HRガバナンス・リーダーズ株式会社

 

非業務執行取締役への株式報酬を後押しする英国FRC

日本企業への示唆を読み解く

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HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

早坂 勇祐

■ サマリー

2025年11月、英国の財務報告評議会(FRC)は、コーポレートガバナンス・コードの補足文書であるCorporate Governance Code Guidanceに、非業務執行取締役(non-executive directors)への株式報酬等に関する記載を追加および改訂した

この改訂では、非業務執行取締役による株式保有の有効性や、非業務執行取締役に対する報酬の一部として株式の支給が可能であることが明示された。株式保有や株式報酬によって、株主との利害共有を促し、長期的なコミットメントや関与の強化などの効果が期待できる。その際、独立非業務執行取締役の報酬については、中長期的な意思決定に資するよう留意するとともに、利益相反、独立性などの観点で適切に設計することの必要性を示している

今回の改訂は、英国政府による規制改革の流れを受けたものである。英国政府は、非業務執行取締役への株式報酬が可能であることを明確化することにより、英国企業が非業務執行取締役の獲得競争力を高めることが趣旨であると公表している

日本においても、社外取締役への株式報酬の有効性や留意点について、経済産業省のCGSガイドラインに同様の説明が既にある。また、運用機関等による反対を懸念する考え方もあるが、現在は一律に反対するケースは減少している

社外取締役に対する株式報酬を適切に活用することは、中長期的な企業価値向上に繋がると考えられる。社外取締役などの非業務執行取締役への株式報酬を後押しする考え方が広がっていることを踏まえ、日本企業は自社にあった役員報酬のあり方を検討し、各社のオリジナルガバナンスを構築することが求められる

目次

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1.非業務執行取締役への株式報酬の動向

 2025年11月に、英国の財務報告評議会(FRC)は、コーポレートガバナンス・コードの補足文書の一つであるCorporate Governance Code Guidance(以下「CGコードガイダンス」)について、独立取締役を含む非業務執行取締役(non-executive director)に対する報酬として自社株を支給することなどに関する記載を追加および改訂しました¹。CGコードガイダンスとは、コーポレートガバナンス・コードの考え方であるコンプライ・オア・エクスプレインを踏まえ、具体的な取組みなどが説明されている補足文書です。今回の改訂により、非業務執行取締役の報酬について、一定の留意は必要としつつも、株式報酬を含めた柔軟な報酬制度が可能であることが明確になりました。
 英国において、非業務執行取締役は、ステークホルダーを代表して経営陣を監督し、中長期的な視点で経営陣と建設的な議論を行うことなどが求められています。英国のコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会議長の独立性に加えて、議長を除く取締役会の半数以上を独立非業務執行取締役が占めるよう求められており、独立した立場からの監督が重視されています。
 近年は、株主との利害共有によるコーポレートガバナンスの実効性向上や人材獲得の観点から、独立取締役を含む非業務執行取締役への株式報酬の有効性が注目されるようになってきています。弊社調査結果によると、米国の大企業のほとんどの企業が非業務執行取締役等への株式報酬を導入していることが明らかとなっています(図表1)。一方で、英国や日本においては、一部の企業が導入しているものの、大企業でも1割程度にとどまっているのが現状です。その背景には、運用機関等による反対を恐れていることなどが考えられます。これまでは独立非業務執行取締役や社外取締役への株式報酬には慎重な考え方が根強くあったものの、現在は一律に反対する運用機関等は減少してきています
 本稿では、今回の改訂内容やその背景を概観するとともに、日本企業への示唆として社外取締役に対する株式報酬の期待効果や日本における主要な運用機関の動向をみていきます。

図表1

非業務執行取締役等への株式報酬の導入割合
注:米国、英国企業については非業務執行取締役、日本企業については社内監査委員および社外取締役への株式報酬の有無を調査。調査対象企業は以下のとおり(2025年1月末時点)
・米国:2024年1月~12月に決算期を迎えたS&P500構成企業のうち、2025年4月30日時点でプロキシーステートメントを公表済みであり、かつターゲット構成比を開示している時価総額上位100社
・英国:2024年1月~12月に決算期を迎えたFTSE350構成企業のうち、2025年4月30日時点でアニュアルレポートを公表済みであり、かつターゲット構成比を開示している時価総額上位100社
・日本:TOPIX500のうち2023年4月~2024年3月に決算期を迎え、連結報酬等を開示している時価総額上位100社
出典:各社の開示資料を基にHRGL作成

2.英国CGコードガイダンスの改訂内容

 2025年11月のCGコードガイダンスの改訂内容を確認します(図表2)。今回の改訂では、パラグラフ322と324が追加され、パラグラフ323には意図を明確化するための修正が加えられました。
 今回追加されたパラグラフ322は、非業務執行取締役による株式保有の有効性を示しています。株主との利害共有により、長期的なコミットメントや関与の強化を可能としています。なお、多くの英国企業が非業務執行取締役の自社株保有を推奨しているという記載は、英国や米国において、株式保有ガイドラインによるアプローチが普及していることと関連していると考えられます。英国では非業務執行取締役に基本報酬と同額の株式保有を求めるケースもみられます。
 また今回修正されたパラグラフ323は、非業務執行取締役の報酬について述べており、報酬の一部を株式で支払うことが可能であることを明示するとともにステークホルダーへの説明責任の必要性に言及しています。FRCによれば、このパラグラフは意図を明確化するために修正を加えたとしています。非業務執行取締役への報酬は、現状では固定の現金報酬が多いことを踏まえて、コーポレートガバナンス・コードの趣旨に沿って株式報酬も可能であることを明示しています。
 そして今回追加されたパラグラフ324は、独立非業務執行取締役の報酬について代替的なアプローチが選択可能としつつ、業績連動性に関する留意点を示しています。代替的なアプローチとは、固定の現金報酬以外の株式支給も含む設計などを指していると考えられます。また、業績連動性とは、評価指標の達成状況によって支給金額や株式数が増減する設計を指していると考えられます。ポイントとしては、独立取締役の報酬において、業績連動性は経営陣への監督や経営陣との建設的な議論を妨げる可能性があるため適切ではないこと、短期的な意思決定を促したり、利益相反を生じさせたり、独立性を損なうことのない報酬体系の設計に注意を払うべきこと、アプローチをアニュアルレポートに記載することを強調しています。本パラグラフでは、独立非業務執行取締役の報酬について、業績によって変動しない固定型の株式を含めることが可能であることを示唆しており、これまでは独立性への慎重な捉え方もあった中で、注目すべき点といえます²
 今回の改訂は、英国政府が進めている規制改革の動きが背景にあり、政府の方針と整合した内容となっています。英国政府は、生産性向上や経済成長の推進などを目的として、2025年3月に規制改革の方針を発表しました。
 非業務執行取締役の報酬に関する改革の方向性は、2025年10月に公表されたアップデートに記載があります³。そこでは、「経済全体にわたる規制が迅速で予測可能かつ企業にとって適切であるようにし、また、現代に適応したものとなるようにする」ことの一環として、「FRCは、CGコードガイダンスを明確化し、非業務執行取締役への株式報酬が適切であることを明示する。これにより、英国の上場企業が国際的な舞台で最高水準の人材を獲得する力を強化する」としています⁴。
 前述のとおりCGコードガイダンスはコーポレートガバナンス・コードに沿った取組みなどを具体的に示すための補足文書という位置づけです。コーポレートガバナンス・コードには、「取締役会議長やすべての非業務執行取締役の報酬には、ストックオプションやその他の業績連動要素を含めるべきではない」(Provision 34)と記載されたままです⁵。CGコードガイダンスを改訂したFRCとしては、こうした記載が英国上場企業の人材獲得における競争力向上の障壁になることを懸念したと考えられ、本改訂を通じて英国大企業の1割程度にとどまるプラクティスを英国内で普及させていくことで、グローバルベースで優秀な人材獲得に繋げたい意図があるとみられます。英国企業のプラクティスはグローバル大企業が参考にしていることから、今後は国際的な動向としても広がる可能性があると考えます

図表2

CGコードガイダンス(改訂後の内容)
注:筆者訳
出典:FRC “Corporate Governance Code Guidance”よりHRGL作成(参照 2025年12月22日)

3.英国の動向を踏まえた日本企業への示唆

 日本企業においても英国上場企業の動向は参考になります。特にコーポレートガバナンス改革の実質化の鍵を握る社外取締役のあり方は今後の大きなテーマになるでしょう。投資家の負託を受けて経営を監督する社外取締役には、投資家の考えを理解し、中長期的な視点で経営者と建設的に議論した上で、経営トップと投資家とのコミュニケーション強化を後押しする役割発揮も求められています
 一方で、社外取締役には積極的に経営陣のリスクテイクを促すインセンティブが乏しく、自身の経歴に傷がつくことを恐れリスク回避的になりやすいことや、企業価値向上への意識や取締役会の一員としての当事者意識に課題があるなどの指摘もあります⁶。
 その対応策として、社外取締役に対して会社の中長期的な企業価値向上へのインセンティブを適切に付与するための有効手段となるのが株式報酬です。2025年4月に経済産業省が公表した「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」においても、「株主と目線を合わせる観点から社外取締役へ自社株報酬を付与すること(略)も考えられる」と言及されています⁷。
 日本政府主導のコーポレートガバナンス改革は、英米政府の取組みを参考にして進められてきました。社外取締役への株式報酬に期待される効果は、2022年の経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の中で既に説明されており、株主との利害共有、中長期的な企業価値向上へのインセンティブの付与などが挙げられています。また、業績条件の付されていない株式報酬は弊害が少ないため有効であると言及しています。これらは、独立性を保ちつつ短期思考に陥らず株主目線を強化するという点で株式報酬の有効性を示しており、英国のCGコードガイダンスの内容とも考え方は共通しているといえます。
 現在は、英国と同様に日本においても社外取締役の報酬は固定の現金報酬が中心であり、図表1でみたとおり株式報酬を導入している企業は限定的となっています。このような社外取締役への株式報酬については、従来は独立性などを懸念する考え方があり、運用機関もその導入には慎重な姿勢を示す場合がありました。しかし、近年は、一律に反対する運用機関は減少しています
 主要な運用機関等の議決権行使基準等を基に、社外取締役への株式報酬に対する姿勢を確認します(図表3)。これらの運用機関等の多くに共通するのは、業績連動性が無い場合には一律には反対しないという考え方です。これは、前述した英国のCGコードガイダンスの記載とも整合しています。また、2025年にはアムンディ・ジャパン、ニッセイアセットマネジメント、三井住友トラスト・アセットマネジメントが、業績連動でないことなどの一定の条件を満たす場合には反対しない方針に改訂しています。今後、こうした流れはさらに広がる可能性があると考えられます
 このように、社外取締役などの非業務執行取締役への株式報酬を後押しする考え方は国内外で拡大しています。社外取締役への株式報酬は適切に活用することで企業価値向上に繋がる取組みであり、日本企業においてもこれから益々検討、導入が求められると考えます。今回の改訂のニュースリリースにおいて、FRCのCEOのコメントには「ワンサイズフィッツオールではない。良いガバナンスとは自社に最適なアプローチを見つけることである」という言葉があります。日本企業には、今回の英国動向なども踏まえて、自社に適した監督や役員報酬のあり方を議論し、オリジナルガバナンスを構築することが求められているといえます

図表3

主要助言会社・運用機関の議決権行使基準等(社外取締役への株式報酬について考慮する内容)
注:  各社の役員報酬議案に関する議決権行使基準等において、社外取締役への株式報酬(通常型ストックオプション等は除く)について考慮する内容を調査した。本図表は、各社が定めるすべての基準を網羅しているものではなく、詳細は各社の議決権行使基準等を参照されたい。
※1: 2025年に基準を改訂し、株式報酬に反対する対象者から社外取締役を除外している。
※2: 行使条件として、一定の業績を達成することが条件となっていない場合は賛成を推奨しないとしている。ただし行使条件として、付与から3年間未満は行使が禁止されている場合、あるいは退職前の行使が禁止されている場合は、業績条件がなくとも例外的に反対を推奨しないとしている。
※3: 社外取締役に限らず、株式報酬に関する基準として、株式の売却等の制限に関する基準が定められている。
出典:各社ウェブサイトの議決権行使基準等よりHRGL作成(参照 2025年12月22日)

参考文献

  • 1 Financial Reporting Council (2025) FRC updates guidance on non-executive director remuneration to support good governance,
    https://www.frc.org.uk/news-and-events/news/2025/11/frc-updates-guidance-on-non-executive-director-remuneration-to-support-good-governance/(参照 2025月12月22日)
  • 2 コーポレートガバナンス・コードでは、独立性を損なう可能性がある状況として、ストックオプションや業績連動報酬制度への参加などを挙げている(Provision 10)。本改訂はこれらの趣旨を明確化するものと捉えられる。
  • 3 HM Treasury (2025) Regulation Action Plan - Progress Update and Next Steps, https://www.gov.uk/government/publications/a-new-approach-to-ensure-regulators-and-regulation-support-growth/regulation-action-plan-progress-update-and-next-steps(参照 2025月12月22日)
  • 4 括弧内は筆者訳
  • 5 Financial Reporting Council (2024) UK Corporate Governance Code 2024. 括弧内は筆者訳
  • 6 経済産業省(2022年)「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」p.65
  • 7 経済産業省(2025年)「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンスガイダンス」p.46

Opinion Leader

HRガバナンス・リーダーズ株式会社
コンサルタント

Yusuke Hayasaka

三菱UFJ信託銀行に入社し、市場部門において企画業務、新商品開発部署にてR&D業務を経験後、2022年10月よりHRガバナンス・リーダーズに出向。現在はコーポレートガバナンスに係るリサーチ業務に従事。