経営マターとなる人的資本経営
~目指すべき戦略連動の絵姿とそのための推進体制~
-
コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
橋本 謙太郎
■ サマリー
人的資本経営に関するサービスやツールは数多存在するが、大切なのは、何のために人的資本経営を行うのか、その原点に立ち返り、自社の人的資本経営を妨げる“壁”を大局的視点から冷静に見極め、1枚1枚打ち壊していくこと
その原点とは、企業価値の中長期的な向上を目指し、経営戦略やマテリアリティとの連動で人的資本戦略を策定し、従業員を巻き込んでそれを実行し、その目的地や進捗を開示し、成長期待を感じた投資家から更なる投資を呼び込むこと
人的資本を経営戦略と真に連動させるには、大前提としてCEOやCHROのリーダーシップのもと、人的資本経営が経営マターとして取締役会等で議論される必要があるほか、人事部門、経営企画部門、事業部門、IR部門、サステナビリティ部門が横断的に、一体的に議論することが必要
そうした推進体制がとられているか否かで、人的資本経営とその開示の質に開きが出てきている。推進体制として、人的資本経営委員会の立ち上げ等が有効
人的資本経営が真に経営マターになっていると、人的資本経営は人事領域の中で閉じず、経営計画や役員報酬、そしてマテリアリティや全社リスクなど、各所と結びついていく形が実現される。執行の主役たる従業員の巻き込みにあたっては、従業員に株式インセンティブを保有させることが有効
セミナー参加方法
本セミナーご案内ページにお申込みフォームへのリンクがございますので、そちらからお申込みください。
※アーカイブ配信の案内をご希望される場合も、下記リンクよりお申込みください。後日、アーカイブ視聴登録用のリンクをご案内いたします。
「本セミナーご案内ページ」:https://www.hrgl.jp/info/info-10928/
目次
1.経営マターにしていく人的資本経営
人材版伊藤レポート(経済産業省、2020年9月)の公表以降、「人的資本経営」はバズワードとなり耳目に触れる機会は増えましたが、その捉え方、発信の仕方、理解の仕方は多岐にわたり、4年経った現在まで曖昧な状況が続いています。事業会社の担当者視点に立つと、民間で言えば、コンサルファーム、HRテック企業、シンクタンク、証券会社、研修サービスや人材紹介会社、印刷会社、そしてアカデミア…、様々な立場から情報発信が日々なされており、どのように情報整理し、どこを参考にすべきか、悩ましいのではないかと思います。どのようなサービスやツールを活用するにせよ、大切なのは手段ではなくその達成目的と言えます。自社の人的資本経営の取組みとして、何を大きなゴールとし、どこまでは出来ていてどこで止まり、それは何が原因なのか。企業価値の中長期的な向上を目指し、経営戦略やマテリアリティとの連動で人的資本戦略を策定し、従業員を巻き込んでそれを実行し、その目的地や進捗を開示し、成長期待を感じた投資家から更なる投資を呼び込むということ。その原点に立ち返り、自社の人的資本経営を妨げる“壁”を大局的視点から冷静に見極め、1枚1枚打ち壊していく必要があります。
我々HRガバナンス・リーダーズは、有価証券報告書や統合報告書、人的資本レポートといった媒体の一斉調査から国内大企業中心にその開示動向を把握しているほか、自前のサーベイ調査や約300社もの企業との直接対話を通じその取組み実態の把握・分析を進めています。もはや全ての企業で人的資本経営に手を付けていると言えるでしょう。しかし、その内実では年々差が開いてきていると見ています。図表1は、表裏一体と言える人的資本経営の取組みとその開示について、我々なりに成長フェーズという形で整理したものです。
図表1
人的資本経営の取組みとその開示の成長フェーズ

人材版伊藤レポートや人的資本可視化指針(内閣官房、2022年8月)でも触れられている通り、人的資本を経営戦略と真に連動させるには、大前提としてCEOやCHROのリーダーシップのもと、人的資本経営が経営マターとして取締役会等で議論される必要があるほか、人事部門だけの裁量では難しいため、経営企画や事業部門、IR部門、ESG部門が横断的に、一体的に議論する場が必要とされています。そうでない場合(例えば人事部門による現場レベルでの取組み事項となっている場合)、経営戦略との連動が実現されないことにより、開示においても人事領域内での取組みを整理するだけのものとなってしまいます。企業価値や経営戦略との繋がり(因果関係)が示されて初めて、投資家にとっての投資判断の好材料として見られ得るとされています。また、そこまで到達した企業は、「人的資本レポート」発行や「第三者評価」取得へのチャレンジも視野に入ってくるでしょう。
図表2は、人的資本に関する経営とガバナンスの取組み実態を示しています。人的資本経営を表面的な開示に留めず、実態として機能させるには、企業価値向上を大目的に、人的資本経営の目指す姿(To be)として何を設定し、現状(As is)とのギャップはどの程度埋まったのか、確認のための定量指標を設定することが大前提と言えます。そのうえで、取締役会として定める大方針に沿う形で、経営陣が従業員を横断的に巻き込んで人的資本経営を執行し、ギャップの埋まり方をその定量指標を通じて把握する。図表2からも各種対応状況は道半ばと見てとれますが、まずは、コアメンバーを部門横断でアサインのうえCHROらがそれをリードする、「人的資本タスクフォース」の立ち上げあたりからスタートし、自社の人的資本経営の姿(企業価値向上ストーリー)や必要なモニタリング指標、実務フローが定まってきた段階で「人的資本経営委員会」へと常設化するのも有効と言えます。
図表2
人的資本の経営とガバナンスの取組み実態

2.経営マターとなった先に実現されるもの
人的資本経営が真に経営マターとなり、取締役会アジェンダとしても扱われるようになれば、経営としてどのような形が実現されるのか。図表3は、「価値協創ガイダンス2.0」(経済産業省、2022年8月)のフレームワークの上から書きこみを行ったものですが、端的に言えば、人的資本経営が人事の中で閉じず、経営計画や役員報酬、そしてマテリアリティや全社リスクなど、各所と結びついていくはずです。人的資本の取組みだけを読んで投資を決める投資家はおらず、企業価値や経営戦略などと結びつけられると、投資の判断材料にも入ってくるでしょう。従業員を巻き込むうえでも、単なる人事上の対応課題としてではなく、自らが働く会社の企業価値を高めるための取組みとして説明されると、目の前の人事アクションの意味合いが腹落ちし、共感と推進力を得られるでしょう。更に、役員報酬のKPIとして人的資本関連の指標が設定されることで、人的資本経営を引っ張っていく経営層のリーダーシップと覚悟が、社内外に伝わることでしょう。加えて、従業員に自社株式を保有させることで、優秀人財・希少人財の確保や処遇向上に繋がるだけでなく、企業価値の向上という意識づけから従業員のエンゲージメント向上にも効いてくることでしょう。
図表3
価値協創ガイダンスで表現する、経営マターとしての人的資本経営

3.おわりに ―最新セミナーのご紹介―
人材版伊藤レポートにて、人的資本経営は人事部の現場マターではなく、経営が率先して対応すべき経営マターである、と言われてから4年近くが経ちます。直近でも今年6月11日、政府の経済財政諮問会議で示された骨太の方針では、「賃上げを起点とした所得と生産性の向上を通じて成長型の新たな経済に移行させる」とされ、人的資本はいよいよ国家マターとしても本格化してきたと言えます。
人的資本経営の取組み自体は、有価証券報告書への開示義務から加速しましたが、人的資本経営は経営マターであり、人的資本投資額の大きさからしても既に人事部門の範疇を超えて、取締役会でのアジェンダ設定と実質的な議論が今後必要になるでしょう。従業員の帰属意識や働き甲斐、経営意識の醸成、優秀な人財の獲得・引き留め、処遇向上など対応事項は山積みです。しかしながら、経営マターとしての対応必要性を多くの会社が感じていながらも、様々な“壁”にぶつかりそれを実現できないと悩む声が多く届いています。
このたびHRGLは、そんな皆様の背中を後押しするためのセミナー「全方位で取り組む人的資本経営 -取締役会改革から従業員株式報酬導入まで-」を企画いたしました。経営マターたる人的資本ということで改めてあるべき姿を確認のうえ、ネックとなる“壁”とその解消策をご紹介します。さらに、セミナーの後半では、その有効策として今注目を集めている「従業員向け株式報酬制度」についてもご紹介いたします。
本セミナーが、皆様の人的資本経営を一歩前へ進めるきっかけとなることを願ってやみません。
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
シニアコンサルタント
橋本 謙太郎 Kentaro Hashimoto
