HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

経営チームを“システミック”に設計する

関係性と相互作用を注視してつくる強靭な経営会議体

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  • Sustainability

株式会社コーチ・エィ
取締役 会長

鈴木 義幸

■ サマリー

経営チームの組成を、役割に知識・経験・能力を当てはめるスキル・マトリックスだけで判断すると、見落とされやすいのが「メンバー間の相互作用」と「関係性の質」である。メンバーの組み合わせが生み出すダイナミクスを事前に想定し、議論の際のコミュニケーションに影響を及ぼすそれぞれの特性にも目を向ける必要がある。

個々の機能やケイパビリティに着目する「システマティック」な視点は経営チーム設計において欠かせないが、同時に、チーム全体を不可分一体のシステムとして捉える「システミック」な視点も導入してチーム組成することが重要である。

経営チームを一つのシステムとして捉え、事前に相互作用を見立てることは、人選の判断を個の能力評価だけに依存させないために重要である。こうしたシミュレーションを行うことで、関係性の調整や議論構造の改善に早期から取り組むことが可能となり、意思決定の質、チームの協働力、組織の学習力を着実に高めることができる。

目次

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1.経営チーム組成では“個”に加え“相互作用”を見る

 まず経営マッチングで見落とす“関係性の影響力”について説明します。経営チームをどのように組成するかは、企業のガバナンスの実効性を確保し、組織として持続的に価値を創出するためにも非常に重要なテーマです。
 社内取締役は誰をメンバーにするか、社外取締役は誰にお願いするか、執行役員は誰を任命するか。考えるポイントは多岐にわたります。
 もっとも基本的な選び方は、アサインする役割だけに着目し、その役割に最適な人材を配置する方法です。たとえば、社外取締役にAIに詳しい人を入れたい、ブランディングに強い人を入れたい、商品開発で実績のある役員を執行役員に任命したい、といった具合に、役割を知識・経験・能力のスキル・マトリックスで判断します。これは当然重要な視点です。
 しかし、個々の役割とのマッチングだけに注力すると、経営チーム全体のバランスが偏ることがあります。たとえば、全員が50代後半から60代前半の男性ばかりになるといった偏りは典型的です。
 こういった場合、多様性を確保するために女性や若手、外国人を加えるなどの対応策が検討されます。個々の役割とタレントのマッチングだけでなく、全体としてのダイバーシティにも意識を向けることはもちろん必要なのですが、さらに進めて考えてみるとどうでしょうか。
 つまり、どのようなメンバー構成だと、チーム内にどのような相互作用が生まれるだろうか、という点も想定してみると如何でしょうか。

2.組織を見る二つのレンズ

 次に、個を見る「システマティック」と全体を観る「システミック」について取り上げます。私たちコーチ・エィが提供するコーチングは、「システミック・コーチング」というアプローチをとります。
 「システミック」とは、全体を不可分一体のものとして捉える見方です。似た言葉に「システマティック」がありますが、こちらは、「個」が秩序だって並んでいる、揃っている様を表現しています。
 あくまでも説明のための例えですが、わかりやすく言うと、システミックは東洋医学的、システマティックは西洋医学的な見方に近いと言えます。
 例えば、腰の不調を例にとってみます。東洋医学は、患部である腰だけでなく、身体全体のつながりを観察します。首から肩、背中へとつながる筋肉は、どのように連動して動いているのか。腿、ひざ、足の筋肉との連動はどうか。加えて、体全体の温度や状態も確認します。一方で西洋医学は、患部そのものの「腰」に注目し、レントゲンやMRIで原因を特定し、場合によっては手術や薬で局所的に対処します。
 どちらが良いかではなく、全体に注目するか、個々に注目するかという、身体への対応の仕方の違いです。
 組織を見る場合も同じです。「システミック」な視点では、個人や個々の出来事を「点」として見るのではなく、「関係性の網(システム)」として捉えます。問題が生じた場合、それは誰と誰の関係性がもたらしているものか、どのような相互作用がその問題を繰り返し生じさせているのかを考えます。一方、「システマティック」な視点では、基本的には、個の能力やリーダーシップに注目します。この問題が解決できないのは、〇〇さんのケイパビリティが足りないからだ、リーダーシップが不足しているためだ、というように考えます。その結果、その人を別の人に入れ替えよう、あるいはその人をとにかく開発しよう、というアプローチで問題解決しようとします。
 本来、両方の視点を持つことで組織はより発展していくものですが、とりわけ経営チームの組成においては、西洋医学的なシステマティックな視点が優先されることが多いようです。
 経営チームに誰を加え、誰を抜擢し、誰を外部から招くのか、逆に誰をチームから外すのか。このような決定は、個々の能力や属性のダイバーシティに意識が向くことが多く、チーム全体としてどのような相互作用や成果が生まれるかを加味して考えることは少ないのではないでしょうか。
 例えば、トップの発言をほぼ全員が忖度し、そのまま受け入れるチームになるのか?常に侃侃諤諤の議論を巻き起こす相互作用が生まれるのか?という想定です。
 取締役会は議論すべき場だから、考えを述べて当然だろう、それは責務だろう、といった「べき論」を語っても、現実は必ずしもそうはなりません。認知スタイルやリスク感度、意思決定の速度、時間軸は人によって大きく異なり、しかも短期間では変わりません。そのため、同じ論点を前にしても、議論の前提や重視するポイントが揃わず、発言そのものが抑制されることがあるのです。
 ですから、個の能力や属性のダイバーシティばかりを重視するのではなく、議論の際のコミュニケーションに影響を及ぼすそれぞれの特性にも目を向ける必要があります。そのうえで、その人たちを「経営チーム」という一つの箱に入れたとき、どのような関係性やコミュニケーションが生まれるかを、事前にシミュレーションすることが有効です。仮に想定通りにならなかったとしても、事前にイメージをもっておくことで、チームの組成後に関係性を調整したり、チームのパフォーマンスを高める働きかけをしたりという動きが取れるのです。
 一方で、個々の能力や属性のダイバーシティだけに焦点を当てていると、全体のフローがうまく動かない時に、ただ誰かを責めたり、変えたりするだけで、関係性を変えようというアプローチに思いが至らない可能性があります。

3.経営チーム全体をシステムとして俯瞰してみる

 最後に、役員指名に必要な視点についてお話しします。経営チームの組成にも、西洋医学的な見方と東洋医学的な見方の両方が求められているように思います。
 ここで、私がエグゼクティブのコーチングをしているA社の事例を紹介します。
 ある時のコーチングセッションの場で、CEOは迷っている様子でした。
 「取締役にBさんを残すかどうか考えています。彼にはまだまだボードとして活躍して欲しいのですが…」
 「何が懸念点ですか?」と私が尋ねると、CEOはこう答えました。
 「新しく取締役に加わって欲しいと思っている人が2人います。彼らは50代前半で、Bさんは彼らにとって年上です。Bさんと同期のCさんは、今期で退任します」
 私は続けて問いかけました。
 「Bさんを残して、新しい2人が入り、Cさんは退任したとします。チーム全体をひとつの生物のように見た場合、どのように動く姿がイメージできますか?うまく連携して動くイメージは持てますか?」
 CEOは少し考えたあと、こう答えました。
 「Bさんは発信の影響力が強いですから、新しい2人は発言しにくいでしょうね。同期のCさんがいなくなるので、Bさんの影響力はより際立つように思います」
 その後もCEOとは何度か経営チームの組成について話を重ねました。私はコーチとして、誰かを推したり、違うと言ったりすることはしていません。それはコーチの役割ではないからです。コーチングの場では、CEOがメンバーの能力だけでなく、チーム全体をシステムとして俯瞰できるよう、問いを投げかけました。
 結果としてCEOは、Bさんは退任という方向性を指名報酬委員会に伝えたと聞いています。もちろん、長い目で見てどちらがよかったかはわかりません。ただ、個々の能力だけに重きを置いてチームを組成する場合と、「システミック」な観点も取り入れる場合では、判断が変わり得ることは十分に考えられます。

4.おわりに

 組織の長期的な安定性と成長を支えるためには、個の能力や属性だけでなく、チーム全体を不可分一体のシステムとして観る視点が不可欠であると私は考えています。この視点を意識することで、経営判断における短期偏重や個人への過度な依存を避け、組織全体として柔軟かつ持続的に成長する力を高めることができます。
 特に経営チームを組成する際のシステミックな視点の導入は、結果的に意思決定の質、チームの協働力、組織の学習力を向上させ、長期的に価値を生み続けられる経営チームの形成につながるでしょう。

ご参考

・株式会社コーチ・エィ公式ウェブサイト

Opinion Leader

株式会社コーチ・エィ
取締役 会長

Yoshiyuki Suzuki

慶應義塾大学 文学部人間関係学科社会学専攻 卒業
株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワン(のち株式会社化)の設立に携わる。2001年、法人事業部の分社化による株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月、代表取締役社長就任。2025年1月より現職。