HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

コーポレートガバナンス向上のための外部データ活用の意義

~HRGLコーポレートガバナンス・サーベイの取組み~

  • Corporate
    Governance
  • Nomination/HR
  • Compensation
  • Sustainability

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
プリンシパル

神山 直樹

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

早坂 勇祐

■ サマリー

近年、日本ではCGコード、CGSガイドラインの改訂、金融庁によるコーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムの公表などコーポレートガバナンス領域における変革の時を迎えている

これらの動きの中で、コーポレートガバナンス改革に必要なこととして、取締役会、指名委員会、報酬委員会の実効性向上が挙げられており、そのためには取組みの客観性の確保が重要となることが示されている

客観性の確保においては、コーポレートガバナンスに関するサーベイ調査などの外部データを活用し、他社と比較した自社の客観的な立ち位置を把握することが重要となる

そのほかにも、自社の目指すべきガバナンス像に向けたAs is – To beギャップの把握など、自社のオリジナルガバナンスの構築に向けた議論において様々な方法で客観データを活用することが可能である

サーベイには提供会社によって各社様々な特徴があるため、複数のサーベイを活用することで、自社の課題に対する多角的な検討や他のサーベイの妥当性検証が可能である。HRGLサーベイ参加企業においても他社サーベイと併用する企業も多く、セカンドオピニオンとしても活用されている

本サーベイでは、足元で求められている取締役会のあり方や独立社外取締役の機能発揮などのコーポレートガバナンス改革のテーマを2024年から調査に加える。これらのテーマについても最新の他社動向のデータを基に議論を行うことが議論高度化のためには有用であると考える

コーポレートガバナンス・サーベイ(CGサーベイ)受付中
~指名・報酬・人的資本に加え、取締役会などコーポレートガバナンス全般に調査拡充~
■サーベイ紹介ページ:https://www.hrgl.jp/service/compensationgovernance/compensationsurvey/
■結果報告会アーカイブ:https://forms.office.com/r/dbvfMWnCeq/
※2024年7月12日までの期間限定で23年サーベイ結果報告会のセミナーアーカイブをご覧いただけます

目次

目次を閉じる

1.取締役会や指名・報酬委員会の実効性向上が求められる

 近年、日本ではコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)やコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(以下「CGSガイドライン」)の改訂、金融庁によるコーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラムの公表などコーポレートガバナンス領域において大きな動きが続いています。また、2024年4月に金融庁で行われた「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた具体的な課題として、➀収益性と成長性を意識した経営、②サステナビリティを意識した経営、③独立社外取締役の機能発揮(取締役会等の実効性向上)が示され、日本企業には「コーポレートガバナンス改革の実質化」が求められていると言えます。
 これらの動きの中で、コーポレートガバナンス改革に重要なこととして、取締役会、指名委員会、報酬委員会の実効性向上が挙げられています。そのためには、CGコードやCGSガイドラインが求めているとおり、取組みの客観性の確保が鍵となります。CGコードでは、CEOの選解任や報酬制度設計において、客観性・透明性のある手続きを求めており(図表1)、また、CGSガイドラインでは、特に「経営陣の報酬の水準や構成の検討に当たっては、職務の格付けを行った上でグローバルな競合他社や目標とする他社をベンチマークとして勘案」することとされています。

図表1

CGコードにおける客観性・透明性の確保や取締役への情報提供に関する原則
出典:東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」よりHRGL作成

2.ガバナンス向上のための外部データ活用方法

 このように、取締役会や指名委員会・報酬委員会の実効性向上に向けて各種取組みの客観性を高めるためには、コーポレートガバナンスに関するサーベイ調査などの外部データを活用し、コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた取組み状況について、他社との比較による客観的な自社の立ち位置の把握が有効と考えられます。また、社外取締役を含む取締役に対し議論に必要な情報提供を行う点でも、コーポレートガバナンスの動向に関するサーベイレポートなどを活用することは有用であると考えられます。そのほか、外部データの活用方法として、「自社の目指すべきガバナンス像に向けたAs is – To beギャップの把握」、「指名・報酬委員会が自社のサステナビリティ戦略の実現に向けて貢献できているかなどの実効性評価」、「自社の経営方針に従い経営チームが力強い執行を担っているかに関する指名・報酬ガバナンスの観点からの定点観測」など、自社のオリジナルガバナンスの構築に向けた議論において様々な活用が可能です。
 ここでは、サーベイの主な活用方法の一つである自社の役員報酬の検討について見ていきます。報酬制度は、持続的な企業価値向上のために、会社のありたい姿・中長期的な戦略の実現や自社の重要課題(マテリアリティ)解決に向けて、経営者を動機付けることが肝要となります。効果的な動機付けには対象者本人の納得性が不可欠であることから、報酬制度には、経営者の期待値や責任に応じた報酬水準や適切な評価指標を活用したインセンティブ設計などが求められます。そのためには外部データを活用して他社とも比較することが有効です。サーベイには提供会社によって各社様々な特徴があるため、複数の外部データを活用することで、自社の課題に対する多角的な検討や他のサーベイの妥当性検証が可能となります。
 役員報酬水準の検討においては、各企業の戦略に沿った比較対象および目標水準を設定することが重要です。企業が目指す将来像、その将来像に至る戦略とともに、現在や将来の競合となりうる企業などを考慮し、報酬ポリシーとも整合性の取れたベンチマーク企業(ピアグループ)の選定基準(同業他社や会社規模(時価総額・利益水準)など)を検討します。当該ピアグループの中での自社の位置付けを比較検討するなど、ターゲットポジションを確認し報酬水準を決定することが一般的なアプロ―チとなります(図表2)。

図表2

外部データ(報酬サーベイ)活用イメージ
出典: HRGL作成

3.おわりに

 日本企業のコーポレートガバナンス改革は形式面では一定の成果は上げつつあるものの、実質化に向けた課題に多くの企業が直面しています。これまでの弊社サーベイでの実態調査を通して、企業間格差の広がりも明らかになってきました。また、前述のとおり足元では取締役会のあり方や独立社外取締役の機能発揮などのコーポレートガバナンス改革において、その実質化がより求められており、今後の重要な課題は、取締役会の運営のあり方や取締役会を起点とした執行体制の強化などガバナンス全般にわたる深化であると考えられます。HRGLの2024年コーポレートガバナンス・サーベイはこれらの重要課題を含むコーポレートガバナンス全般に関する調査を行い、開示情報から得られない取締役会の位置づけ・役割、社外取締役の評価方法、指名・報酬委員会の運営状況や役員の任期・定年、役員報酬額などといった企業の取組みに関する最新動向に基づき日本企業の現状を分析します(図表3)。サステナブルな成長を実現する経営リーダーおよび監督のあり方について実態調査を行い、変革に必要な情報を提供してまいりますので、皆様のコーポレートガバナンス改革の一助としていただければ幸いです。

図表3

HRGLサーベイで得られる情報
出典: HRGL作成

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
プリンシパル

Naoki Koyama

京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了、博士(人間・環境学)。製薬会社において、創薬研究、研究企画、経営企画、広報・IRに従事。企業が存在意義を持ち、インベストメントチェーンの中でどのようにして企業価値を高めて行けば良いかということを考えてきた。執筆論文に「先進事例に学ぶサステナビリティ・ガバナンス-独立社外役員の活用」(企業会計2020年9月号、共著)がある。

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

Yusuke Hayasaka

三菱UFJ信託銀行に入社し、市場部門において企画業務、新商品開発部署にてR&D業務を経験後、2022年10月よりHRガバナンス・リーダーズに出向。現在はコーポレートガバナンスに係るリサーチ業務に従事。