRコンサルティング会社等でIR関連リサーチ業務等に従事し、当社入社後も各種リサーチ業務を担当。メールマガジンでは「コーポレート・ガバナンス報告書におけるエクスプレインの状況」(2022)、「国内外のインパクト投資にかかる動向」(2023)などを執筆