次の株主総会に向けて押さえておくべき役員報酬議案の最新トレンド
-
コーポレート
ガバナンス Corporate
Governance - 指名・人財 Nomination/HR
- 報酬 Compensation
- サステナビリティ Sustainability
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
菅野 真吾
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
吉田 凪紗
■ サマリー
HRGLでは、TOPIX 500採用企業を対象に、2024年7月~2025年6月の定時株主総会で付議された役員報酬議案を調査した。本稿では、2025年度に顕在化したトレンドや注目すべき事例を整理し、2026年の株主総会議案の策定に向けたポイントを提示することを目的とする。
2024年~2025年定時株主総会では、TOPIX 500採用企業の約3社に1社にあたる148社が役員報酬議案を付議している。
2024年~2025年定時株主総会にて特徴的な役員報酬議案としては、「機関設計変更に伴う改定」(報酬枠や株式報酬制度の改定等)や「社外取締役の報酬額引き上げ」(役割強化等に伴う報酬枠の引き上げ)が見られた。また、社外取締役に対する株式報酬の導入(非業績連動型)等を求める「株主提案」も散見された。
2026年の定時株主総会議案策定に関するポイントとしては、①議決権行使助言会社や機関投資家の基準を踏まえ、自社の報酬制度設計に反映しながら議案を策定していくこと、②議案を含めた開示資料が投資家に対するエンゲージメントツールとなることを念頭に、法令上に定められている開示事項は網羅しつつも、分かりやすさやストーリー性を意識して策定することが重要であると考えられる。
目次
1.TOPIX 500¹採用企業における役員報酬議案の全体像
HRGLでは、TOPIX 500採用企業500社(2025年7月1日時点)を対象とし、2024年7月1日から2025年6月30日までの定時株主総会に付議された議案について調査・分析を行った。そのうち、役員報酬に関する議案を、①報酬枠の引き上げ、②株式報酬制度の導入(スキームの追加および切り替えを含む。以下同じ。)、③株式報酬制度の改定、④役員報酬支給の4つに分類し、企業数やその内容をまとめた(図表1)。
図表1
TOPIX 500採用企業の役員報酬議案事例まとめ

役員報酬議案を付議した企業数は148社(全体の29.6%)。約3社に1社は役員報酬に関する議案を付議していることが分かる。とりわけ目立ったトピックとしては「報酬枠の引き上げ」(91社)、「株式報酬制度の改定」(58社)が挙げられる。これは、株価上昇やインフレ対応といったテクニカルな面だけでなく、株主との利害一致や中長期的な企業価値向上のための戦略的な取り組みの一環として、インセンティブ性を高めるための報酬制度改定に取り組む企業が増加していることが背景にあると考えられる。
2.注目すべき役員報酬議案の類型
ここからは、2024年~2025年定時株主総会の役員報酬議案の中から特徴的であったものをいくつか取り上げる。
2-1 機関設計変更に伴う改定
「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2025」によれば、機関設計において「監査等委員会設置会社」の比率が、2017年の22.6%から右肩上がりに増加し、2024年には42.3%と約2倍にまで拡大していることが分かる²。
2024年~2025年の定時株主総会の役員報酬議案においても、「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」への機関設計変更に伴い、会社法上の要請に基づき役員報酬制度を改定する事例が見られた(図表2)。
図表2
機関設計変更に伴い役員報酬議案を付議した企業数

具体的な中身としては、単に取締役(監査等委員である取締役および社外取締役を除く。)と監査等委員である取締役の報酬枠に関する決議を取り直すに留まらず、金銭報酬枠・株式報酬枠の増額を図るものや、株式報酬制度自体の改定に関する議案も目立った。
ガバナンス強化や経営における意思決定の効率化を求め機関設計変更を行う一方で、中長期的な企業価値向上のためのインセンティブ性を高める報酬政策の導入が進んでいることが窺える。
2-2 社外取締役の報酬引き上げ
社外取締役には「実効性ある監督機能」が一層求められ、責任の重さや役割の拡大、専門的なスキルを持つ人材獲得競争の高まりを背景に、社外取締役の報酬水準を引き上げる動きが強まっている。2024年~2025年定時株主総会の役員報酬議案では、「社外取締役」の報酬枠引き上げを行った企業は41社に上る(図表3)。また、そのうちの過半数を超える企業が、「取締役」の報酬枠引き上げと同時に実施しており、役員報酬全体の底上げを図る企業も一定数見受けられる。
図表3
報酬枠引き上げに関する議案を付議した企業数(対象者別)

HRGLで実施した「2025年コーポレートガバナンス・サーベイ」³でも、社外取締役の報酬水準(中央値)は2023年~2025年で上昇傾向にある(図表4)。前述したように社外取締役の役割・責任の増大と人材獲得競争の激化を背景に、今後も上昇が続くことが予想される。
図表4
社外取締役の総報酬水準(中央値)の推移(2023年~2025年)

2-3 株主提案
アクティビスト活動の活発化に伴い、株主提案を受ける企業も増えている。本調査対象において株主提案を受けた企業は42社、そのうち役員報酬に関する株主提案を受けた企業は9社であった。これら役員報酬に関する株主提案の内容を見ると、社内取締役の業績連動報酬に関するもの、社外取締役の報酬に関するものの2つに大別される。
社内取締役の業績連動報酬に関しては、業績連動報酬比率の拡大を企図した株式報酬の導入または株式報酬の報酬枠引き上げを求めるものが多かった。併せて、株式報酬の業績連動指標としてROEやTSRを採用することを求める内容も散見された。ここから、株式報酬制度は「株主との利害共有を促進する制度設計になっているか」が重要な視点の一つであることが再確認できる。
また、社外取締役の報酬に関しては、優秀な人材獲得のための報酬枠引き上げや、社外取締役に対する株式報酬の導入(非業績連動型)を求めるものが見られた。取締役会が適切な役割分担の下で一体となり、中長期的な企業価値向上に向けた経営を進めることが求められている。役員報酬に関しても、このような経営を後押しする制度設計となっているか、社内取締役だけではなく社外取締役も含めたパッケージとして検討していくことが今後必要になってくるのではないかと考える。
3.2026年の報酬議案策定に向けたポイント
最後に、今年の報酬議案策定に向けたポイントを紹介する。
3-1 外部基準を能動的に活用した制度設計・議案策定
新たな報酬枠の設定・報酬制度等を付議する際には、議決権行使助言会社および機関投資家の基準を踏まえる必要がある。
たとえば、世界最大手の議決権行使助言会社であるISS(Institutional Shareholder Services)では、役員報酬増額の場合、業績連動報酬である場合や増加の具体的な理由を説明している場合には賛成推奨を行うとしており⁴、グラスルイスでは、報酬委員会に企業の成長と利益を促進するための役員報酬を決定する柔軟性が与えられるべき(つまり、報酬委員会等の委員の選解任が重要である。)としている 。⁵
また、野村アセットマネジメントや三菱UFJアセットマネジメント等の国内の機関投資家における議決権行使基準も各社独自の基準を設けている。業績連動要素を持たせた役員報酬制度を推奨する一方、業績不振時の報酬が同業と比して不当に高額となる設計⁶や、退任後の権利行使に限定されていない/特定の業績目標を条件としていない/据置期間が短い(2年未満)といった株式報酬制度の導入 に関しては反対する立場を示している。
実際に、2024年~2025年定時株主総会の役員報酬議案でも、株式報酬制度において、ストックオプションや特定譲渡制限付株式等から、より柔軟で効率的な制度設計を可能とする信託型株式報酬へスキーム変更を行い、業績連動性を高めた形での導入を付議する事例も数社見受けられた。また、2026年に入ってからも、たとえば中外製薬のように「特定譲渡制限付株式」から、より安定的で効率的な運営を実現するために「信託型株式報酬」にスキーム変更することを開示する企業 も見受けられる。
今後、上述したような外部基準を「遵守すべき規律」として受動的に消化するのではなく、自社の持続可能性と資本効率を点検するための“診断ツール”として能動的に活用し、報酬制度を中長期的な企業価値向上のための価値創造ストーリーの一部として位置づけていくことが求められるだろう。
3-2 “伝わりやすさ”に配慮した議案・開示
役員報酬議案の策定にあたっては、制度設計の中身もさることながら、「分かりやすく、誤解なく、ストーリー性をもって伝える」ことが極めて重要である。
実際には議決権行使基準を満たす内容であるにも関わらず、誤読等により議決権行使助言会社から反対推奨を受けてしまい、事務局が補足説明等の対応に追われるケースも見受けられる。法令上に定められている開示事項は適切に網羅しつつも、一読して正しく内容が理解できるような分かりやすい記載になっていることが望ましい。
具体的には、議案内容のポイントのみを簡潔にまとめた「概要欄」を設ける、議決権行使基準に照らして誤解が生じやすい箇所は図表を用いる、といった工夫が考えられる。
こうした開示上の工夫は、リスク回避のみならず、投資家とのエンゲージメント強化にも有効である。これは株主総会議案のみならず、事業報告や有価証券報告書、統合報告書を含む開示資料全般に共通する。とりわけ役員報酬制度にかかる開示は、自社の経営戦略と報酬戦略を一致させることで、投資家とのエンゲージメントツールになり得ると筆者らは考えている。自社が掲げる戦略の実現に資する報酬制度について本気で議論し、法定開示を超えた積極的な情報提供により、株主を含むステークホルダーにストーリー性を持って伝えることができれば、自社の戦略・目標の説得力と信頼性を高めることが期待される。
参考文献
1. 東京証券取引所(東証)上場銘柄のうち、時価総額と流動性の高い500銘柄で構成される企業群を指す。
2. 東京証券取引所「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2025(データ編)」9頁図表16。
3. サーベイ結果の詳細は、HRGL「10 年に一度の転機を迎えるコーポレートガバナンス改革──キーワードは『稼ぐ力』強化」(2025年10月17日)を参照。
4. ISS「2026年版日本向け議決権行使助言基準」(2026年2月1日施行)27頁。
5. GLASS LEWIS, 2026 Benchmark Policy Guidelines, p.38. なお、グラスルイスは2027年以降、一律的な助言行使を取り止め、顧客ごとにカスタムされた助言行使を行う方針を打ち出している。
6. 野村アセットマネジメント責任投資委員会「運用における責任投資の基本方針」(2025年11月1日)10頁。
7. 三菱UFJアセットマネジメント「議決権行使の方針」(2025年2月28日)(5)②。
8. 中外製薬「株式報酬制度の改定に関するお知らせ」(2026年1月29日)。
Opinion Leaderオピニオン・リーダー
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
菅野 真吾 Shingo Sugano
HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント
吉田 凪紗 Nagisa Yoshida