HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

「稼ぐ力」を最大化する経営執行体制・経営チームの構築

その③ 執行体制強化に向けた執行組織、CxOの在り方

  • Corporate
    Governance
  • Nomination/HR
  • Compensation
  • Sustainability

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
        シニアマネージャー

岡村 佑太

■ サマリー

企業の「稼ぐ力」を高めるためには、経営チームの強化が不可欠です。そこで、経営執行体制や経営チームの構築についてのメールマガジンをシリーズで配信しています。本稿は第三号となる「執行体制強化に向けた執行組織、CxOの在り方」について説明します。※こちらより第一号第二号はご覧ください

経営戦略の成功には、経営チーム(トップマネジメントチーム)の在り方が重要です。経営チームの構築には、戦略を実現するための適切な組織や機能の特定、経営チームとしての役割や必要なポジション(CxO)の明確化、各経営陣のミッション・ステートメント(役割・責任)の設定が必要です。

経営戦略を実現するための組織や機能を特定する際には、経営の軸を設定することが重要です。事業ポートフォリオの組み換えやさらなる成長投資など中長期視点の経営を必要とするフェーズでは、全体最適の視点が求められます。最近では、全社視点での意思決定の必要性から、コーポレート機能の重要性が増しています。

組織や機能を特定した後は、社長・CEOを中心に経営チームとしての役割分担を考える必要があります。役割分担を行う際には、CEOのケイパビリティを踏まえつつ、各経営チームメンバーに何を任せるか、どのような役割を担ってもらうかを明確化することが重要です。

最終的には、明確化されたポジションを基に経営チームメンバーのミッション・ステートメントを設定します。ミッション・ステートメントは、経営チームメンバー一人ひとりに求められる役割や責任であり、いかにコミットメントされた状態を作り出すことができるかがポイントです。そのためには、社長・CEOから経営チームメンバーに対して期待値を明確に伝え、その期待値を基にミッション・ステートメントを言語化することが重要です。

目次

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1. 経営チーム(トップマネジメントチーム)組成の考え方

1-1 経営チーム組成の論点

 シリーズ「『稼ぐ力』を最大化する経営執行体制・経営チームの構築」では、第1号として「執行強化が求められる背景と課題」にて社長・CEOによる「会社をこうしたい」という強い想いが重要な起点となる点、そして第2号「執行体制強化を促進する監督側」において、社長・CEOの力強い推進の必要性、監督側から執行側に対してあるべき執行の方向性を示すことの重要性を説明しました。

 第3号以降では、執行体制強化に向けた具体的な方法論・論点について示していきます。本号では、「経営チームの在り方」を価値創造ストーリーの観点から整理し、監督側から委譲された権限を活用し、企業価値向上と経営戦略実現に向けて、どのように強靭な経営チームを構築すべきかを解説します。(図表1参照)

図表1

価値創造ストーリーを実現する経営執行体制・経営チーム組成の検討項目
出典:HRGL作成

1-2 強靭な経営チーム構築のステップ

 強靭な経営チームを構築するには、以下の3ステップで検討を進めることが重要です。

① 経営戦略を実現するために必要な組織/機能の特定
② 経営チームに求められる役割と必要なポジション(CxO等)の特定
③ 経営陣のミッション・ステートメント(役割・責任)の明確化

 まずは①の組織・機能の特定から始め、次に②役割とポジションの明確化、最後に③各経営陣の役割・責任・ミッションを設計し、具体的な活動へとつなげます。①~③を進めることで、戦略実現に向けた強靭な経営チームを構築します。以降の章では、各①~③について具体的な考え方を説明します。

2. ①戦略実現に向けた必要な組織/機能の特定

2-1 戦略と連動した組織/機能設計

 強靭な経営チームを組成するための出発点は、経営戦略と連動した「組織/機能」の特定です。シリーズ第二弾では、「経営チームとしてどのような機能が必要か」を明確にし、コーポレート機能軸と事業/地域事業の2つの軸で責任の所在を定義することの重要性を説明しました。

 一般的に、単一事業を中心とした経営ではコーポレート機能軸を重視し、事業の多角化が進むと事業軸、さらにグローバル展開により地域に権限を委譲する場合は地域軸を中心に組織を設計するケースが多く見られる傾向です。 

2-2 コーポレート機能軸の重要性

 一定の規模に成長した組織では、事業軸または地域軸を中心とした組織設計が多く見られますが、事業ポートフォリオの組み換えやさらなる成長投資など中長期視点の経営を必要とするフェーズでは、全体最適の視点が求められます。

 また、昨今においては、既存事業の成長の鈍化や変化する市場環境への対応により、イノベーションの創出や新たな事業領域の開拓の必要性が高まっており、経営資源の再配分、顧客基盤の共有化、研究開発機能の充実などの推進が重要であり、このような観点からも全社視点から意思決定を行うことが必要となっています。

 さらに、事業軸のみで経営を進めると、機能の重複やコスト増が発生しやすくなります。特に中長期の成長戦略を描く上では、全社視点を取り入れた効率的な経営設計が求められ、以下のような横断的機能の強化が求められます。

・人材戦略(CHRO:Chief Human Resource Officer)

・技術・イノベーション戦略(CTO:Chief Technology Officer、CIO:Chief Information Officer)

・ESG・ステークホルダー戦略(CSO:Chief Sustainability Officer)など

 適切な組織の軸を選定できないと、経営戦略の達成が難しくなり、ガバナンス不全に陥るリスクもあります。

 このように各社における経営のフェーズや市場環境等を踏まえると、事業軸・地域軸だけでなく、コーポレート機能軸の要素をどのように取り入れるかがポイントとなっています。事業、地域そして機能をどのように組み立てるかということを、過去からの流れだけでなく、ビジョンに基づき戦略実践の観点から検討していくこと、つまり中長期の時間軸で検討することが重要になります。

3. ②経営チーム(トップマネジメントチーム)として役割・必要なポジション(CxO)

3-1 経営チームにおける役割分担

 必要な「組織/機能」を特定した後、それをベースに経営チームとしての役割・必要なポジションを設定します。これらは単に組織に対して個別のポジション(職務)を明確化するのではなく、「経営チームとしての在り方」を踏まえることが大事です。昨今の経営環境においては、「経営チーム」としていかに環境変化に適応できるかが重要となってきており、経営チームとしての多様性やダイナミック・ケイパビリティ(環境の変化に合わせて保有するリソースを組み替え、適応するように自己変革していく能力)の獲得が求められています。

 経営チームの役割分担を設計する際には、以下の観点が重要です。

・社長・CEOの強みやケイパビリティを踏まえ、チームとして相互補完すること

・中長期戦略を見据え、各メンバーに委ねる領域を明確にすること

・重要な経営資源(人材・技術など)に対して、CHROやCTOといったポジションを設け、戦略実行を支える体制を構築すること

 また、経営メンバーに求められる資質(例:組織を牽引するリーダーシップ、経営視点での意思決定力、CEOのビジョンの実現力・推進力など)を明確に定義し、人選の基準とすることが必要です。

3-2 コーポレート機能軸を考える際の留意点

 機能軸の要素を取り入れる際に留意すべき点として、グループ・グローバルに広く展開している企業においては、各コーポ―レート機能の権限の範囲が異なることがあげられます。

 例えば、財務機能であれば、財務や資金管理は、グループ全体で統一されたルールの基づき集権的に運営する必要があります。一方で事業戦略立案機能であれば、グループ内の事業領域や事業環境が多様であるため、各セグメント・子会社がボトムアップで市場や競争環境に応じて独自の戦略を策定することが必要であり、より分権的に運営することが求められます。

 これらは業務そのものの流れや特性がコーポレート機能によって異なることに起因しており、グループとしてのガバナンスの在り方をどうするかという点と関連します。このように機能の在り方を企業によってどのように位置づけるかが重要となってきます。コーポ―レート機能軸はガバナンスとも密接に関連しており、権限そのものに影響してくるので留意が必要です。(図表2参照)

図表2

コーポレート機能の権限範囲
出典:HRGL作成

3-3 CxOの本質的役割

 経営チームのポジションとして、最近よく話題になるのがコーポレート機能軸を中心としたCxOポジションです。CxOはコーポレートガバナンス強化の文脈でも語られており、執行の責任者を明確にする動きが加速し、グループやグローバルに展開する大企業を中心にCxO制度の導入が広まっています。2022年のCGSガイドラインでCxO設置が推奨されたことで、さらに加速しました。

 ここで、CxO制度を導入するにあたって、CxOの本質的役割について整理します。CxOは短期・中長期の視点で経営の重要な意思決定を行うことが求められ、管掌領域によっては株主や投資家との対話も行います。また、異なる領域のCxOや従業員との対話など、自分の管掌領域に留まらない幅広いステークホルダーとのエンゲージメントが求められます。この点が、いわゆる部門長とは大きく異なります。

 さらに、CxOには短中期から長期の視点で経営全体の意思決定を行うポジションもあれば、グループやグローバルの視点で特定機能に特化したポジション、さらには地域や子会社の社長・CEOなど、様々なCxOポジションがあります。これらは前述のコーポレート機能の権限の範囲とも関連し、当該CxOに求められる責任と権限が決まります。(図表3参照)

 このように、CxOといっても様々なポジションがありますが、重要な点は、CxOが特定領域の最高責任者として、社長・CEOと同じ視点で経営の未来を描き、共に重要な意思決定に関わることです。それこそが経営チームの一員としての役割です。

 次に、CxOの兼務について整理します。現状、日本企業のCxO兼務パターンは主に以下の3種類です。

取締役を兼務:CxOが取締役として監督側の視点を持つ活動を行うかどうかに影響します。監督側として経営のモニタリングを行う際、自らが取締役として全社視点を持つ必要がある場合は、取締役兼務が効果的です。欧米の経営チームでは、CEO以外のCxOとしてCFO(Chief Financial Officer)がボードに加わり、CEOと共に経営戦略について議論するケースがよく見られます。

部門長を兼務:多くの日本企業で見受けられます。例えば、CHRO兼人事部長というポジションがありますが、その多くは人事部長の延長として設定されています。部門長と兼務すること自体は問題ありませんが、CxOよりも部門長としての役割が中心となるケースは注意が必要です。

CxOを兼務:CTO(Chief Technology Officer)とCDO(Chief Digital Officer)など、類似領域での兼務がよく見られます。ポジションごとの役割が明確であり、兼務することで高い価値創造につながる場合は問題ありません。

 以上のように最近はCxOブームとしてやや過熱気味であり、企業によっては多くのCxOポジションが設定されているケースも見受けられます。その場合、CxOが本質的な役割を担えているかは疑問が残ります。経営チーム設計においては、CxOの役割・兼務形態を整理し、組織内の責任分担と連携を明確にすることが重要です。

図表3

CxOの位置づけ
出典:HRGL作成

4. ③経営陣のミッション・ステートメント(役割・責任)の設定

4-1 ミッション・ステートメントの設定

 続いて経営チームとして役割が定まった後、各経営陣のミッション・ステートメントの明確化を行うことが重要です。ミッション・ステートメントは、経営陣一人ひとりに求められる役割・責任のことであり、自身の役割・責任に対してコミットされた状態をいかに作り出すかがポイントとなります。そのためには、社長・CEOから各経営陣に対して期待値を明確に伝えることが重要であり、その期待値を踏まえてミッション・ステートメントとして言語化します。

 また、ミッション・ステートメントはただの飾りではなく、経営陣の活動にまで落とし込みを行わないと意味がありません。企業によっては、経営チームメンバーが自身の役割・責任、さらに毎年の具体的な活動まで明確化し、それをCEOのみならず指名委員会へと伝え、その活動の進捗を追いかけているケースもあります。ミッション・ステートメントは作成して終えるのではなく、活動にまで落とし込みを行うことでその価値が発揮されるのです。

4-2 執行強化のフィードバックサイクル

 ミッション・ステートメントは役員の評価制度・報酬制度にも大きく関係します。最もわかりやすいケースで言うと、各経営陣の役割・責任をもとに、具体的な業績目標や個人目標の設定(KPI設定)へと繋がっていきます。例として、CHROが人的資本経営の推進をミッションとして掲げ、そのKPIとして人的資本ROIを設定する等です。そのKPIの達成状況に応じて報酬インセンティブが決定されます。

 また、ミッション・ステートメントから業績目標や個人目標、その評価・報酬への繋がりは経営執行強化の観点からフィードバックシステムが効果的に動いているかどうか判断することも重要です。(図表4参照)

①活動結果の改善/新たな目標の設定
 活動の結果を踏まえ、次年度の新たな目標に繋げているか。
 (報酬委員会にてモニタリングを実施)

②経営メンバーとしての役割の再設定
 結果に応じて経営陣の役割・責任そのもののアップデートが行われているか。
 (報酬委員会にてモニタリングを実施)

③経営メンバーとしての再任/解任
 パフォーマンス結果や経営リーダーとしての資質を踏また再任がなされているか。また、その役割を担えない場合は解任も選択肢として検討できているか。
 (指名委員会にてモニタリングを実施)

④ 経営戦略の見直し/新中期経営計画の策定
 企業活動の結果を踏まえ、今後の戦略そのもののアップデートに繋げているか。
 (取締役会にてモニタリングを実施)

 上記のように大きく4つの観点が考えられ、より強固な経営チームとして構築を行っていくのであれば、それぞれの観点から改めて経営チームの在り方について検討することが望ましいです。

図表4

執行強化のフィードバックサイクル
HRGL作成

5. 最後に

 環境変化の激しい昨今においては、社長・CEO一人の力で経営を推進するのではなく、経営チームとしての活動が重要となります。企業の「稼ぐ力」を高めるには経営チームの実質的な強化が必要であり、今回はそのための「経営チームとしてあり方」を中心に述べてきました。
 その他、経営チーム組成においては、執行役員制度そのものについても十分な検討を行うことが重要です。執行役員制度は、各社独自の運用に委ねられているため、その実態はブラックボックスとなっています。結果的に、執行役員の数が多くなり重層化・肥大化が生じているケースも多々見受けられます。
 そのような状況において、効果的に経営チームを運営していくためには、誰にどのような権限を付与すべきかを定めることが重要となります。経営戦略と連動したポジションであることを組織として明示する、つまりは役割に応じて経営メンバーを序列化すること(グレーディングの実施)も検討することが望ましいです。この考えは経営チーム内で担う役割の大きさに応じた報酬の設計等にもつながります。
 さらに、経営チームメンバーである執行役員は雇用制度(委任型・雇用型)に関しても昨今各社での動きがあります。経営チームのメンバーであれば、社長・CEOと同じ目線に立ち、成果へのコミットメントを高めるためにも委任型の執行役員体制とすることが望ましいと考える企業が増えています。ただし、執行役員のサクセッションの観点から、若手の抜擢・登用を見据えて一部雇用型を残す等、柔軟な仕組みとすることは検討の余地があります。
 今回示した経営チームの在り方(組織/機能、経営チームの役割分担・CxOの在り方、ミッション・ステートメント)は企業の「稼ぐ力」を高めるための基盤となります。この基盤を強化することで、企業としての「稼ぐ力」の持続的な発揮がなされ、中長期的な企業価値の向上の実現へと繋がります。

\HRGL主催 「CGフェス」開催中!/
HRGLでは、2025年4月30日に経済産業省より公表された「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」を受け、政府や関係機関と連携し、本ガイダンスの普及・実践を後押しするため、「CGフェス」と題し、セミナーやメールマガジンを通じた情報発信を強化しています。本メルマガの「『稼ぐ力』を最大化する経営執行体制・経営チームの構築」シリーズも、引き続きお届けしてまいりますので、各社様のご検討や実践の一助となれば幸いです。

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
        シニアマネージャー

Yuta Okamura

一橋大学大学院商学研究科修了。
外資系コンサルティング会社、政府系投資ファンド、ベンチャーコンサルティング会社等を経て現職。
指名・人財ガバナンス領域にて、執行役員改革、人的資本経営推進を中心にプロジェクトに従事。