HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

グローバル動向とサステナビリティ・ガバナンス

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高崎経済大学学長
HRガバナンス・リーダーズ顧問

水口 剛

■ サマリー

グローバルレベルでサステナビリティは、現在、危機的な状況にある。本稿では、このグローバルの動きを俯瞰し、それを踏まえてサステナビリティガバナンスがどうあるべきなのか再考する。サステナビリティという概念は「成長の限界」(1972年)を起点とし、ブルントラント委員会の「持続可能な開発」(1987年)につながり、パリ協定採択(2015年)、そしてSDGsへと発展してきた。その結果、サステナビリティは現在では一般的な概念になった。

しかし、現在、グローバルに社会の分断が進んでいる。これは「民主主義の危機」であり、それがサステナビリティの進展を阻んでいる。なぜ社会が分断されるのか。それは社会が多様な要素が複雑に絡みあった大きなシステムであることに起因する。重要なことは、金融や経済のシステムが、その外側の社会や環境のシステムに様々な影響を与えるということである。そしてこの影響は金融・経済システムに跳ね返ってくる。

グローバルな課題は「私たちがどのような資本主義を選択するのか」ということと密接に関わっている。アメリカ型の株主資本主義は分断を助長し、中国型の国家資本主義にも問題がある。サステナビリティと民主主義を守るには、自由な市場経済と社会への配慮を両立するステークホルダー資本主義が望ましい。そして資本主義の起点となる投資家行動の分野では、環境や社会というシステムレベルのリスクを考慮することで市場平均リターンそのものを底上げするβアクティビズムが提唱されている。

投資家と並んで資本主義の主要なプレイヤーである企業も、サステナビリティをシステムレベルで考える視点が重要になる。そのためにはサステナビリティを「経営が対処すべき課題のひとつ」と考えるだけでなく、「経営のあり方そのもの」と捉える姿勢が欠かせない。そのような観点からサステナビリティガバナンスの意味も、改めて問い直すことが必要ではないか。

目次

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1.はじめに

 グローバルレベルでサステナビリティは、現在、危機的な状況にある。本稿では、このグローバルの動きを俯瞰し、それを踏まえてサステナビリティガバナンスがどうあるべきなのか再考する。最初に「今はどういう時代なのか」を考え、次にそのような時代を生んだ経済や社会をシステムという視点から解き明かす。その上で、このシステミックな課題に対処し得る資本主義のタイプについて検討し、最後にそのような資本主義を支える企業のサステナビリティガバナンスのあり方について考察する。

2.今という時代と民主主義

2-1 今はどういう時代なのか

 今という時代を捉えるためには、今だけを見ていたのではわからない。歴史を振り返ることで時代の特徴が見えてくる。ここではサステナビリティの歴史を振り返る(図表1)。サステナビリティという概念の出発点は、1972年、「ローマ・クラブ」¹が公表した「成長の限界」²というレポートである。そして1987年にブルントラント委員会が「我ら共有の未来(Our Common Future)」という報告書を出した。同報告書はその中で「持続可能な開発」(サステナブルデベロップメント)³という概念を提起した。これが現在のサステナビリティという概念の直接的な起源となった。五年後の1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットで、気候変動枠組み条約や生物多様性条約が採択された。この気候変動枠組み条約をもとに、2015年にはパリ協定が採択され、同年、SDGsが合意された。
 2015年は、世界が気候変動やサステナビリティのために協調していく機運が最も盛り上がった年であり、社会がこれから良くなるという期待を持つことができた最後の年として記憶されている。2016年にはイギリスがEUから離脱し(ブレクジット)、アメリカの大統領選でトランプ氏が大統領に当選した。2017年に第一次トランプ政権が発足すると、アメリカはパリ協定からの離脱を表明した。
 その後の変遷を見ると、ヨーロッパやアメリカで移民に対する反感が生まれ、ポピュリズムが生じた。特にアメリカではDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)という概念に対して強い反発が生まれている。ウクライナやガザでは戦闘が続き、アメリカはバイデン政権で一時的に復帰したパリ協定から2026年1月27日に再離脱した。社会は明らかに分断が進んでいる。このような状況を「民主主義の危機」と捉える声が強い。

図表1

今はどういう時代なのか
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

2-2 民主主義の危機とは何か

 ところが、今の状況を「民主主義の危機」と呼ぶことには強い反論がある。エミリー・フィンレイ(ペッパーダイン大学講師)は2022年に著した『民主至上主義(The Ideology of Democratism)』⁴の中で次のように指摘している(図表2)。
 「トランプ大統領の行為を見て、民主主義の危機だと批判する意見があるが、トランプ大統領は『民主主義という仕組み』で選ばれた大統領である。この大統領が行っていることを見て、それを『民主主義の危機だ』というのであれば、あなたは民主主義を信奉しているわけではない。それは、『民主主義という仕組み』によって選ばれた大統領であっても、ある特定の価値観に従っていなければ、民主主義だと思わないということを意味する。
つまりそれは、民主主義(デモクラシー)ではなくて、ある種のイデオロギー、すなわち『民主至上主義(デモクラティズム)』ではないのか」。

図表2

民主主義の危機とは何か
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

 だが私は、民主主義は単なる仕組みではないと考えている。民主主義は、自由、平等、人権といった民主的な価値の実現を組み込んだ概念である。たとえ民主主義的な仕組みに則っていても、自由、人権、平等などの価値が実現されていない状態はやはり「民主主義の危機」なのではないか。
 この自由、平等、人権という考え方はリベラリズムの考え方である。リベラリズムにも様々な歴史的な経緯がある。「古典的リベラリズム」では、生命、自由、財産は自然権であり国王といえども奪うことはできないと考える。一方、「近代リベラリズム」とは、自己の自由を守るためには他者の自由も尊重するという考え方である。これは人権や社会的公正を指向する立場である。近代的リベラリズムでは、自由とは、単に強制されないこと(消極的自由)だけでなく、自己の意思を実現できること(積極的自由)を目指している。これが格差是正・アファーマティブアクションにつながっていく。
 しかし、近年、リベラリズムは失敗したといわれている。それはなぜか。
 これについて、パトリック・デニーン(ノートルダム大学教授)は著書『なぜリベラリズムは失敗したのか』の中で、次のように述べている。「個人の選択があまりにも重視されるようになった結果、共同生活、助け合い、自己犠牲などの伝統が失われていった。そして極めて少数の人々に資本主義の恩恵が集中していくことになった。その結果、低学歴の労働者階級と高学歴のエリート層との対立が起こり、社会の分断を生むことになる。」
 これは私たちの社会が本当の意味でリベラリズムを重視していたわけではなく、むしろリバタリアニズム(国家や政府の介入を最小限とし個人の自由を最大化する考え方)であったことを示唆している。リバタリアニズムの具体化が株主資本主義、あるいは新自由主義(国家や政府の介入を最小限とし市場の自由競争を重視する経済思想)だと言ってよいだろう。では、なぜリバタリアニズムは社会の分断を招くのか。それは社会が多様な要素が複雑に絡みあった大きなシステムであることと関わっている。

3.グローバル社会のシステム

3-1 システムとは何か

 社会はシステムである。システムとは「複数の要素が互いに結びつき相互に影響し合うことで構成される全体」を意味し、日本語では「系」と訳される。例えば、生態系は、植物、動物、微生物などが光合成、食物連鎖、分解等を通じて複雑に結びついたシステムである。また金融システムは、資金と情報の循環を媒介に金融機関、個人、投融資先企業等が相互に結びついた複雑なシステムである。

3-2 システムの構造と「負」の連鎖

 システム同士が相互に結びつくことでさらに大きなシステムが形成される(図表3)。例えば金融システムの周囲には、より大きな経済システムが存在する。経済システムは、多くの企業と消費者や労働者が生産、雇用、消費を介して相互に結びついている。そして経済システムの外側には社会というシステムがある。社会システムは大変複雑で、教育システムや政治システム、あるいは人々が信じる価値観、規範などの価値システムなどで構成される。そのさらに外側には気候システムや水循環システム、生態系などからなる環境システムが存在する。
 金融システムや経済システムはその外側の社会システム、環境システムに様々な影響を与える。この影響は「外部性」と呼ばれ、プラスの影響となるものもあればマイナスの影響となるものもある。重要なことは、この金融システムや経済システムが生み出す外部性は、結局、金融システム、経済システムに跳ね返ってくるということである。

図表3

サステナビリティリスクを生む構造的要因
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

 現にこれらのシステムは互いに影響を与え合いながら「負」の連鎖を生んでいる(図表4)。例えば、経済システムは温室効果ガスの排出によって気候システムに影響を与え、気候システムの変化は生物多様性・生態系というシステムに影響する。逆に、森林減少のような生態系の変化は気候システムに影響を与える。そして、気候システムや生態系、生物多様性のシステムが毀損されれば、結果として農業生産や水産のような食料生産システムに影響を与える。 
 他方、経済システムがリバタリアニズムに傾くと経済格差が拡大し、社会の分断が進む。社会の分断が進行すると社会に対する不信感が高まり、ポピュリズムや自国中心主義が台頭してくる。ポピュリズムや自国主義が進むと国際的な協調関係が棄損され、それは結果的に国際協調が前提となる気候変動対策の停滞につながる。同時に、格差が拡大すると中間層が減少し、人口減少、少子化が進行する。人口減少、少子化が進行すると、社会の生産力と需要が共に減少し、経済の成長を阻害する。また人口減少は安全保障、食料生産に影響を与える。こうしてそれぞれのシステムが互いに影響を与え合いながら、ますます社会が悪化していくという「負」の連鎖が起きている。

図表4

システムがもたらす負の連鎖
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

4.目指すべき資本主義

4-1 どういう資本主義を選ぶべきか

 この「負」の連鎖を解消するには資本主義のあり方そのものを見直す必要がある。一言で資本主義と言っても、そこにはさまざまなタイプが考えられる。これを示すために二つの軸を用いて資本主義を図表5のように分類した。横軸は右に行くほど市場の自由に任せることを意味し、左に行くほど政府の統制や規制を強化する方向性を表す。縦軸は利益追求のあり方を表し、下に行くほど私的利益だけを追求することを、上に行くほど私的利益とともに社会的な利益も考慮することを意味している。
 図表5の右下は市場の自由を重視し、私的利益を追求するタイプの資本主義で、従来のアメリカ型の「株主資本主義(シェアホルダーキャピタリズム)」がその典型である。このような株主資本主義を純化させていくことが社会の分断を招くということは、近年、理解されてきた。これに対してトランプ大統領は、基本的には私的利益を重視すると同時に政府の統制を強化している。この意味で図表5の左下にシフトしているように見える。これはアメリカ型の株主資本主義との間においても論理矛盾を含んでいるように映る。
 一方、図表5の左上は、国家の統制を強化しながら社会全体の利益を考慮する資本主義を表す。この仕組みを純化したものが、中国型の「国家資本主義(ステートキャピタリズム)」である。この国家資本主義は、経済の発展や脱炭素政策などの面で、ある程度成功しているとも言えるが、課題もある。特に、思想や表現の自由が制約され、人権が毀損されやすいことが問題である。
 自由や人権という基本的な価値を守りながら、社会の分断を防ぎ、気候システムや生態系も守っていくためには、それが如何に難しい道であっても、自由な市場のメカニズムと社会的利益への配慮を両立させていく必要がある。それが図表5の右上にある「ステークホルダー資本主義(ステークホルダーキャピタリズム)」である。今、多くの企業がパーパス経営を掲げているが、それはまさに、市場の自由な競争の中で、社会的利益の考慮と株主利益の追求を両立させるステークホルダー資本主義の立場の表明にほかならない。

図表5

どういう資本主義を選ぶのか
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛先生)プレゼン資料より抜粋

4-2 ユニバーサルオーナーシップとβアクティビズム

 一方、ファイナンス理論の立場から、自由な市場経済のもとで環境や社会のシステムを守ることの経済的な合理性を説いたのが「ユニバーサルオーナーシップ」という理論である。これは、ジェームス・P・ホーリー(カリフォルニア・セントメリーズ大学教授)とアンドリュー・T・ウィリアムズ(カリフォルニア・センとメリー大学准教授)が著書『フィデューシャリー・キャピタリズム』(2000年)の中で初めて提起した。ユニバーサルオーナーとは「巨額の運用資金を保有し幅広い産業や資産に分散投資をする機関投資家」を意味する。事実上経済全体に投資をしているユニバーサルオーナーにとって、個別企業の個々の投資リターンに注目することにはあまり意味がない。投資先となる経済全体が順調であることが結局は彼らのポートフォリオ全体の利益を守ることになるからである。ESG投資の起点となった責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)が公表されたのは2006年だが、それより前の2000年にすでにユニバーサルオーナーという考え方が提起されていたことは特筆に値する。
 そして、このユニバーサルオーナーシップという理論をより具体化したのが、『「良い投資」とβアクティビズム:MPT現代ポートフォリオ理論を越えて』(ジョン・ルコムニク、ジェームス・P・ホーリー、日経BP日本経済出版社)で提起された「βアクティビズム」という概念である(図表6)。
 ポートフォリオ理論とは分散投資によってポートフォリオ全体のリスクを低減できることを示した理論である。しかしどんなに分散投資をしても消去できないリスクがあり、それを市場全体に連動するリスクという意味でシステマティックリスクと言う。このシステマティックリスクに対して、投資家は一定のリスクプレミアムを求めることになる。これが市場平均リターンである。すると、パッシブ運用においては市場平均リターンを実現することが目的となり、アクティブ運用では市場平均リターンを上回るリターンを追求することになる。この市場平均を上回るリターンのことを「α」(アルファ)と言い、高いαを実現すれば優れた投資家として評価されるという、αに注目する文化が生まれた。
 同時に現代ポートフォリオ理論は、市場平均リターンは、多くの投資家の行動が集まった結果であるため個々の投資家にはコントロールできない、すなわち市場平均リターンは「所与」であるという通念を生んだ。
 しかしルコムニクとホーリーはこの現代ポートフォリオ理論には大きな欠陥があると指摘する。彼らは「αは投資家が得られるリターンのうちの6%~25%に過ぎず、残りの75%~94%の部分は市場平均リターンによりもたらされる。そしてこの市場平均リターンは所与ではなく、投資家の行動によって変えることができる」と言うのである。この市場平均リターンに焦点を当てる投資が「βアクティビズム」である。これは単なるイデオロギーではない。的確に利益を上げていくための金融理論である。ルコムニクとホーリーは「大きな利益を上げるためには、現代ポートフォリオ理論に則りαを追求するより、市場全体を安定させ経済活動の基盤を守ることを通じて市場平均リターンを底上げしていくこと(βアクティビズム)の方が重要だ」と説明している。
 これは、市場における自由な投資行動を通じて社会全体の利益を守るという意味で、図表5の右上の象限に位置付けられる考え方であり、ステークホルダー資本主義と共通の方向性を志向するものと言ってよいだろう。

図表6

現代ポートフォリオ理論を越えて
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛先生)プレゼン資料より抜粋

5.目指すべきサステナビリティガバナンス

5-1 どのような経営を目指すのか

 それでは上で述べたβアクティビズムの考え方は、企業の経営にどのように応用できるのだろうか。そして企業はどのような経営を目指すべきであろうか(図表7)。
 現在、「稼ぐ力」という言葉が盛んに聞かれる。個別企業としての利益追求はもちろん重要である。しかし、自己の利益追求だけに焦点を当てることは、いわば投資家がαだけに注目することに等しい。個別企業が自己の利益のみを追求することで、気候変動や生物多様性の喪失、経済的不平等、人権侵害など様々なネガティブな影響を環境や社会のシステムに与えれば、それは結果的に経済システムに跳ね返ってくる。そして市場平均リターンに相当する経済活動の基盤を損なうことにつながる。安定した環境や社会は企業が「稼ぐ力」を発揮するための基盤であり、企業はその中でしか「稼ぐ力」を発揮できないという現実に目を向けるべきである。
 例えば、少子化が進展し、労働人口が減少し続ける中で、自社だけが人的資本経営を推進することが可能だろうか。また社会がサステナブルでないのに、自社だけがサステナブルであるということは現実的だろうか。そう考えると、個別企業としての利益を追求するα的な思考は重要であるものの、まず経済活動の基盤を守り、市場平均リターンの底上げをした上で、その上に自社利益(α)を積み上げていくという発想が必要なのではないだろうか。そのような観点から、サステナビリティガバナンスのあり方について改めて考えてみよう。

図表7

どのような経営を目指すのか
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

5-2 サステナビリティガバナンスの考え方

 ここまでの議論を踏まえて考えた時、サステナビリティガバナンスとは、どうあるべきだろうか。そこには二つの捉え方があるだろう(図表8)。第一の捉え方は、サステナビリティを「経営が対処すべき領域の一つ」と考える見方である。すると「サステナビリティ経営」とは、脱炭素、人権対応、情報開示/報告書作成、評価機関対応など、これら一つひとつの課題にいかに対応するかという問題に帰着する。そのためのガバナンス体制がサステナビリティガバナンスだとすれば、それは指名ガバナンスや報酬ガバナンスと並ぶガバナンス領域の一つと位置づけられるだろう。このような捉え方は一般的によく見られるが、結局、自社の企業価値に目を向けたα思考に他ならない。
 これに対して第二の捉え方は、サステナビリティを「経営のあり方全体に関わる概念」と位置付ける見方である。この場合のサステナビリティ経営とは、経済活動の基盤を支える社会全体のサステナビリティを守るため、ネガティブな影響を減らし、ポジティブな影響を与える戦略やビジネスモデルなど、経営全般に及ぶことになる。するとサステナビリティガバナンスも、単にガバナンスの一領域ではなく、戦略やビジネスモデルを含む経営全体のモニタリングということになるだろう。この捉え方は、社会全体のサステナビリティに視野を広げたβ思考といえる。

図表8

サステナビリティガバナンスとは何か
出典:「グローバル動向とサステナビリティガバナンス」(高崎経済大学 学長 水口剛)プレゼン資料より抜粋

6.おわりに

 本稿では今はどういう時代なのかという時代認識を出発点にして、経済・社会・環境システムが相互に密接に影響し合うことから、自由な市場メカニズムの中に環境や社会などのサステナビリティへの配慮を組み込んでいくことの重要性を見てきた。それが経済活動の基盤を守り、市場平均リターンを底上げすることにつながるからである。そのような新しい資本主義の姿がステークホルダー資本主義であり、金融理論からはβアクティビズムという提案があることを紹介した。このように考えると、サステナビリティガバナンスのあり方も、単にガバナンス領域の一つと捉えるだけでなく、社会のサステナビリティに資する戦略やビジネスモデルのモニタリングも含んだ経営全体に関わる概念と捉える必要があるのではないか。サステナビリティガバナンスの形式を整えることも重要だが、それ以上に、サステナビリティガバナンスが浸透することで実質的に社会のサステナビリティが守られることを願っている。

参考文献

  • 1 1970年に設立された民間組織。世界各国の科学者、経済学者、政策立案者、教育者や企業経営者などで構成され、公害、環境破壊、貧困、天然資源の枯渇化など人類が直面する脅威を緩和、回避することを目的に研究、啓蒙活動をしている。https://www.jcer.or.jp/column/kojima/index431.html
  • 2 著者はD.H.メドウズ,D.L.メドウズ,J.ランダース, W.W.ベアランズ三世。「地球の生態系は、人間の人口増加、生産、汚染、そして一般的な意味での経済成長を吸収できる能力には限界がある」と警告した書籍。30か国語に翻訳され3000万部以上販売された。https://donellameadows.org/archives/the-history-of-the-limits-to-growth/
  • 3 将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく,現在の世代のニーズを満たす開発を意味する。この概念は,環境と開発を互いに反するものではなく共存し得るものとして捉え,環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えに立脚する。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/sogo/kaihatsu.html
  • 4 民主主義は理想化された人民の意思を反映している限りにおいてのみ、本物で真正なものであるとする信念。人民の声を歓迎するとしながら、実際のところ民主至上主義者たちは、人民の現実の声を反映するのではなく、民主至上主義者自身の見方を人民に奨励するエリート支配に傾いているとする主張。(エミリー・B・フィンレイ著, 加藤哲理訳:「民主至上主義」柏書房,p. 9, p. 334, p. 336)

Opinion Leader

高崎経済大学学長
HRガバナンス・リーダーズ顧問

Takeshi Mizuguchi

筑波大学卒。商社、監査法人等の勤務を経て、1997年高崎経済大学経済学部講師。2008年教授、2017年副学長を経て、2021年より現職。環境省「グリーンファイナンスに関する検討会」座長、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」座長等を歴任。主な著書に『ESG投資-新しい資本主義のかたち』(日本経済新聞出版社)、『責任ある投資-資金の流れで未来を変える』(岩波書店)、『サステナビリティ基準がわかる』(共著、日本経済新聞出版社)、『意図をもつ金融-インパクトファイナンスのすべて』(監修、きんざい)など。